物議を醸しているGEの事業売却

[アボマガお試し版 No.159]物議を醸している事業売却の記事(一部)です。2021/03/22に配信したものです。

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GEからの2つの発表について

GEは3月10日に2つの発表をしました。

一つは取締役会が「8株→1株」の比率で株式併合を推奨すると発表しました。

株価を8倍にする一方、発行済み株式総数を8分の1に減らすということです。

過去数年間の事業改革を踏まえたもので、発行済み株式総数を時価総額が同程度の企業と同水準に引き下げたいとGE経営陣が考えているためです。

同提案は、5月4日に開催予定の年次株主総会で諮る予定で、株主が承認した場合、株式併合されます。

株式併合の発表でGEの株価は5%以上下がりました。株価が8倍になり、GE株を購入しにくくなることを市場が懸念したためです。

しかし株式併合はファンダメンタルズや1株の価値を変化させるものではありません。株式併合に関する発表による株価急落の影響はすぐに消えます。

もう一つ、航空機リース部門のGEキャピタル・アビエーション・サービス(GECAS)をアイルランドの同業他社のエアキャップに売却することを発表しました。

航空機リース企業の規模で1位のエアキャップ、2位のGECASが合併することになります。

合併後の会社は2000機以上の航空機材を保有することになります。これは2位が保有する航空機材の3倍超です。

GECASの売却完了は9-12ヵ月程度かかる見通しです。

GECASの売却観測は数年前から出ていましたが、GEにとってかつての花形だった事業の売却とあって、少なからず驚きをもって受け止められました。

GEがGECASの売却を決めた理由は2つあります。負債の削減と製造業への回帰です。

GECASの売却でGEは240億ドルの現金を得る見通しです。売却完了後、売却で得た現金と手元資金60億ドルを合わせた300億ドルを負債削減に充てます。

GECASを包含していた金融部門のGEキャピタルは、GECAS売却完了後にGEの製造業部門であるGEインダストリアルに吸収され、解散されることになります。

保険事業や電力部門のリース等、一部の金融事業は残りますが、GEキャピタルの解散に伴い、電力、再生可能エネルギー、航空機エンジン、医療機器の主力製造業4分野に資源を集中していきます。

GECAS売却で財務は悪化するのか?

GECASの売却とそれに伴うGEキャピタルのGEインダストリアルへの吸収・消滅は、GEの今後の経営に大きな意味があると考えています。

市場関係者のこれらに関する見解と比較しながら、これら決定のGEの経営に与える影響について考えてみましょう。

報道を見ていると、どちらかと言うとこれらGEの決定に否定的な意見が目立ちます。

一つはGEインダストリアルへの一本化で財務が悪化することへの懸念です。

GEはこれまで連結決算だけでなく、GEインダストリアルとGEキャピタルのそれぞれの決算についても一部公表し、負債削減目標もそれぞれ異なるものでした。

投資家や市場はこれら2つの部門を別物だと考えており、GEインダストリアルのみ注視してきました。

以前より規模を大幅に縮小してきた金融事業のGEキャピタルは過去の遺産のように思われており、将来的にGEキャピタルは売却・スピンオフしてGE本体から切り離されるだろうと暗に投資家や市場は期待していたものと推察されます。

GEインダストリアルへの一本化は、GECAS売却後の残りの金融事業をしばらく売却しないことを示唆します。

せっかくGEインダストリアルの負債削減が進んできた状況で、お荷物の金融事業を負債と一緒に抱えることへの失望があるのでしょう。

GEインダストリアルに一本化した後の財務状況はどのようなものになるのでしょうか。

・・・(割愛)・・・

GECAS売却で大黒柱の航空機エンジン事業は弱体化するのか?

もう一つの否定的意見は、GECASの売却でGEの稼ぎ頭である航空機エンジン事業が弱体化することへの懸念です。

航空機エンジンの納入先であるエアバスやボーイングはGEにとって顧客ですが、同時にエアバスやボーイングにとって、自社の航空機を購入するGECASは顧客です。

GEグループとエアバス・ボーイングは互いに顧客同士の関係であり、互いの製品を互いに良い条件で提供することが出来ました。GEにとって、GECASの存在は主力機のエンジンを有利な条件で受注することに役立ちました。

近年、エアバスとボーイングは、開発コストを削減できるために、新しい航空機用に複数のエンジンの選択肢を用意するのではなく、1種類のエンジンのみを提供することを好みました。

結果、GE製エンジンの競争力が増しました。エンジンの選択肢が狭まった航空会社に対しGEの交渉力が増し、航空機リースや航空機エンジンの保守サービスで有利な契約を得ることができました。

このように、GECASはGEの主力分野である航空機エンジン事業に陰ながら大きな力を与えてきました。

GECASの売却で、エアバス、ボーイングとの関係が弱くなり、GEエンジンのシェアが減る可能性があると同時に、航空会社に対する交渉力が低下し、航空機エンジンサービスの契約条件が悪化し、収益性が悪化する懸念が指摘されています。

実際のところ、どうなのでしょうか。

・・・(割愛)・・・