アナログ半導体などの旧世代チップについて、情報や考えを整理したく、今回の記事を書きました。
きっかけ:
・最先端チップの供給過剰が進行したなか、旧世代チップの供給不足が続いているとの報道を目にしたこと。
・ゼロコロナ政策下の中国で電気自動車の販売台数が前年比50%以上の増加が絶好調で、テスラが値下げに迫られるなど、中国のEV市場の競争がますます激化していること。
・半導体設計会社のアームの車載用チップの売上が2倍になり、今後自動車向けを成長ターゲットにするとの報道を目にしたこと。
半導体と聞いて思い浮かべるのは、CPUなどの論理チップやメモリに使われる、5ナノや3ナノといった最先端かそれに近い微細化が進んだチップでしょう。
パソコン、スマートフォン、データセンター向けに搭載するこうしたチップは、現在かなりの供給過剰となっています。
リモートワーク特需の反動が起こったことや、アルファベットやメタといった大手ICT企業の広告収入の減少でデータセンター向け投資を控えているためです。
供給過剰は概ね今年秋ぐらいまで続く見通しですが、今後の世界の景気動向次第で回復が遅れる可能性もあります。
しかし一方で、アナログ半導体やマイクロコントローラーユニット、パワー半導体は供給不足が続いており、リードタイムはますます長引いています。
こうした半導体は微細化が進んだチップとは異なり、90ナノ~300ナノのはるかに大規模で古いプロセスノード上に構築されることが多いです。
こうしたチップは車載用チップのほぼ3分の2、産業用チップの57%を占めており、自動車業界ではいまもチップ不足で新車製造への支障が残ったままです。
TSMC、インテル、サムスン電子といった最先端チップを受託製造する企業は、半導体市場の悪化を受けて規模をやや縮小したものの、それでも毎年数百億ドル規模の巨額設備投資が今年以降も続きます。
しかし供給不足が続くアナログ半導体などの旧世代チップへの投資は現在もあまり進んでいません。
こうした旧世代チップへの投資が進まないのは、構造的要因が大きく影響していると考えます。
成熟した旧世代ノードは利益率が低いため、メーカーにとって将来の確かな成長が見通せないかぎり、無暗に成長拡大することは高リスクです。現在は借入金利が上昇しているためなおさらです。
顧客は成熟したノードの低価格さに魅力を感じており、容易に値上げしづらいことが、利益率を圧迫している一つの要因です。
また自動車企業はコロナ禍以前は在庫を限りなく少なくする「ジャスト・イン・タイム」方式を採用し、半導体を含む車両部品を生産に近い時期に注文してきました。
これは半導体メーカーにとって人件費や運搬費、在庫保管費などの負担が大きく、この自動車業界の慣行もまた利益率を圧迫する要因でした。
このように、アナログ半導体などの旧世代チップメーカーは、長らく構造的な利益率圧迫要因に晒されてきたため、高稼働率の維持を優先し、設備投資に後ろ向きだったと考えられます。
パンデミックでサプライチェーンが混乱し半導体不足に見舞われたことで、自動車会社やその他製造業は必要分より10~20%程度注文を増やし、在庫を増やす方針に切り替えました。
しかし半導体メーカーの生産能力はこうした動きに当然対応できません。むしろこれまでの買い手市場を売り手市場に転換し、顧客との立場を逆転するチャンスです。そのために設備投資を出来る限り遅らせることが大きな武器になります。
米国では政府からの支援も期待できません。昨年米国でチップ法が成立し、ファブ建設など米国内に半導体関連投資を行う企業に計390億ドルの補助金が政府から配られますが、その大半は最先端ファブ建設向けです。
旧世代のチップ製造に割り当てられているのはわずか5%、20億ドルに過ぎません。
[2022/11/11 Automotive World]Chip shortage in automotive and industrials despite lower demand for semiconductors
中国はアナログ半導体など旧世代ノードのチップの製造能力強化を進め、政府も支援してきました。昨年末には新たな1兆元規模の半導体業界支援策を計画しているとの報道も出ました。
しかし今年に入り、支援策は効果が薄く、ゼロコロナ政策撤廃で感染数が急拡大し国内経済や財政を圧迫しているため、この投資計画を休止するとの報道も出ています。
[2023/01/04 ブルームバーグ]中国、半導体への巨額投資休止へ-新型コロナが景気や財政圧迫
旧世代チップは自動運転や高性能バッテリーにも使われます。
画像認識システムや5G通信を搭載した将来の完全自動運転車のチップ使用量は、従来の自動車の8~10倍になると言われています。
電気自動車、そしてその先にある自動運転車が拡がることで、最先端チップのみならず、旧世代チップも伸び続けていきます。
旧世代チップ不足は今年いっぱい続くと見られていますが、その後すぐかその前に電気自動車の本格的な普及が待っています。旧世代チップは需給逼迫は延々と続くかもしれません。
TSMC、インテル、エヌビディアなど最先端チップの設計・製造を行う企業の株価が昨年に軒並み大暴落したしたなか、アナログ半導体で市場シェアトップのテキサス・インスツルメンツは業績拡大が続き、株価の下落は限定的となっています。