一過性ではなさそうな食料価格の値上がり

[アボマガお試し版 No.170]一過性ではなさそうな食料価格の値上がりの記事(一部)です。2021/06/21に配信したものです。
 
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世界の食料価格の上昇が止まりません。
 
国連が発表した5月の食料価格指数は1年前から39.7%上昇し、2011年9月以来、約10年ぶりの高水準となっています。
 
12カ月連続で上昇し、過去10年では最も速いペースで上がっています。
 
トウモロコシ、小麦、植物油、乳製品、肉、砂糖など、大半の食料価格の値上がりが続いています。
 
米国で食品価格の値上げが相次いでいます。日本でも、主に原料価格の上昇により食用油や小麦粉などの加工品から、牛肉や野菜といった生鮮食品まで値上げが続いています。
 

 
需給面における食料価格高騰の大きな理由は、干ばつと中国の旺盛な需要にあります。
 
これにエネルギー価格の上昇、サプライチェーンの逼迫、新型コロナウイルス禍による移動制限による農作業の担い手である外国人労働者の不足、投機マネーの流入などの影響が加わっています。
 
ここでは、干ばつと中国の食料需要にスポットを当てていきます。
 
現在、ラニーニャ現象による干ばつの影響で、食糧供給に大きな影響が出ています。
 
特に深刻なのがブラジルで、およそ90年ぶりの大干ばつに見舞われ水不足となり、農業生産に大きな影響が出ています。
 
また発電能力のおよそ2/3を占める水力発電のダム貯水池の平均水位が30パーセント以上下がり、電力不足の懸念が高まり、電力価格の上昇につながっています。
 
原油価格の上昇も重なり、エネルギー費用の増加が、ブラジル農業生産のさらなる重しになっています。
 
大豆は収穫が2-3月のため干ばつの影響はいまのところありません。しかしトウモロコシは6~7月ごろと10月ごろに収穫する場合があり、干ばつの影響を受けることになります。
 
実際、6~7月に収穫されるトウモロコシの収量は、5年ぶりの低い水準になるとの予測が出ています。
 
米国でも南西部を中心に酷い干ばつが生じており、今後の農産物の収量に影響が出ることが懸念されています。
 

 
米国では6月に入り、大豆やトウモロコシの主要栽培地域において干ばつに見舞われる州が急増し出しました。
 
大豆は繁茂するにつれて必要な水の量が増えます。トウモロコシは遺伝子組み換え技術により収量は増えたものの、干ばつに対する耐性は従来より低くなっています。
 
今後本格的な夏を迎えるなかで、降雨に恵まれない状況が続けば、大豆やトウモロコシなどの主要生産物の収量の減少を招く恐れがあります。
 
報道をみるかぎり、いまのところ干ばつ地域での降雨はあまり期待されていないようです。
 

 

 
1970年代と2000年代に生じた食料危機は、いずれも世界の一部国・地域における干ばつの発生が最初のきっかけでした。
 
現在の干ばつが食料危機のきっかけになるかどうかは事後的にしかわかりませんが、干ばつが歴史的に食料危機の前兆を示してきたことを覚えておいて損はないでしょう。
 
 
干ばつによる食料生産量の減少リスクがあるなか、中国の食料需要は拡大しています。
 
中国は世界人口の2割を抱える一方で、世界の耕作可能な土地の1割しか持ちません。都市への人口移転は続き、就農人口は減少の一途をたどってきました。
 
都市部では、経済の発展と賃金の上昇で中間層が増加し、肉、大豆、牛乳、穀物などの需要が伸びてきました。
 
中国は食料需要の増加に食料自給が追い付かず、食料輸入量は増加の一途をたどってきました。
 

 
上図からは読み取れませんが、2018年にアフリカ豚コレラが蔓延し、大量の家畜豚が殺処分され、飼料需要が大きく減ったため、食料輸入の減少圧力がかかってきました。
 
またトランプ政権が中国からの輸入品に関税をかけたことへの報復で、中国は米国からの農産物に関税をかけた結果、米国からの農産物輸入量は一時的に減っていました。その分ブラジルからの輸入を増やしました。
 
しかし昨年にアフリカ豚コレラの収束に伴い豚の飼育量が増えたことで、中国の飼料需要は大きく増しました。
 
ブラジルからの大豆やトウモロコシの輸入だけでは間に合わず、昨年、米国と貿易協定を結び、農産物の輸入を急速に増やしました。
 
ブラジルと米国で干ばつが発生する前に、良いタイミングで中国は米国と協定を結んだものです。
 

 
中国で再びアフリカ豚コレラが蔓延することはあるのでしょうか。
 
下図は中国の発症月別のアフリカ豚コレラ報告村の数です。2018年のピーク移行、趨勢的に減少してきました。
 
これをみるかぎり、アフリカ豚コレラの再拡大の兆候は見られません。
 

 
中国で再びアフリカ豚コレラが蔓延し、多数の養豚が殺処分されるリスクはゼロではありません。免疫を迂回する変異株が流行する可能性があるためです。
 
現在、アフリカ豚コレラに有効はワクチンはありません。早期検査で発見し、感染拡大を防ぐしかなく、もし失敗すれば大量の殺処分に迫られます。
 
現在までに少なくとも中国の4つの州で、変異株が見つかっています。ただいずれも致死性は低いです。
 
RNAウイルスであるコロナウイルスとは異なり、アフリカ豚コレラはDNAウイルスです。DNAは二重鎖を持ち、厳重な複製エラー修復機能が備わっているため、RNAウイルスと比べて変異速度は圧倒的に遅いです。
 
これらから、現状、中国でアフリカ豚コレラが再拡大し、飼料需要が一時的に急減する雰囲気にはありません。
 
 
以上から、いまのところ短期の食料需給が緩む気配はありません。
 
もう少し長い目で見ると、世界的に農地の拡大が難しい中、人口増加や都市化に伴う就農比率の低下・中間層の増加が進んでいきます。
 
中国は2025年までの農業政策として食糧安全保障を重視する方針を示しました。これは世界からの食料輸入を増やすことを意味します。
 
構造的、国際政治的に、食料需給が逼迫した状況が何年にもわたって続くおそれがあります。