ネットアップとオールフラッシュアレイ市場の分析

今回、ストレージベンダー・クラウド関連サービス提供会社のネットアップについてお話します。

ネットアップの事業だけでなく、オールフラッシュアレイ市場の学習の材料にでも今回の記事をお使いください。

ネットアップの業績は、コロナパンデミックの影響のあった2020年夏以降、好調が続いてきました。

ここ2年で売上は15%、営業利益は19%程度伸び、収益と利益率の双方が伸びました。営業利益率は20%台に再び達しました。

業績を牽引しているのは、オールフラッシュアレイとパブリッククラウド向けサービスの2つです。

オールフラッシュアレイからの売上は会社全体の過半数に達し、パブリッククラウド向けサービスを合わせると会社全体の6割近くあります。

オールフラッシュは構成要素のすべてがフラッシュメモリであるため、従来のストレージより利益率が高いです。パブリッククラウドサービスは、IT関連サービス部門ですので粗利益率が70%程度と元々高いです。

利益率の高い2つの成長分野が売上の大半を占めるようになったことで、収益だけでなく収益性も高まってきました。

オールフラッシュ市場は昨年に大きく飛躍しました。

サプライチェーンの混乱により、昨年の外付けストレージ市場全体は前年比2%縮小しました。そのなかでオールフラッシュ市場は14%成長しました。

昨年第4四半期のストレージ出荷量に占めるオールフラッシュの割合は17%近くに達し、過去最高を記録しました。

昨年オールフラッシュ市場が好調だった根底には、世界の企業や政府のクラウド化が進み、取り扱うデータ量やデータセンター・企業内サーバー間のデータのやり取りが右肩あがりに増える状況があります。

クラウド化が進むなかで、ハードディスクと比べてはるかに高速にデータのやり取りが可能で、障害に強く、高セキュリティのオールフラッシュの需要は現在も、そして今後も大きく増えていきます。

近視眼的に見ると、オールフラッシュの売れ行きを左右するのは、ハードディスクドライブ(HDD)やハイブリッドストレージ(HDDとフラッシュストレージを組み合わせたもの)に対する値ごろ感です。

昨年はオールフラッシュの値下がりが続いた年で、第4四半期には過去最安値となり、HDD/ハイブリッドストレージとの価格差は6.0倍程度から4.5倍にまで大きく縮小しました。

これが昨年のオールフラッシュの好調な売れ行きにつながったのです。

近年、パブリッククラウドサービスを強化するために無理のない範囲で買収を進めてきました。

2020年7月にイスラエルのスポット社、2021年10月にクラウドチェッカー社、今年の2月にフィラミント社の買収を発表しました。

ネットアップは買収したスポット社の技術をベースに、昨年はじめに「スポット・バイ・ネットアップ」というパブリッククラウドサービスを開始しました。

これはパブリッククラウドの利用料金の試算や、AIを使って自動的にサーバー・コンテナ利用にかかるコストを最適化するサービスです。

当初、コストを削減できるとのうたい文句で企業は次々とパブリッククラウドを導入していきましたが、場合によってはコスト高になることが広く認知され始めています。

利用する企業側が、様々なパブリッククラウドを上手に活用し、コストを最も削減できるハイブリッドクラウド環境の構築・運用する必要性が高まっています。

スポット・バイ・ネットアップを使うことで、企業はクラウドの運用管理に時間や人員を割かずとも、コストを大幅に削減してクラウドを使ったメイン業務に集中することが出来るようになります。最大75%費用削減できるそうです。

2021年以降のネットアップの買収は、いずれもスポット・バイ・ネットアップのサービス強化を目的としたものです。

ネットアップは戦略的に買収をしてきたことがわかります。

ネットアップの業績は好調です。パブリッククラウドサービスでは売上が一年で2倍近く伸び、オールフラッシュの売上成長率は市場平均を大きく上回っています。

しかし新たに一つ、悩みの種が生まれています。サプライチェーンの混乱や原材料高による費用増への懸念です。

すでに影響は出ています。パンデミックによる航空貨物運賃の値上げは止まっておらず、中国・上海の都市封鎖はグローバル物流をますます混乱させています。今後は燃料価格の上昇も反映されていきます。

さらにロシアによるウクライナ侵攻の影響も加わるかもしれません。

ウクライナは世界にネオンの7割を供給しています。ネオンは、シリコンウエハーに微細回路を刻むためのDUV(Deep UV)露光工程で使われます。

オールフラッシュはNAND型フラッシュメモリーをストレージに100%使ったものですが、NAND型フラッシュメモリーの製造で、ほぼ確実にDUVを使います。

そのためネオンの供給不足が長引けば、オールフラッシュの供給が減ったり価格上昇は避けられなくなります。

上述の通り、オールフラッシュの売れ行きは短期的に値ごろ感で決まります。

オールフラッシュが値上がりすれば、一時的に顧客は購入を控えやすくなります。

先ほどお見せした図をもう一度みると、HDD/ハイブリッドストレージに対するオールフラッシュの割安さは過去最高水準です。価格サイクルからみても、オールフラッシュの値ごろ感はピークにあります。

今後しばらく、オールフラッシュの販売ペースは鈍化しそうです。

今後ネットアップはしばらく、原材料や製品の調達費用の増加と売上成長ペースの鈍化の両方に見舞われそうです。

★ネットアップに関するもっと詳しい情報や投資への活かし方については、アボマガ・エッセンシャルの記事をご覧ください。