ESG投資推進は年金受給者を敵に回し、プーチンを喜ばす

米国で先日、企業年金の運用者に対して実質的に「ESG要素を取り入れた投資をするな」とする法案が上下両院で可決されました。

これに対しバイデン大統領は20日に拒否権を行使しました。大統領就任後初めてのことです。

議会上院は左派の民主党が過半数の議席を持っています。造反議員が出たということです。ESG投資への懐疑の目が政治にも大きく波及しています。

バイデン氏、議会のESG投資規則不承認巡り初の拒否権行使
https://jp.reuters.com/article/usa-congress-esg-biden-idJPKBN2VM1Q6

ESG投資への逆風は急速に強まっています。世界のESG投資額は2021年末に3兆ドル近くのピークに達しましたが、その後減少し、昨年9月には2.24兆ドルにまで1/4程度減少しました。

画像ソース: Fortune

世界最大の資産運用会社であるブラックロックの元シニアエグゼクティブは昨年10月に出版した書籍のなかで、ESG投資への懐疑的な見方を記しました。

昨年末、バンガードは世界最大の気候変動金融グループである脱炭素金融同盟からの脱退を表明しました。

ESG投資への表向きの批判はESG基準に対するものです。ESG基準はいまだ共通の標準的な評価基準が策定されておらず、同一の企業でも各ESG評価機関の独自算定基準により評価が異なる場合があるほどです。

ただ、ESG投資の本当の問題はもっと別のところにあります。

最大の問題は十分なリターンやキャッシュフローを提供してくれるとは言い難いことです。

ESG債は通常の債券より利回りが低いですし、再生可能エネルギー事業は歴史が浅いため、キャッシュフローの赤字を垂れ流しながら多額の資本を借入や増資により調達しなければなりません。

中央銀行がゼロ金利・量的緩和政策を続けている間は、こうしたESG関連資産に投資する余裕がありました。

しかしいまは違います。インフレ、金利上昇、量的引き締めにより市場は不安定化し、財務の弱い企業は存続の危機に立っています。

現在の厳しい金融環境でファンド運用者が受託者責任をきちんと果たすために、キャッシュフローが安定している企業に投資しなければなりません。ESG重視なんてきれいごとは言っていられないのです。

他にもESG投資推進を妨げることがあります。経済安全保障の問題と正面から対立することです。

西側の銀行は油田・ガス田の開発プロジェクトへの融資を縮小してきました。しかしこれにより石油・ガスの需給逼迫を進め、その生産・輸出国であるロシアの財務を潤すことに貢献しました。

さらに脱炭素を推進するためには、バッテリー、モーター、送電線、太陽電池、風力発電タービンなどを製造するために膨大な量の資源・素材が必要となります。

西側と露中の対立が深まり供給網が分断してきている中で、経済安全保障の観点から、米国は自国や豪州などのパートナー国でこうした資源・素材の生産を増やさなくてはなりません。そのためには二酸化炭素を排出してでもまだまだ化石エネルギーの使用が必要です。

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