再エネ向け蓄電池として期待のバナジウムの需給見通し

2022/03/28に配信した有料版記事[アボマガ No.206]の一部を編集したものです。
 
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[2022/03/15 化学工業日報]五酸化バナジウムが急伸、露ウクライナ侵攻受け
 
五酸化バナジウムの国際市況が急伸した。世界生産2位のロシアからの輸出が、ウクライナ侵攻による経済制裁で滞ると懸念されて欧州勢を中心に買いが強まった。3月初旬時点で1ポンド当たり12ドル超と年初比約35%高となっている。川下のフェロバナジウムは78%値上がりしており、供給不安から続伸する可能性が指摘されている。

 
バナジウムはレアメタルの一種で、需要の9割は鉄鋼やその合金の強度を高めるための添加剤として使用されます。
 
中国は2018年以降、耐震性を高めるために鉄筋に高い強度基準を導入し、バナジウム需要は急拡大しました。
 
今後世界的にインフラ需要が増えていきます。インフラ向けでは台風、竜巻、地震などに強い鋼材が求められますから、バナジウム需要は中国のように増えることになります。
 
今後成長が期待される航空宇宙分野でも、機体などの強度増強のために用いられます。
 

 
またバナジウムは脱炭素向けの素材としての利用が期待されています。例えば火力発電所などから発生する窒素酸化物を除去するための触媒としての利用です。
 
しかし最も期待が大きいのはバナジウムレドックスフロー電池(または単にバナジウムフロー電池)でしょう。再生可能エネルギーの蓄電池としての使用が想定されています。
 
リチウムイオン電池とは構造や充放電の仕組みが大きく異なります。バナジウムフロー電池はバナジウムの酸化還元反応(レドックス)により充放電を行います。
 
最大の特徴は電池寿命の長さで、30年程度持つと言われています。
 
理由は二つです。バナジウム電解質は不揮発性で実質的に寿命がないことが一つ。もう一つは高温や爆発の危険がはるかに小さく、電池の経年劣化で安全性が大きく落ちる心配が少なく、長期間交換しなくて済むためです。
 
バナジウムフロー電池は導入コストが大きいものの、寿命が長く最もコストの掛かる電解質の交換が基本的に不要のため、20~25年以上の運用でリチウムイオン電池より生涯コストは安くなります。
 
早ければ来年ごろからバナジウムフロー電池の再エネ向け蓄電池の利用が大きく増え始めていく見通しです。
 
 
バナジウムは脱炭素分野やインフラ分野を中心に需要増が見込まれますが、供給が追い付くかどうか不透明です。
 
バナジウムの供給の7割は鉄鉱石から鉄鋼を生産する過程の副産物として得られます。
 
現在主流の製鋼法は高炉と電炉の2つありますが、バナジウムは高炉で得られる資源であり、電炉では得られません。
 
バナジウムは鉄鉱石に含まれていますが、電炉での鉄鋼原料である鉄スクラップには含まれていないためです。
 
またバナジウムは「不純物」であるため、低品位の鉄鉱石に多く含まれており、高品位の鉄鉱石にはあまり含まれていません。
 
世界の鉄鋼企業は脱炭素のために電炉の投資を増やしたり、高品位鉄鉱石の使用を増やしていますから、今後鉄鋼生産時のバナジウム生産量は伸びにくくなります。
 
鉱石から採取されるバナジウムは世界の供給量のわずか18%に過ぎません。残りの12%はリサイクルで得られるものです。
 
バナジウム鉱山は南アフリカやブラジルにありますが、これまでほとんど開発されてきませんでした。ようやく最近開発を積極的に進めている段階のため、安定して生産量が増える状況ではなさそうです。
 

 
そのため今後、バナジウム不足は長期的に解消されないとみられています。この状況で起こったのが、ロシアによるウクライナ侵攻です。
 
世界のバナジウム生産量の53%は中国、20%はロシアで、両国で3分の4近くを占めます。
 

 
ウクライナ侵攻でロシアのバナジウム輸出が減るリスクだけがクローズアップされていますが、中国についてのリスクは無視されています。
 
米国防総省は、中国に対しロシアへ軍事・経済支援しないよう警告し、これを破った場合に制裁を科す可能性を匂わせています。
 
中国はロシアのウクライナ侵攻前からロシア企業と石油やガスの長期契約を結び、侵攻後に供給量は増えているようです。エネルギー・資源の購入は立派なロシアへの経済支援です。判断次第で、米国がいつ中国に経済制裁を科してもおかしくない状況です。
 
もし欧米がロシアに対してと同じように中国に対しても経済制裁を科せば、その報復として中国が西側への資源・エネルギー供給を制限する動きに出てもおかしくありません。
 
そうなれば、バナジウム市況がどうなるかは火を見るより明らかです。
 
★今回のアボマガ・エッセンシャルでは、バナジウム需給逼迫で恩恵を受ける、ある無借金企業について扱っています。
 
ウクライナ侵攻の影響を考慮しなくても、2028年の現金収益(フリーキャッシュフロー)は昨年の20倍に増える見通しです。なのに予想P/Eレシオは7倍しかありません。