長期金利、原油、ドル円為替

[2021/03/05 ブルームバーグ]どこまで行くドル・円相場、約3年ぶり高値か-限界近いとの見方も


米長期金利の上昇を背景に騰勢を強めるドル・円相場。ここからの上昇余地について2018年以来となる1ドル=113円に到達するとの予想が出てきた。一方、108円台がめどとみる向きもあり、市場関係者の見方が分かれている。

ドル・円上昇の原動力となっているのは米長期金利の上げ。追加経済対策やコロナワクチン普及による米経済正常化期待、さらに4日の講演でパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が金利急上昇に対して強い懸念を示さなかったことから、米10年物は年明けから60ベーシスポイント(bp)超上昇している。

他の人の意見を見聞きすると、ドル円がいずれ超円高ドル安になると考えている人たちが結構多い印象を受けます。

その背景には、リーマンショックから欧州金融危機にかけてドル円が大きく円高ドル安に振れて一時1ドル80円割れした過去と、米ドルの基軸通貨性の崩壊への懸念があると思われます。

2015年に1ドル120円台にあったドル円は、変動がありながらもダラダラと円高ドル安が進み、今年年初に1ドル102円台にまで低下しました。

2016年に国民投票で英国がEU離脱を決めた後に一時1ドル100円割れしたことはありましたが、2018年2月のVIXショック、同年10月の世界同時株安、2020年3月のコロナショックでは1ドル100円を下回ることはありませんでした。

今年に入りわずか2カ月のあいだに、1ドル108円台にまで円安ドル高が進みました。これは2016年10月~12月にかけての円安ドル高以来の急速なものです。

画像ソース:Yahoo!ファイナンス

2020年の為替相場は、概ね経常収支の黒字に伴う円高ドル安圧力と、昨年4月から外債保有比率を15%から25%に引き上げたGPIFのヘッジなし外債投資による円安ドル高圧力の拮抗のなか、ダラダラと円高ドル安が進んできました。

今年に入っての円安ドル高は、ワクチン普及やワクチンパスポートの導入で世界経済が本格的に回復するとの強い期待をベースとした、米長期金利とインフレ期待の上昇によるものです。

最近の急激な米長期金利の上昇は、日本の金融機関による米国債の大きな売りをもたらしました。

2月26日までの2週間、日本人投資家は約3兆6000億円もの外債を売り越しました。大半は米国債とみられます。

この急激な米国債の売却は、米国の10年物米国債を担保としたレポ取引の貸出金利を一時-4%を下回る水準に低下させたことにもつながりました。

[2021/03/04 ブルームバーグ]米国債レポ市場に影響、日本人投資家の外債売り-大量売り越しで

フェールチャージの-3%を下回るもので、レポ市場のシステムが想定していない「ありえない」レベルにまで金利が下がったとのことです。

[2021/03/04 Zero Hedge]Historic Repo Market Insanity: 10Y Treasury Trades At -4% In Repo Ahead Of Monster Short Squeeze

日本人が米国債を売却すれば、米ドルを日本円に交換するから円高ドル安が発生するというのは、古い考えです。

たしかにリーマンショック後から欧州金融危機にかけての大幅な円高ドル安は、ドル建て資産を売却して日本円に交換する需要が急激に高まったために起こりました。

しかし現在、日本人投資家の多くは為替ヘッジをかけています。今回のように長期金利が上昇した中、米国債の市場価格が安くなる中で売却すると、ヘッジのための無駄な円買いドル売りポジションを売却することになるので、円安ドル高に振れます。

現在のこれまでよりやや急な円安ドル高の理由の一つは、日本人投資家の急激な米国債売りにあるのです。

もう一つの円安ドル高要因と考えられるのが、原油価格の上昇です。市場の予想を裏切り、OPECプラスの協調減産が1カ月延長されたことで、ブレント原油価格は1バレル70ドルが近づいています。

協調減産が続く限り、米シェールオイルの増産が進まない限り、今年の石油需給は需要超となります。

原油価格の値上がりは米長期金利を上昇させるだけでなく、日本の貿易収支を悪化させるため、円安ドル高圧力となります。

ドル指数は今年に入り上昇しているものの、過去5年で最低に近いレベルにあります。現在の円安ドル高は、ドルが高くなったというより、円が安くなったためです。

画像ソース:ブルームバーグ

超円高ドル安を信じる人々の根拠と思われる2つの要因について、リーマンショックから欧州金融危機にかけての円高ドル安は構造的に起こり得ません。為替ヘッジつきの取引が主流だからです。

もう一つ、米ドルの基軸通貨性の崩壊は、あり得ないことではないと思います。

米ドルの基軸通貨性を利用した一部国への経済制裁を繰り返したことで、世界各国はドル依存のリスクを大いに認識しています。

巨額の双子の赤字を抱え、コロナパンデミックで米国は苦しんでいます。

コロナパンデミックからいち早く抜け出した中国は経済的に力をつけ、特にアジア圏で主導的な役割を担うでしょう。昨年、世界最大の包括的経済連携であるRCEPが署名されました。

基軸通貨性が崩壊しなくとも、米国が巨額の双子の赤字を抱え、自身が石油輸出国となりペトロダラーの重要性が減っているなか、いずれ大幅なドル安によって調整されなければなりません。

しかし「ドル安=円高ドル安」ではありません。米ドルの価値が1/10になっても、日本円の価値が1/100になれば、ドル円は1ドル1000円台になります。

現在の円安ドル高は、完全に円安要因です。どんなにドルの価値が下がろうが、日本円の価値がそれ以上に下がれば、円安ドル高、超円安ドル高にもなります。

日本は少子高齢化が本格化し、産業競争力が落ち、輸出にも影響が出るでしょう。他方、石油・ガス依存は短中期で変わりようがありません。

今年一時スポット電気料金の急騰をもたらしたLNGですが、多くのLNG輸入長期契約は原油価格に連動して価格が決まります。

コロナパンデミック下の事実上の財政ファイナンスで世界の政府債務や中銀の資産が歴史的規模となるなか、COVID-19が終息すれば各国はこのツケを払わなければなりません。

マネー、負債が膨張した中で各国の信用が傷つけば、長期金利やインフレが上昇するしかありません。

現在、市場で起きている展開を何倍にもスケールアップした出来事が、何年か先に待っています。

そのとき、石油・ガスの輸入に依存し、GDP比で他国を凌駕する政府債務と中銀資産を抱える我が国の通貨、日本円はどうなると思いますか?円高ですか?円安ですか?

米ドルのことを心配するよりも、日本円のことを心配するほうが先ではないでしょうか?