データ取り扱いを巡りテスラをテストする中国政府

昨春のコロナショックの底から今年1月にかけて、株価が10倍に値上がりして880ドル台をつけたテスラ。
 
しかしその後現在まで株価は調整気味で、3割程度下落してきました。
 
テスラは中国・上海のギガファクトリーを一つの軸に電気自動車市場の支配を強めようとしていましたが、水を差すような報道が出ました。
 

[2021/05/11 ロイター]米テスラ、上海工場の拡張計画を凍結 米中関係の緊張で=関係筋
 
米電気自動車(EV)大手テスラは中国の上海工場を拡張し世界的な輸出拠点にするための土地取得計画を凍結した。関係筋が明らかにした。米中関係の緊張による不透明感が理由という。
 
同筋によると、中国製EVは既存の関税に加えてトランプ前大統領が課した25%の税率が上乗せされているため、テスラは中国での生産比率を抑える方針。
 
テスラは現在中国で生産した主力車種「モデル3」を欧州向けに出荷しているが、米国など他の市場にも輸出する計画があったという。

 
背景には関税や税金だけでなく、セキュリティ・安全保障も大いに関わっているのではないでしょうか。
 
今年3月、中国軍当局は、テスラの車両に搭載されるカメラを巡るセキュリティー上の懸念を理由に、軍集合住宅への車両乗り入れを禁止しました。
 
車両に搭載されたカメラによって、位置情報含む機密情報が収集されているとの懸念が理由です。
 
実際、テスラ車は周囲360度で起きていることを察知するために8台のカメラを搭載し、前方は160メートルまでレーダーで情報を集めています。さらに12個の超音波センサーも付けられています。
 
電動化、ICT化がますます進む自動車は、スパイロボットになりつつあるのが実情です。
 
 
引用した報道が出る数日前に、セキュリティ・安全保障に関する次の出来事が起こりました。
 
米国内最大の石油パイプラインがサイバー攻撃を受け、7日から操業を停止しているというものです。
 
今週末に復旧する見通しとのことですが、全面復旧するかは不明です。全面復旧が長期化すれば、ニューヨーク州含む米国東部のガソリン供給にしばらく影響が残る可能性があります。
 
米国のインフラ施設へのサイバー攻撃は3カ月前にもありました。
 
今年2月、フロリダ州の水道施設がハッキングされ、水処理に使う水酸化ナトリウム濃度が100倍まで引き上げられ、有害な水道水が危うく各家庭に供給されそうになりました。
 
ここ何年ものあいだ、製鋼所、石化プラント、発電所など、製造業や公共施設を中心に、世界的にサーバー攻撃件数は増え続けてきました。
 
昨年にサイバー攻撃で被害が出かねなかった事例の数は、前年から5割増えました。
 
特に病院、医療および製薬メーカー、COVID-19サプライチェーンを強化するエネルギー会社など、COVID-19関連の企業・施設への攻撃は前年の2倍に増えました。
 
 
自動車は、サイバー攻撃対象としても、サイバー攻撃の道具としても、うってつけになります。
 
自動運転車が普及するに伴い、当然、遠隔操作のリスクが高まります。
 
自動運転車には、RDS、ブルートゥース、WiFi、衛星通信、モバイル通信、V2Xと、様々な通信機能が備わます。通信機能の塊です。
 
これら機能を活用し、道路周辺のインフラや周囲を走行する車両、自動運転システムを管理するサーバー・クラウドなどと常時通信を行います。
 
サーバー・クラウドと常時接続しているため、遠隔操作リスクは常に付きまといます。
 

 
自動運転車が遠隔操作されれば、周囲を巻き込んだ大規模な自動車事故が生じることはもちろん、爆弾を搭載した自動車を重要施設や要人目掛けて突っ込ませて無人テロを引き起こすことも可能になります。
 
現在、自動運転技術を導入した配送センター、自動運転車によるラストマイル配達、自動運転トラックによる隊列走行、予測メンテナンスなど、物流全体を、自動運転化、コネクト化する取り組みが進み始めています。
 
物流が大規模に自動化されたなかで遠隔操作されれば、世界中のサプライチェーンが混乱し、経済や国家の存続などに致命的な影響が出ても全くおかしくありません。
 
テスラ製の車には、2016年以降のモデルすべてに自動運転技術システムが搭載されていますが、2017年にテスラの車を一斉に遠隔操作できる脆弱性が発見されたことがあります(すでに修正済み)。
 
 
中国政府はICTの内製化を進めると同時に、テクノロジー大手の支配を強めてきました。安全保障の弱体化を防ぐことは大きな理由の一つです。
 
中国政府の立場であれば、テスラも同様に監視を強め、データやシステムの取り扱いを政府の方針に遵守させようと考えるのは当たり前です。
 
米国でインフラへのサイバー攻撃が強まっていますし、尚更です。
 
ただ、テスラも口ではなく行動できちんと対応しようとしています。
 
中国国内で収集したデータを取り扱うために、工場のある上海にデータセンターを建設すると先月発表しました。
 
現在中国政府は、テスラがデータの取り扱い等、安全保障に関わる問題にきちんと取り組むかどうか、テストしているようです。