毛沢東回帰路線を進める習近平、中国で常態化する洪水・伝染病

中国政府はここ最近、ICT企業の統制を強め、習近平思想を小中高および名門大学で必修化し、英語教育の廃止を進め、「共同富裕」という社会主義・共産主義的スローガンを唐突に掲げだしました。
 
中国共産党創設100年という節目の年に、「先富論(先に豊かになれる者をまず富ませよう)」を打ち出した鄧小平の路線を大きく軌道修正し、毛沢東時代に逆戻りするかのような雰囲気にあります。
 
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中国の中南部では例年どこかの地域で豪雨や大雨に見舞われ洪水被害を受けますが、近年はその被害のスケールがますます大きくなっている印象を受けます。
 
昨年の夏、長江流域では6月から断続的に大雨が降り、コメ農地を中心に中国の全耕地面積(約1億3486万ヘクタール、2017年時点)の約15%もの農地が被害を受けました。
 
長江中流域にある世界最大の水力発電所である三峡ダムは建設以来最高水位を記録し、「ダムが崩壊し、下流域にある上海が水没するのでは」との懸念が国内外で出ました。
 
また雲南省などでサバクトビバッタが大量発生し、農業被害が出ました。大雨が続くと草が枯れるのが遅くなるため、バッタが繁殖しやすくなります。
 
今年は7月に河南省で記録的豪雨が降り、省都の鄭州市にあるダム湖の水位が警戒水位を超え、市民に知らせず緊急放流を行った結果、市内全域が浸水状態に陥り、高速道路の地下トンネルと地下鉄が水没しました。
 
鄭州市当局は地下トンネルと地下鉄の水没事故の死者数は合わせて20名だとしていますが、地元の情報をもとにしたある推計では合わせて6000-7000人が溺死や窒息死などで亡くなったと言われています。
 
 
一方で一部地域は逆に少雨と猛暑の影響を受け、産業活動や世界市場に影響を与えています。
 
広東省、雲南省、広西チワン族自治区、浙江省などで、今年5月から夏にかけて少雨と猛暑に見舞われました。
 
その結果水力発電量が低下し、電力供給制限がかけられました。現在供給制限は緩和されていますが、ピーク時には英国、ドイツ、フランス、日本の面積を合わせた規模で制限がかけられました。
 
この電力不足が一つの原因となり、広西チワン族自治区でアルミニウム生産に上限が掛けられました。製錬で大量の電力を消費するためです。
 
世界のアルミニウム生産量の6割を占める中国で生産制限が掛けられたことから、アルミニウム価格は10年来の高値となっています。
 
 
中国は新型コロナウイルスの感染予防は世界と比較して成功しているようですが、人に感染しないウイルスの感染拡大には失敗してきました。
 
2018年から19年にかけてアフリカ豚熱が蔓延し、およそ半分の家畜豚が殺処分され供給不足に陥り、19年後半に豚肉価格が高騰しCPIに大きな上方圧力がかかりました。
 
2020年に入りアフリカ豚熱は収束し、豚肉価格の高騰は一旦収まり、めでたしめでたし、となるはずでした。
 
しかしエコノミスト誌によると、20年終わりごろから再びアフリカ豚熱が急速に拡大しているとのことです。
[2021/08/28 The Economist]African swine fever is spreading rapidly in China, again
 
今年上半期の感染確認件数11件で、すでに昨年一年間の2倍に達しています。中国政府はアフリカ豚熱の発生件数をかなり過少報告しているとみられており、実際はもっと感染が広がっているとみられます。
 
豚市場について信頼できる情報を提供してきた2つの中国のコンサルティング会社が、ここ数ヶ月のうちに何の説明もなく突然閉鎖したという不気味な出来事も起こっています。
 
中国の養豚業者の4割は家族経営であり、多くは十分な資金や衛生対策のノウハウを持っていません。
 
豚に与える餌にはしばしば人間の食事の残飯が混ぜられており、その中に感染した肉が含まれている場合があり、これが感染原因となる場合があります。
 
養豚場の近くでアフリカ豚熱の感染が確認されると、養豚業者は豚価格の暴落を恐れて売りに走ります。
 
感染した豚が市場に拡散するだけでなく、豚価格が暴落し多くの養豚業者が経営破綻します。
 
この悪循環で、中国の養豚業界が悪影響を受け、豚供給量が急速に落ち込む結果、最終的に豚価格の急騰を招きます。
 
 
中国では少なくとも2018年から今年にかけて、毎年大規模な洪水と伝染病が起こっていることになります。客観的に考えればいつ飢餓や食料価格の急騰が起きてもおかしくない状況に置かれています。
 
三峡ダムの崩壊リスクはゼロになったわけではありません。
 
中国では賃金上昇ペースを上回る住宅価格と教育費の高騰も大きな経済・社会問題となっています。
 
原材料価格の高騰で生産者物価指数は高い水準が続いており、いつ消費者物価指数に反映されてもおかしくない状況にあります。
 
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一つの事実として、中国共産党が最も恐れるのはインフレであり、物価上昇は1989年に北京の天安門広場でデモが広がった一因となっています。
 
習近平氏が人民・企業の統制を急速に強めていますが、インフレ悪化とそれに伴う暴動への恐れを部分的にでも反映しているのでしょうか…?