英エコノミスト誌を読んでいたら、湾岸諸国のマネーの動きについての詳しい分析記事が載っていました。
https://www.economist.com/finance-and-economics/2023/04/09/welcome-to-a-new-era-of-petrodollar-power
湾岸諸国は米国シェールオイル企業を潰すために2014年以降に価格競争を仕掛けたものの、計画は失敗し、パンデミックもあり2020年まで原油価格の低迷で財政・経済的に大いに苦しむことになりました。
しかし2021年に原油価格は好転。OPECプラスの協調減産やウクライナ戦争、米国シェール企業の増産意欲低下、世界の脱炭素志向による石油投資不足を追い風に、昨年には1ドル100バレルを上回るなど、石油市場は完全復活を遂げました。
サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートの4カ国の昨年の経常収支合計は3500億ドルと見積もられています。これは少なくとも2007年以降で最高です。
中東産原油に依存している日本の同年の貿易赤字は1553億ドル(19.97兆円)でしたから、いかに産油国が石油輸出でぼろ儲けしたのかうかがえます。
問題はこのお金の行き先です。普通は輸出で得た資金は外貨準備の増加に現れますが、湾岸諸国の外貨準備にはなぜか目立った増加は見られないようです。
確かにサウジアラビアの外貨準備はパンデミック以降、狭いレンジを動いているだけでほとんど増えていません。
https://tradingeconomics.com/saudi-arabia/foreign-exchange-reserves
エコノミスト誌の分析によると、湾岸諸国の石油マネーの使い道は3つあるといいます。
一つ目2014年以降の原油価格暴落・低迷時に増やした、欧米から借りた外国債務の返済です。
二つ目は近隣の友好国への投融資です。サウジ、UAE、カタールは、穀物価格やエネルギー価格の急騰、洪水などに苦しみ財政を圧迫しているエジプト、パキスタン、トルコに資金提供したり石油購入代金の支払い延期を認めています。
これまで財政が悪化した新興国・途上国はIMFからの融資に頼るしかなく、そのツケは国有資産の売却やグローバリスト集団による政府の実質的な乗っ取り、社会・文化の破壊という形で支払わされてきました。
しかし同じイスラム教の国である湾岸諸国がIMFの役割を担うことで、第一次世界大戦から現在まで続いてきたアングロサクソンによる中東の経済植民地策を断絶し、中東の共存・共栄への道が開かれることになります。
三つ目は外国資産への投資です。石油価格の高騰で政府系ファンドの運用資産額も増えています。
原油価格の高値が続けば、2030年にはサウジの政府系ファンドの運用資産額は2兆ドル、アブダビのそれは1.3~1.4兆ドル程度に達するのではないかとの試算もあります。
要するに湾岸諸国のマネーの動きは今後の国際金融に多大な影響をもたらし得るというわけです。
1973年にペトロダラー制度が開始して以降、湾岸諸国は米国からの軍事支援と石油購入の見返りに、シティ・オブ・ロンドンなどのユーロダラー市場に石油輸出で獲得した米ドルを預け、米国債や欧米株式のインデックスファンドなどに投資してきました。
しかしいまではプライベート・エクイティ、不動産、インフラ、ヘッジファンドというオルタナティブ資産を選好しており、湾岸諸国の3大ファンドの総資産の23~37%をこれらが占めるとされます。
ファンド経由の投資だけでなく、非公開市場での取引も増えており、ただでさえ湾岸諸国の政府系ファンドは最新の保有状況を更新していないのに、ますますお金の流れが見えにくくなっているようです。アブダビ投資庁は運用資産の3分の2が未公開資産です。
さらには政府系ファンドが中国、インド、東南アジアを調査する専門チームを立ち上げたようで、これら地域への投資も増えていきそうです。
拡大BRICSは米ドルを使わない決済システムを構築中であり、サウジもこの枠内に入っていくことから、今後非ドル建ての政府系ファンドの投資も増えていくことでしょう。
これらマネーの動きを見ても、湾岸諸国が自国だけでなく中東全体で欧米の影響力を少しずつ弱めたいとする意向が読み取れてきます。
★上述のように、湾岸諸国の政府系ファンドはオルタナティブ投資に未来があると考えているようです。オルタナティブ投資に関連する銘柄は、アボマガ・エッセンシャルNo.247、No.253にてお話ししています。
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