スエズ運河での座礁は規模の経済追求が招いた人災

[2021/03/25 ロイター]スエズ運河の大型船座礁、離礁作業を再開 「状況次第で数週間も」

エジプトのスエズ運河で座礁した大型コンテナ船を移動させる作業は25日の満潮時に再開され、船舶追跡データによると、タグボート5隻での離礁作業が進められている。
スエズ運河庁によると、座礁した「エバーギブン」(全長400メートル、総トン数22万4000トン)はなお運河をふさいでおり、南北両方向とも通航できない状態となっている。
離礁作業に当たるオランダ企業Boskalisが蘭メディアに明らかにしたところによると、作業にかかる期間は不明で、「状況次第では数週間かかる可能性も排除できない」という

規模の経済の追求が招いた、必然の事故というのが個人的な印象です。

コンテナ貨物専用船が一般化した1960年代半ばでは700本程度のコンテナしか積めませんでした。

しかしグローバル化や中国の工業化が進み、世界の貿易量が急増する中で、コンテナ船は日に日に巨大化していきました。

1990年代後半にパナマ運河の通過を前提としないオーバーパナマックスの6000TEUのコンテナ船が就航しました。

現在では20000TEU型というメガコンテナ船が就航しています。

コンテナ船が巨大化したのは、規模の経済が働き、燃料費、運河通行料、人件費等の輸送コストを削減できるためです。

スエズ運河で座礁したエバーグリーンはメガコンテナ船で、全長は東京タワーの高さを上回る400メートル、幅59メートルあります。

スエズ運河の水路下部の最小幅は60メートルしかなく、最大でも170メートルしかありません。

こんな狭い水路を最小幅ギリギリのコンテナ船が通過するのですから、いつ復旧に何日もかかる「通行止め」が生じてもおかしくありませんでした。

今後、2023年ごろに国際海運の脱炭素化ルールが新設される見通しです。

規制の柱の一つが既存船舶の燃費性能向上で、一定の水準を達成できれば、国際的な認証を与え、運航を認められます。大型船が対象で、コンテナ船も対象に含まれます。

今回の座礁と、大型コンテナ船への環境規制強化で、コンテナ船の大型化の流れは止まり、より小型のコンテナ船を多く、AI等を駆使した効率的な輸送に切り替わるかもしれません。

もっとも、こうした「頭を使う」輸送システムの構築には時間とお金が掛かり、海運のパラダイムシフトが落ち着くまでの数年間、サプライチェーンの混乱が続くかもしれません。

ちなみにもう一つの海運の要衝であるパナマ運河では近年、エルニーニョ現象による干ばつで水位が低下し、運行に支障が出る危険性が高まっています。

今冬に卸電力の価格高騰の原因をつくったLNGですが、その多くはテキサス州で生産した天然ガスを液化し、パナマ運河経由で日本に運ばれてきます。