微細化の後れがインテルにもたらす意外なチャンスとは

半導体不足が長引いています。

当初は専ら自動車産業で起きていましたが、その後家電製品、スマートフォン、パソコンなどにも広まっています。

半導体不足が生じたのは、COVID-19パンデミックでノートパソコンやデータセンター向け等のチップ需要が高まったことと、トランプ政権時代の中国への経済制裁です。

ファーウェイへの経済制裁で中国勢はチップ在庫を大量に抱え込もうとし、SMICへの経済制裁で欧米企業は半導体発注を中国外に求めざるを得なくなりました。

その結果、半導体受託製造(ファウンドリー)市場で過半数のシェアを持つ台湾のTSMCに注文が集中し、半導体不足を招いたのです。

さらに今年2月のテキサス州での寒波による停電でサムスン電子のファウンドリー工場が一時操業できなくなり、台湾での水不足でTSMCの生産能力が落ちたことが、半導体不足に拍車をかけています。

これまで半導体不足は今年いっぱい続くとの見方が大勢でしたが、最近では22年にも影響が残るとの見方が一般的です。

 

半導体の需給逼迫により、TSMCの業績はウハウハです。Q121に売上・純利益ともに19%増加しました。

すでに来年上半期まで受注は満杯で、今年末の受注分から顧客への値引きを中止し実質数パーセントの値上げとなり、今後も業績は拡大が続くでしょう。

他方、かつてのチップ市場の王者であったインテルはQ121、データセンター向けCPUの売上が20%超減少し、グループ全体の売上は1%減少しました。来期も業績は悪化するとみられています。

インテルはデータセンターCPUのほぼ100%を支配していましたが、ここ5年でNVIDIAとAMDがシェアを奪い、現在インテルのシェアは68%にまで落ちました。市場関係者はシェア低下がまだ続くと考えているようです。

 

半導体の受注急増でTSMCがまずバッサリ切ったのが、自動車産業でした。

自動車業界が使う半導体は3-4世代前と古く、スマートフォンやサーバーなどのICT機器に搭載される最先端の半導体と比べ利益率が低いためです。

自動車製造に占める電子部品の割合は金額ベースで非常に大きいです。自動車製造のコスト全体に占める電子部品の割合は2017年に4割を超え、2007年から倍増しています。

TSMCの対応により、フォルクスワーゲン、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、スバル、ゼネラル・モーターズ(GM)、現代自動車など大手自動車メーカー各社は自動車生産ラインの停止・減産を余儀なくされています。

影響は停止・減産にとどまらず、自動車メーカーはビジネスモデルの変革を余儀なくされるでしょう。

自動車メーカーは在庫を抱えないジャストインタイム方式により収益性を少しでも高めようとしてきました。

しかし昨年のパンデミック以降、物流逼迫状況が続き、スエズ運河での座礁事故があり、在庫を抱えないビジネスモデルは非常に高リスクなものとなりつつあります。

ここに半導体不足が追い打ちをかけたことになります。

自動車メーカーは電気自動車への移行ですでに大きな変革を迫られていますが、さらに在庫管理・サプライチェーンも見直さざるを得ず、経営上の重荷がますます増えています。

電気自動車への移行は多くの企業が賛同する環境保護の意味合いがあり、COVID-19はウイルスという見えない敵が引き起こしているため、自動車メーカーは怒りの矛先を誰にも向けることが出来ず、モヤモヤしていたことでしょう。

しかし今回の半導体不足に伴うTSMCのそっけない対応は、自動車業界にとって格好の怒りのやり場が生まれたことになります。

TSMCは今後3ナノ、2ナノと微細チップの量産を目指す計画で、アップルを始めとしたテクノロジー企業の顧客を最優先する姿勢は今後も続きます。

 

あなたは、このTSMCの姿勢は、微細化で大きな後れを取るインテルにとってチャンスにもなり得ることに気づかれましたか?

インテルが23年にアリゾナ州で操業開始を目指すファウンドリー工場では、最も微細なチップでも7ナノにとどまりますが、自動車業界にとっては十分です。

欧米の自動車メーカーにとっては、インテルからのチップ供給を増やすことで、サプライチェーンの地域化を進めることができます。

自動車メーカーをファウンドリー事業で顧客として抱えることが出来れば、自動運転車向けチップの販売につなげることができます。

これはあくまで一つのシナリオに過ぎません。実際にインテルがこのように上手く市場を広げられる保証はありません。

しかしこうした「気づき」が、市場参加者、とりわけAIが見落としている、長期投資に有望な銘柄を探す上での大事なステップになります。

あなたはこうした「気づき」、出来ていますか?