米国株式市場は大幅続落。S&P総合500種は2月以来の大幅な下落率を記録した。4月の米消費者物価指数(CPI)の総合指数が前年比で約12年半ぶりの大幅な伸びとなったことを受け、予想よりも早期に利上げが実施される可能性があるとの懸念が強まった。
CPIは、総合指数が前年比4.2%上昇。食品・エネルギーを除いたコア指数は前年比3.0%上昇と、米連邦準備理事会(FRB)が目標とする年平均2%を上回った。
11日にはブラード・セントルイス連邦準備銀行総裁がテレビの経済番組に出演し、インフレ率が2.5%から3%に上昇する可能性を語った。
同氏もパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長もかたくなに「インフレは一時的」と繰り返す。しかし市場では、FRB不信論が目立ち始めた。
カリスマ投資家のドラッケンミラー氏は10日、「FRBの火遊び」という辛辣な見出しでウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿。ウォール街の話題になった。米国の経済回復がこれほど好調なのにテーパリングや利上げ議論を封印するパウエル氏の現政策が、制御不能なインフレ、資産バブルを生むとの論旨だ。
かくして「パウエル議長が判断を誤るリスク」が意識され始めた。
パウエル議長も所詮は人の子です。
かたくなに「インフレは一時的」と繰り返し、大規模緩和を正当化し、テーパリングに消極的なのには訳があります。
2013年5月に、当時のバーナンキFed議長は市場の想定より早いタイミングで、金融危機以降実施していた資産購入規模の縮小、テーパリング開始を示唆しました。
これにより、それまで大規模な金融緩和に支えられていた資金の流れが急激に変わり、長期金利の急騰や新興国市場からの資金流出による通貨安などが生じ、米経済の成長鈍化にもつながりました(「テーパータントラム」と呼ばれています)。
実は、当時Fedの理事であったパウエル氏は、このテーパリングを提唱した当局者の一人でした。
パウエル氏の間違った進言が、市場の調整、経済成長の鈍化を招いたのです。
パウエル議長がテーパリングに消極的な姿勢を示してきたのは、8年前のトラウマがあるためなのです。
2018年2月5日にパウエル氏がFed議長に就任してから、S&P500は47%上昇し、市場を喜ばせてきました。
パウエル議長の最大の功績は、昨春のコロナショックの後、大規模な量的緩和を早期に導入して、新型コロナウイルスの大流行のなか、株価を大きく引上げたことです。
しかし米国でワクチン接種が進み、経済が思ったより早く、強い回復を見せていることは、パウエル議長の評価を逆転させかねません。
今回、CPIの予想以上の上昇を受けた株価の急落で、大規模緩和の継続はスタグフレーションを招き得るとの懸念が市場で一層広がることになりました。
8年前とは逆に、テーパリングに踏み切らないことが、市場の大幅調整を招き得るかもしれません。
他方、スタグフレーションが進むことで早期の金融引き締めを懸念する見方も出てきています。
テーパータントラムの呪縛に囚われたパウエル議長は、袋小路に追いやられようとしています。
テーパリングや金融引き締めの導入是非をめぐり、米金融当局内で意見が割れ始めています。
イエレン財務長官は今月4日、雑誌のインタビューで「経済が過熱しないようするために金利を多少上げなければならないこともありうる」と明らかにしました。
パウエル議長の任期は来年2月までです。
金融緩和を継続するのか、それともテーパリングや金融引き締めに転換するのか。
秋に向けて、この議論が、パウエル議長の続投をめぐる議論と絡み合いながら、過熱していきそうです。