今回は半導体メーカーのインテルについてです。事業に前向きな大きな変化がみられるようになりました。
微細化で出遅れたインテル
TSMC、エヌビディアをはじめとした半導体会社の株価が高騰したなか、インテルだけ冴えない値動きを続けてきました。
この決定的要因は、インテルが微細化で後れを取っていると半導体業界や市場の関係者からみなされてきたためです。

インテルが微細化でTSMCやサムスン電子の後塵を拝したのは、10ナノ技術に移行しようとしたときからでした。
現在、最先端の微細チップ(論理チップやメモリ)の製造には、EUV露光装置が不可欠となっています。
EUV露光(EUVリソグラフィ)とは、プラズマ化した錫を用いて波長が13.5nmと非常に短い極紫外線(EUV)を発生させ、これをシリコンウェハーに照射してチップを製造する技術のことです。
EUV露光装置を世界で唯一製造するオランダのASML社が2018年に量産を開始して以来、TSMCとサムスン電子はこの装置をいち早く導入し、7ナノや5ナノチップを製造してきました。
インテルは、1990年代から20年以上にわたってEUV開発に携わってきた半導体メーカーの1社でした。
そのインテルが、10ナノ技術に移行しようとしたとき、まさかまさかEUV露光装置を用いた製造の準備が出来ていなかったのです。笑えない喜劇です。
しかもEUV露光装置はASMLしか生産できないため、需要に対し供給が全く追い付いていません。
これまで生産されたEUV露光装置の半分以上をTSMCが購入し、事実上TSMCがEUV露光装置を買い占めている状況です。EUV露光装置で生産されたチップの7割はTSMC製です。
TSMCが買い占めているのはASMLとの関係の強さもあるでしょうが、EUV露光装置は高価であり、これを使った生産が難しく、いち早く導入し商業的に最も成功したTSMCしか金銭的にも技術的にもこの装置を購入できない、使いこなせないことが大いに関係しています。
インテルは技術的な面で初動が遅れたことで、EUV露光装置の調達が困難になり、この装置を使った最先端チップの量産ができなくなってしまったのです。
EUV露光装置を使うメリット
EUV露光技術を使わなくても、既存の露光技術(ArF液浸露光とマルチパターニングの組み合わせ)によりチップを製造することは可能です。
しかしEUV露光装置を使った製造の方が、生産性を大幅に向上できます。
EUV露光装置を利用すると既存の技術でより細かな回路描写をより高い精度で行えるため、運用コストを抑えることができます。
EUV露光技術を使わない場合、以下の理由から製造コストが上昇し生産性は大きく落ちてしまいます。
・露光と現像、エッチングを繰り返す(マルチパターニング)ので単位時間当たりのウェハ処理枚数(スループット)が急速に低下する・露光の位置合わせに要求される精度が急激に厳しくなる。したがって装置のコストが上昇する。・解像したパターンの形状が歪むので製造の歩留まりが低下する恐れが高くなってしまう。
EUV露光技術を使わない場合に致命的な弱点があります。それは微細化するためには、1層分のパターン形成に割り当てる露光の回数を増やす以外に方法がないことです。
つまり、EUV露光技術を使わないと、微細化を進めるほど生産性は悪化してしまうというジレンマを抱えることになるのです。
EUV露光装置を使う場合、使わない場合と比べ、チップ製造工程全体のコストを3割以上抑えることができます。
チップ製造は資本集約型で、いかに生産コストを抑えられるかどうかが生命線です。EUV露光装置を使うしか、最先端チップ製造分野で生き残ることはできません。

さらにEUV露光技術は量産時の歩留まりが高く(欠品が生じる確率が低く)、これを使って製造したチップはブランド力をもち、顧客からの信頼が得られやすくなります。
TSMCに半導体製造委託が集中してきた理由の一つは、EUV露光装置を独占しこれを使って製造した事実そのものにあるのです。
EUV露光装置は、性能面だけでなく、マーケティング面でも大きな役割を担ってきたのです。
インテルは遂にEUV露光装置の調達を本格化する
前CEOのもとで微細化で後れを取り、パット・ゲルシンガーがCEOに就任してから一年余り経ったインテルは、もう負けていられません。
インテルは今年後半に生産開始予定の7ナノチップ「インテル4」から、ようやくEUV露光装置を使ったチップ生産を開始します。
今後2023~24年にかけて、インテル3、インテル20Aという一連の最先端チップを次々と量産する計画ですが、これらもEUV露光技術が使われます。

インテルがEUV露光装置を使った量産を計画通りに進めることは難しいのではないかとの意見があります。
インテルには現在EUV露光装置が3台程度しかなく、それは量産機ではなく、R&D機のだとみられているためです。
インテルがEUV露光装置を何台持っているか、それが量産機かR&D機なのか、今後どれだけの台数を調達する見込みがあるのか、正確なことはわかりません。競争力に直結する機密情報なので普通表にでることはありません。
しかし最近のインテルの動きをみていると、どうもEUV露光装置の調達に自信があるように見えます。
それを示唆する出来事の一つは、今年1月19日にASMLの次世代EUV露光装置である、開口率NA=0.55の高NA EUV露光装置の量産対応機の購入向けた最初の発注を行ったことを明らかにしたことです。
開口率が大きくなると解像度が向上し、より微細なチップを効率的に生産できるようになります。現行の開口率は0.33なので、次世代機は解像度が67%(0.55÷0.33)向上していることになります。
開口率0.33の現行機で効率的に製造できる限度はせいぜい2ナノチップと言われています。
それより微細なチップを製造するにはマルチパターニングが必要になり生産コストが大きく増えてしまいます。
開口率0.55の次世代機を使うことで、2ナノ未満のチップを、コストを2割以上抑えて生産することが可能になるとみられています。

高NA EUV露光装置は高性能が期待されるものの、まだ開発段階であり、ASMLはR&D機の販売は2024年、量産機の販売は2025-26年ごろを見込んでいます。
インテルは量産機の販売開始から3年以上も前に発注し予約したことになります。
これはインテルがASMLからのEUV露光装置の調達に本気であることを示すものであり、ASMLと関係を強化し、調達能力を高める狙いがあると考えられます。

別の重要な動きは、現在インテルがEUV露光技術に対応した多数のファブを建設中であることです。
これまでインテルはオハイオ州にある3つのファブしかEUV露光技術に対応していませんでした。
しかしアリゾナ州、オハイオ州、アイルランド、イスラエル、ドイツに建設中の多くのファブはEUV露光技術に対応します。
2025-26年ごろまでに、インテルは計12のファブでEUV露光装置を使ってのチップ製造が可能になる見通しです。
ASMLからEUV露光装置を調達できる目途がなければ、1000億ドル近くもの巨費を投じて最先端ファブを建設するとは考えにくいです。
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