大麻解禁と米国単独覇権の終わり

先月、嗜好用マリファナ解禁のニュースが相次ぎました。

メキシコ連邦議会は3月10日、嗜好品としてのマリファナの使用や所持等を合法化する法案を賛成多数で可決しました。

大統領の署名を経て公布される見通しで、国家としての解禁は南米ウルグアイ、カナダに次いで3カ国目になります。

3月31日、米国ニューヨーク州は嗜好品としてのマリファナの使用や栽培を合法化しました。

米国では嗜好品としてのマリファナの使用等は連邦法では認められていませんが、首都ワシントンのほか西部カリフォルニア州などの州で認められています。ニューヨークは15州目となります。

国連麻薬委員会は昨年12月、医療や研究目的の大麻を国際条約で定められている最も危険な薬物分類から削除する勧告を承認しました。

国連からの後押しのもと、コロナ対策で財政が悪化する中、中長期的な税収増と雇用創出のために嗜好用マリファナ解禁が進んでいるわけです。

 

医療用大麻は1996年にカリフォルニア州で合法化して以来、米国の他の州や欧州等の国々で次々と解禁されています。

医療用大麻について、米国では3州を除いて利用できます。日本では医療用・嗜好用ともに所持・使用等は違法です。

大麻の所持・使用・栽培等は20世紀前半に、米国が主導となって禁止になったり規制が強化されてきた歴史があります。

米国は世界に先駆け、1937年にマリファナ課税法を制定し、大麻の所持・譲渡の禁止しました。また医療・産業目的での利用には税金を掛けました。

米国は大麻を規制する前に、アヘン、モルヒネ、ヘロイン、コカインという薬物の製造や取引、使用を制限・禁止する動きを主導しました。大麻規制はその延長としてのものです。

米国がアヘンや大麻等の薬物の禁止を世界に先駆けて主導した表向きの理由は、薬物依存をなくすためでした。

19世紀後半から20世紀前半にかけてのグローバル経済のなかで、中国人・アフリカ人などの労働者が先進国で労働・強制労働に従事していました。

ストレス解消や疲労を感じにくくなる効果から、自主的・強要を問わず、これら海外労働者やによって様々なドラッグが使用されてきました。

先進国は次第に、これら海外労働者・奴隷のドラッグ使用(特に中国人によるアヘン使用)を、社会秩序における脅威として問題視するようになりました。

そこで1909年に上海で「国際阿片委員会」が、1911年にオランダのハーグで「国際阿片会議」が開かれ、薬物問題について話し合われました。

これら国際会議を主導したのは、当時国力をつけて覇権への道を進み始めていた米国でした。

国際阿片会議での審議を経て、薬物規制に関する初の多国間条約となる「アヘン及び他の薬物の乱用抑制に関する条約」(通称:国際阿片条約が採択・調印されました。

アヘンだけでなくモルヒネ、ヘロイン、コカインについても製造や取引を規制することが定められました。

ただ米国が薬物規制を主導したのは別の理由があると言われます。雇用を海外労働者から取り戻すことです。

南北戦争後の19世紀後半から20世紀前半にかけて、中国人、アフリカ人、メキシコ人といった海外労働者は、経済が好調で人手不足が深刻なときに重宝されることもありました。

しかし不況に陥るなどして労働力が過剰になると、白人労働者の雇用を奪う邪魔な存在とみなされました。

実際、1882年には「中国人排斥法」が、1924年には移民法が成立し、移民制限は厳しくなっていきました。

中国人はアヘン、アフリカ人はコカイン、メキシコ人はマリファナを使用していました。

ストレスや疲労を解消するための数少ない楽しみを奪うことで、移民に対し自主的な帰国を促したと考えられます。

また大麻の規制に関しては、米国が合成繊維産業の競争力を強める意図があったとも言われています。

米デュポン社のウォーレス・カロザースがナイロンを発見したのは1930年代で、ナイロンが工業化されたのは1938年、マリファナ課税法制定の翌年でした。

日本などは大麻繊維を原料に繊維製品を製造・輸出していました。

大麻繊維は、その丈夫さと通気性の良さから、軍服やロープ、その他多くの軍需物資の原料で、日本は第一次世界大戦中に欧州へ輸出して軍需景気の一要素となりました。

日本で大麻の所持・譲渡・輸出入・栽培等を禁止する大麻取締法が1948年に生まれたのは、GHQによる大麻の全面禁止の圧力があったためです。

 

このように、薬物や大麻の規制・禁止は、米国が世界的に力をつけ、覇権への道を歩んでいた最中に、米国主導で定められたという歴史的経緯があります。

その米国が、20世紀終わりから現在に掛けて、医療用・嗜好用大麻の解禁を主導してきたのです。

現在、米国の単独覇権は終わりへの道を歩み始めています。

世界の米国建て準備資産の割合は、各国中央銀行や政府による米国債売却が進んだことで、6割を切ってしまいました。

これは1995年以来、最低水準です。

一方でユーロ建て、円建て、人民元建てなど、他の通貨建ての準備資産の割合は増えています。

画像ソース: Zero Hedge

昨年、米国がパンデミック対策に失敗したなか、中国のGDPは米国の7割に達しました。7年後には中国が米国のGDPを抜き去るとの試算もあります。

科学論文数や特許出願数で、中国は米国を上回り世界トップで、現在も伸び続けています。

中国は新型コロナワクチンの製造数が世界トップで、世界70の国・地域は中国製ワクチン供給を承認・契約し、ワクチン外交に最も成功しています。他方、米国が製造するワクチンのほぼすべては自国内で消費されます。

中国では大麻の所持・販売・譲渡・栽培等は違法であり、最高刑は死刑です。

20世紀終わりから今日にかけ、多くの州で医療用・嗜好用大麻の解禁が進む米国。極刑を敷いたままの中国。

大麻解禁状況の違いは、米国単独覇権から米中等による多極型の時代へと変化している現在を象徴するものです。