すでに風力発電は石炭火力発電の半分程度のコストで運営できることは、世界の常識となっています。
しかし風力発電は発電量が天候に左右され不安定な電源であるという弱点を抱えています。
すぐに思いつくのは風が吹かないことです。電力生産の25％を風力発電に依存している英国では、2021年秋に風が吹かず、電気料金が1年で7倍に急騰したことがありました。ウクライナ侵攻の前の話です。
しかし風力発電の天候リスクは、風が吹かないことだけではありません。
米国テキサス州は風力発電能力が2位のアイオワ州を2倍以上上回るダントツの一位で、2010年以降毎年15%程度のペースで発電能力が増えてきました。いまや同州の電力の25%超が風力発電です。
そんなテキサス州では、ここ2年間の間に2回、風が吹かないこと以外の天候に関する理由で、風力発電が十分に機能しなくなる事態に見舞われました。
一つは2021年2月に襲った大寒波です。北極から襲来してきた大寒波の影響で、氷点下の気温が1週間以上続き、大規模停電が生じ、何百万人にもおよぶ住民に影響が出ました。
大寒波が襲ってそう時間が経たないうちに、風力発電所のタービンが凍結し、風力発電の発電能力が瞬く間に半減してしまいました。これがテキサス州全土の大規模停電の直接の原因となったのです。
もう一つは昨夏に発生した猛暑です。
記録的な猛暑で冷房需要が大幅に増え、テキサス州で電力網を運営するテキサス電力信頼度協議会（ERCOT）は7月に緊急措置を講じて住民に節電を要請しました。
普通、節電要請を出すほど電力需要が急増したのであれば、風力発電も増えると考えるのが自然です。しかし現実は真逆でした。
当時、風が吹かなくなり風力発電機の発電量が本来の能力の10分の1以下に低下したとの報道もあります。
しかし調査した結果、別の問題も関わっているようです。それはテキサス州の風力発電送電網の容量不足・投資不足です。
送電網不足により、電力需要が急増すると、多くの電力を発電しても送電線の混雑で十分供給できなくなります。テキサス州の場合、平時でも一部の都市住民に電力を届けられない事態がすでに生じていたためなおさらです。
問題は送電網の混雑だけではありません。送電網全体の供給バランスも崩れてしまいます。
電力の需要と供給のバランスをグリッド全体で常に維持できなければ、電気の周波数が乱れ、たちまち大規模停電を起こしてしまいます。2018年の北海道胆振東部地震の大停電が一例です。
需要と供給のバランスを維持するための措置として、発電量を減らす対応（カーテイルメント）が取られることがあります。
テキサス州では、下図の通り、カーテイルメントの発生率が年々増えてきました。送電網の敷設ペースが風力発電能力の急増に追いつかず、需給バランスが崩れやすくなっているためです。
要するに、猛暑による冷房の需要の急増により、次のことが生じたため、風力発電が十分に機能しなかったのです：
・需要急増に対応して発電量を増やしたものの、送電網の混雑で送電できない無駄な電力が多数発生した
・カーテイルメントにより、需要に見合うように思うように発電できなかった
2021年時点で、ERCOTは新たな送電線を追加する計画はないようです。費用対効果の検討が進んでいないためです。
たとえ送電網の敷設計画がまとまっても、現在までのような風力発電の建設ペースに対応することは困難とみられています。
つまり、今後も電力需要の急変動が起こった場合に、風力発電の不安定さが続くことになります。
風力発電には様々な天候リスクがあり、いまでも多大な影響を起こし得ることを思い知らされました。
風力発電施設だけ猛烈に建設してもダメなのです。安定性向上のために、送電網、蓄電池の敷設はもちろん、電力網全体の制御の進歩が必要です。
★今回のアボマガ・エッセンシャルでは、この前の号外でも触れた「三方良しの取り組みをする公益会社」のフォローアップ記事となっています。
長期金利上昇で公益会社の資金調達状況は厳しさを増しています。
これに対抗するため、この企業は増資を停止しながらも、非コアの企業向け風力・太陽光資産を売却し、財務を堅固にしていきます。
元々規制事業中心でしたが、再エネ資産を売却することで、規制事業の割合をさらに増やし、業績を天候に左右されにくくし、事業の安定性を高めていく狙いです。
財務安定性を優先しながらも規制事業への投資を続け、着実な成長につなげようとしています。
最近、個人投資家による急激な売りに見舞われ、株価純資産倍率は1倍割れとかなり割安、配当利回りも魅力的な水準になっています。
アボマガ・エッセンシャルにご登録されると、Webサービスを通じて今回の記事の完全版を即座にご覧いただけます。