サムスン電子の半導体分野での競争力低下が露わになってきた

サムスン電子の状況が芳しくないようです。

昨年の営業利益は前年比85%減の6兆5400億ウォンとなる見通しで、10億ウォンを下回るのはリーマン危機の起こった2008年以来となります。

半導体市況の低迷で、半導体部門で大幅な赤字を記録したためです。

営業利益こそ黒字ですが、フリーキャッシュフローは10兆ウォンを上回る赤字になりそうです。業績悪化に加え、半導体製造工場への設備投資が急増しているためです。

でも決算の数字以上に気になるのは、競争力が落ちているように見えることです。

●スマホ

サムスン電子の稼ぎ頭の一つであるスマートフォンでは、昨年に世界の出荷台数でアップルに抜かれ、2010年以来13年ぶりに首位陥落してしまいました。

●DRAM

最大の稼ぎ頭である半導体部門に目をやると、サムスン電子が最大のシェアを持つDRAM市場で、同じ韓国企業のSKハイニックスに猛追されています。

昨年7~9月期にサムスン電子とSKハイニックスの世界シェアはたった半年間で10ポイント以上も差が縮まり、いまでは4.6ポイント差しかありません。

サーバー、データセンター向けのDRAMやAIサーバーで使用される広帯域メモリー (HBM)でSKハイニックス製のものが売れているためです。これらメモリーではSKハイニックスはサムスン電子を抜きシェアトップになっています。

特許戦略とエヌビディアとの提携が、サーバーやAI向けメモリー分野でSKハイニックスが急速に力を伸ばしている要因のようです。

サムスン電子が認証を取得した最先端のDRAMはSKハイニックスより1~2世代前のものです。この調子だと早晩、DRAM市場全体でもSKハイニックスにシェアを抜かれ2位に転落し、差は開いていきそうです。

●ファウンドリー

論理チップのファウンドリー分野でもサムスン電子の競争力は落ちています。

サムスン電子は4ナノプロセスにおいて35%と言う低い歩留まりを叩き出し、性能も電力効率も大して向上せず、ファウンドリーとしての評価をがた落ちさせました。

2大顧客であるクアルコムとエヌビディアは、新世代チップの製造をTSMCに移し、サムスン電子は重要な顧客を失いました。

最先端プロセスの3ナノについてはTSMCも苦戦しており、TSMCとサムスン電子の歩留まりはともに50%程度と言われます。

しかし失った信頼を取り戻すことは難しく、サムスン電子は3ナノについてはAMDやクアルコムなどスマートフォンやコンシューマー向け半導体企業からの受注は得られておらず、最初の顧客は暗号通過マイニング関連企業というありさまでした。

さらに微細化で遅れていたインテルも、4年で5つのプロセスノードを開発・量産するという野心的目標を掲げ、そのロードマップに沿って急速に微細化を進めています。昨年終わりには遂にEUV露光装置を用いたチップの量産が始まりました。

3社は2ナノの量産に向けて設備投資と開発を進めていますが、量産開始予定時期は以下の通りです。

・TSMC:2025年

・インテル:2024年終わり(インテル18A)

・サムスン電子:2025年(モバイル向け)、2026年(データセンターなどのハイパフォーマンス・コンピューティング向け)

どうも、2ナノの量産でサムスン電子はTSMCだけでなく、インテルにも追い抜かれそうです。

サムスン電子は半導体、スマホ、ディスプレイ、通信機器などの事業を持つコングロマリット企業であり、半導体分野でもファウンドリーとメモリーの両方の事業を行っています。

コングロマリット企業は、実行力のあるCEOのもとで拡大していくことは出来ても、それを引き継いだCEOが巨大企業を成長させていくことはとても難しいです。

かつてジャック・ウェルチ元CEOのもとで世界的な巨大コングロマリット企業となったGE(ゼネラル・エレクトリック)は、ウェルチ氏が退いてから衰退が進み、解体が進み、今年4月にゼネラル・エレクトリックという社名の企業は姿を消します。

サムスン電子の現CEOは、先代会長の李健熙(イ・ゴンヒ)氏とは違い、シェア低下を招いた事業部門長を交代させることなく経営陣の椅子に座らせ続けているなど、実行力が特別あるように思えません。

サムスン電子がGEのように解体するわけではありませんが、実行力の高くない凡庸なCEOが就いているコングロマリット企業であれば、経営判断は遅れやすくなり、資本を選別した事業に絞って迅速に集中投下することは難しくなります。

サムスン電子の競争力低下は、企業構造そのものに問題があるのかもしれません。だとすれば根は深く、簡単に解決することは難しいでしょう。