国債の本当のリスクは歴史を知ることで初めて分かる
今回は国債(紙幣)のリスクについてです。
長期投資では株式に投資を行うことが、個人投資家も比較的簡単に資産を殖やすことができると話しました。しかし人によっては「株式のリターンはリスクの高さに裏付けられたものだから、もっと安全な債券、国債を運用したい」と思われる方もいるかもしれません。
しかし国債は私たちが思ってもよらないとてつもないリスクを持っているものです。国が発行しているから安全、元利保証だから安全、とは必ずしも言えません。歴史を眺めることで初めて本当のリスクがわかるのです。
国債の本当のリスクは歴史を見ないとわからない
歴史を眺めてわかること、それは国債や紙幣は国家の危機、国家の破綻といった「人々が起こらないと信じてきたが実際に起こってきた最悪な出来事」、ブラックスワン的出来事によって、あれよあれよという間に紙くず同然になることです。
国家が繁栄しているときは国債は最も安全でも、逆に国家が衰退し国家の破綻を免れないときには最も危険な代物に成り下がってしまうのです。
歴史的に見ると次のような出来事が起こると国債や紙幣の実質価値は大きく下がってしまったり紙くず同然になる傾向があります:
- 巨額の資金が必要となった時(例えば戦時中の戦費調達)
- 敗戦時や敗戦後
- 政府の債務残高が急増しデフォルト懸念が高まるときやデフォルト時
- 革命前後の混乱期で政府への信用がまともに形成されていないとき
- 銀行や政府が金・銀の裏付けのない紙幣を無神経に発行し続け、大規模な信用創造をしたあげく、信用を喪失したとき
このような出来事が一つないし複合的に組み合わさることで、国債や紙幣の価値が大きく減少し、最悪紙くずになってしまうのです。
例えば敗戦や赤字国債の急増を大きな原因として国債や紙幣が紙くずになった例が、第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本です。どちらも戦後に酷いインフレーションを経験し、国債や紙幣を紙くずにさせてしまいました。
日本では1945-49年のあいだに卸売物価が60倍に膨れ上がるという未曽有の経験をしています。ドイツに至っては1年間で物価が5億倍に増加し、最終的には物価は大戦前の1兆倍となり、国債や紙幣は文字通り紙くずとなったのです。
第一次世界大戦前のドイツ国債や第二次世界大戦前の日本国債を購入した人は、例え現在まで保有し続けられたとしても価値は元に戻りきらないままです。80年、100年と長期保有しても実質価値は戻らないのです。
革命前後で国債が紙くずになってしまう一つの例はフランス革命です。太陽王ルイ14世が戦費調達のために巨額の政府債務を残したことを端緒にフランスの財政は悪化の一途を辿り、ハイパーインフレを引き起こしたあげく生じたのがフランス革命です。
フランス革命後も混乱は続き、政府はアシリア紙幣、マンダ紙幣といった新しい紙幣を導入するも、国民からの信用は得られずインフレも加速します。さらに恐怖国債と呼ばれる国債を発行しましたが、市場価格でみた利回りは60%に達するという有様。
結局はナポレオンの就任によりフランス中を覆うインフレの波は急速に収まっていったのですが、それまでの過程で国債や紙幣を紙くず同然にしてきたのです。
中央銀行の政策とジョン・ローの政策
そして私たちがいま最も警戒しなくてはいけないのは、銀行や政府が紙幣を乱発し信用創造しすぎたあげく、信用を喪失して国債の価値が大きく下がることです。
具体的にいえば中央銀行や政府による財政・金融政策により、中央銀行の信用が失われることで生じる国債や紙幣の減価です。というのは現在日銀やFRB、ECBといった、紙幣発行権を有する先進国の中央銀行がこぞって量的緩和政策やマイナス金利といった、極めて危険な金融政策を行っているからです。
現在の中央銀行の政策のまさに先駆者と言えるのが、フランスでルイ14世没後に王立銀行の総裁となった詐欺師、ジョン・ローです。いまジョン・ローの政策を簡単に知っておくのは決して無駄ではないと思うので、ここに簡単に記しておきましょう。
ジョン・ローは王立銀行(当時のフランスの中央銀行)の総裁でもありましたが、同時にミシシッピ会社と呼ばれる、金鉱探査を目的とした企業の創立者でもありました。彼は王立銀行とミシシッピ会社を利用して、とある作戦を敢行します。
ジョン・ローは壮大な謳い文句を利用してミシシッピ会社の株価をつり上げていきます。それと同時に王立銀行は決済にも利用可能で、ミシシッピ会社の株式と交換できる紙幣(王立銀行券)を発行します。王立銀行券の発行はフランスで最初の本格的な紙幣の導入となります(それまでは金や銀での決済が主流)。
最初は土地や金などに裏付けられた程度の発行で済んだのですが、ミシシッピ会社株の株価上昇により、株購入のための紙幣を増刷する必要があり、増刷していきます。
すると「株価高騰→紙幣の発行→株の購入が殺到→株価高騰→紙幣の発行→株の購入が殺到→・・・」というバブルが形成されていき、紙幣の発行はまさに王立銀行、ミシシッピ会社の信用のみに裏付けられる形となったのです。
しかしバブルも長くは続きません。次第に株式や紙幣の信用がなくなっていきます。これはマズイということで、大口取引での貴金属の使用を制限させ紙幣を強制的に決済に利用させる命令を出して延命を図りますが、こうした抑圧が長く続くはずがありません。
最終的にはあり得ない価格で株式と紙幣とをリンクさせる「ミシシッピ会社本位制」を導入しようとし、ジ・エンド。バブルは弾け、残ったのは大量の株式と紙幣だけ。当然高インフレを引き起こし、国債と紙幣は大きく減価されました。生き残ったのはバブルが弾ける前にミシシッピ株をすべて売却し、金や銀に交換した人たちだけなのです。
ジョン・ローが詐欺師と呼ばれるのは、このバブルがフランス政府の債務残高を減らすために最初から仕組まれたものだったからです。市中のフランス国債をすべて王立銀行が買い取り、国債の金利をフランス政府の信用を度外視した低金利に済ましてあげることでフランス政府の債務負担を軽減させてあげようとしたのです。
バランスシートでいえば、ジョン・ローは紙幣の発行によりバランスシートの右側(負債)部分を膨張させ、それに相当するバランスシートの左側(資産)部分をフランス国債で埋め尽くそうとしたのです。
実はミシシッピ株式は王立紙幣だけではなく、フランス国債でも購入することが出来たのです。ここがミソです。真の目的は財政赤字を減らすためにフランス国債を市中から回収することで、そのために株式が利用されたのです。
発行した紙幣で直接国債を購入するよりも、株価をつり上げてバブルを生み出せば快く国債と株式を交換してくれる人が現れ、国民の不満を生まずに国債を得られますからね。そして株価をつり上げるための道具の一部として、王立銀行による紙幣の大量発行が行われたのです。
ジョン・ローも政府を助けてあげることで政府から(国債)の金利収入(原資はフランス国民の税金)を独り占めできますし、貨幣鋳造権や徴税請負権という大きな権限も手中に収めることもできましたし、何よりも自身のマネー理論を世に広めて権威を獲得することもできましたし、経済学者でもあったジョン・ロー自身にとっても極めて大きいメリットがあったのです。
最終的には名目の債務残高はほとんど減らなかったようですが、高インフレによって実質債務残高は半分以下にまで減ったと言われています。言い換えれば王立銀行による紙幣の大量発行は高インフレを生み出し、国債の価値を大きく減らしたわけです。そして国民を犠牲にして政府を救う結果につながったのです。
王立銀行の資産の部をフランス国債で埋め尽くす...?これ、何かに似ていませんか?そうです、現在各国の中央銀行が行っている量的金融緩和政策そのものではないですか!紙幣をジャブジャブ発行して市中の国債を買い漁るという点ではジョン・ローの政策とまるっきり同様なのです。
しかも量的金融緩和政策により世界の相場が中央銀行相場になり、中央銀行の政策や発言によって株価が上昇したり下落したりする点もそっくりです。
具体的な手法の違いはあれども、政策の本質部分が非常に似ており、中央銀行による国債の買い占めが進んでいることや資産バブルを生み出している点で似たような効果が現れていると言えるでしょう。
果たして将来、ジョン・ローの場合と同じように高インフレが起こり、国債や紙幣の価値が大きく下がるかどうかはわかりませんが、いま世界の中央銀行がかなり危険な政策を行ってきているということだけは間違いないでしょう(中央銀行の中央銀行である国際決済銀行が国際金融システム崩壊についての警告しているくらいですから...ソース)。
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歴史を眺めてみると、歴史的に大きな出来事が起こる中で、高インフレ・ハイパーインフレとともに国債や紙幣の実質価値が大きく下落するリスクがあることに気づかされます。
歴史はサイクルです。見た目は異なっても、本質的には似たような興亡のサイクルが起こってきたことが歴史は教えてくれます。そう考えるとどこかの未来で、過去幾度となく経験してきたような、国債や紙幣を大きく減価、または紙くず同然にさせる出来事はきっと起こるでしょう。
国債は安全であるという意見を信じるも信じないも個人の自由ですが、実際に歴史を知ることで国債とはどういうものなのかをしっかりと理解することが大切です。
参考資料
・MISSISSIPPI History Now
・国債の歴史―金利に凝縮された過去と未来
最終更新日:2016年7月20日
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