米国防総省の機密情報漏洩で西側諸国は米国と距離を置き始めるか

米国防総省の機密情報が、数週間にわたりSNS上にリークされ、世界を揺るがしています。

今回のリークで判明したことの一つは、米国の諜報組織が世界各国の要人をスパイしていた事実です。

2013年のスノーデン文書の公開でNSAが当時のメルケル独首相をはじめ35人の外国首脳を長年盗聴し、米国は世界各国から非難を浴びました。

今回はウクライナのゼレンスキー首相をはじめ、ハンガリー、イスラエル、韓国、国連の監視機関である国際原子力機関の役人をスパイしていたことが明らかになりました。

例えばイスラエルではネタニヤフ首相の司法改革案への抗議デモが過熱して審議の延期を余儀なくされましたが、抗議デモをイスラエルの諜報機関モサドが裏で支援していたことを、CIAは諜報によって掴んでいたということです(ネタニヤフ首相とモサドが対立していることになります)。

漏洩情報には米国による具体的な監視・スパイ活動内容や手法が記されているようですので、各国は今後対策に乗り出しそうです。

しかし今回の情報漏洩で目を見張るのは、ウクライナ戦争の戦況や米国の関与についてです。

これによると米国はウクライナの各旅団の状況、装甲と砲兵の在庫、ウクライナが毎日発射している砲弾と精密誘導ロケットの正確な数を掴んでおり、戦況を事細かに理解していたようです。

戦況は、一言でいえばウクライナ側のボロ負けです。

漏洩文書によれば、昨年10月以降、ロシアの無人機やミサイルによる攻撃を繰り返し受けてきたため、ウクライナ側のミサイルシステムは悲惨な状態になっています。

ウクライナ側の中距離防空ミサイルの9割は5月2日ごろまでに使用不可となる見通しで、ウクライナはロシアからの爆撃に無防備に近い状況になっています。

現在ドネツク州のアルテミフスク(ウクライナ語でバフムト)で戦闘が行われていますが、2月28日時点でその状況は「壊滅的」であり、ウクライナ側の戦闘力は機能不全に陥っているようです。

3月1日時点の戦死者数はロシア側が1万6000~1万7500人、ウクライナ側が6万1000~7万1500人とのことです。

これまでにも2013年にNSAによる情報収集・監視の一端を露わにした文書の公開(スノーデン文書)、2016年と2017年にそれぞれNSAとCIAのハッキングツールの公開がありました。

今回の情報漏洩も含め、米国は過去10年間で4回も諜報機関の機密情報を流出させてしまうという大失態を犯したことになります。

しかも今回は現在進行中の戦争に関する情報漏洩を含みます。こんなことは前代未聞です。

昔から米国人は秘匿すべき事柄をしゃべりすぎる傾向にあると言われてきましたが、そんなレベルを逸脱しています。今回の機密情報の漏洩は米国の他国からの信頼を大きく失墜させそうです。

その動きが早くから現れているのがフランスです。最近中国を訪問したマクロン大統領はウクライナ戦争終結に中国の関与を望むと述べ、欧州の台湾有事への欧州の関与に否定的な見解を示しました。

さらに米ドル依存を減らすことについても言及しました。実際に先月、世界初となるLNGの人民元建て取引を企業間で中国と行ったのがフランスでした。

また秘匿情報をこれだけ流出させられれば、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなども諜報活動での米国との連携を弱めたくなる、距離を置きたくなると思うでしょう。

すでに新興国は米国との距離を置き始めていますが、今回の機密漏洩で、先進国のあいだでもこうした動きが強まりそうです。

米国もすっかり落ちぶれたものです。すでに覇権国としての米国は終わっています。米ドルの基軸通貨性が弱まっていくなかで、米国は内向きになり、孤立を深めていきそうです。

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