長期投資と複利効果:インフレーションというマイナスの複利効果を働かせる魔物

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長期投資と複利効果:インフレーションというマイナスの複利効果を働かせる魔物

複利効果はプラスにもマイナスにも働く

 複利効果は「最初はゆっくりと積み上げてきたリターン、時間が経つに連れて気が付いたら驚異的なリターンを生み出す効果」と話しましたが、実は一つ言いそびれている重要なことがあります。

 

 それは複利効果はプラス方向だけではなく、マイナス方向にも働くことです。

 

 つまり複利効果は「最初はゆっくりと積み上げてきた損失が、時間が経つに連れて気が付いたら驚異的な損失を生み出してしまう効果」ともいえるのです。

 

 複利効果は最初のうちは中々影響に気づきにくいものです。もし損失に対して複利効果が働いていても最初のうちは損失が発生していることに気付けないかもしれません。そうです、知らないうちに損をしていて、気付いたら取り返しの付かない損失になってしまっていた...こうしたことが十分考えられるわけです。

 

 ですから私たちは投資を行う前にマイナスに複利効果が働くものは何であるのかを理解し、しっかりと対策を行う必要があるのです。

 

 それではマイナスに複利効果が働くものとは一体何なのでしょうか?それはズバリ、インフレーションです。

 

 

複利効果の敵:インフレーション

 マイナスに複利効果が働き続ける要因とはインフレーション、つまり通貨価値の下落です。インフレーションは通貨価値を複利的に減らすことで、皆さんの資産価値を長期的に大きく低下させて来るのです。

 

 例えば毎年のインフレ率が3%だと、5年で通貨価値が約16%減少、10年で約34%減少、20年で約81%減少します。これは現在持っている100万円が、5年後には84万円に、10年後に66万円に、20年後にはなんと19万円にまで減少するということです。恐ろしいですよね。

 

 下図は米ドルの1913年から2015年までの購買力の低下具合(インフレの影響度合い)を表しています。対数スケールですので、「直線的に下落している=複利的に下落している」ことを意味しています。

 

 下図を見ると長期的には購買力が直線的に下落、つまりインフレが複利的に働いていることがわかります。特に1970年代以降からインフレの複利効果が顕著です。これは1971年のニクソン・ショックにより、名実ともに何の裏付けもされていない通貨(不換紙幣)が世界的な通貨となり、無制限にお金をジャブジャブ印刷できるようになったことが一番の要因です。

 

アメリカのインフレと購買力の低下

画像ソース:FRED

 

 歴史を見ていくとインフレは必ずしも長期的にジワジワと起こっていくものとは限りません。紙幣を乱発するなどした結果、あるときから急激にインフレが進行し、数年-十数年程度で一気に複利的に資産価値が地に堕ちることの方がむしろ一般的です。

 

 インフレが短期的に急進するか長期的に継続するかの違いはあれども、歴史的にインフレは複利的に通貨の価値を下落させ、気付いた時には恐ろしい程に通貨価値を減少させてきたのです。

 

 ですから私たちはインフレという、気付かないうちにいずれ資産価値を大きく低下させる魔物から身を守らなければなりません。

 

 そのためにはどうすれば良いのか?答えは一つで「インフレ率よりも利回りの大きい資産を保有する」しかありません。言い換えれば「実質利回りがプラスの資産を保有する」ことです。そうすればプラスに複利効果を働かせることが出来るようになります。

 

 例えばインフレ率が3%だったら、長期的にリターンが5%や7%など、3%を上回るリターンを得られる資産に投資をするしかインフレから資産を守ることはできないのです。

 

インフレは富裕層と貧困層とに二分する

 インフレという魔法が存在している限り、私たちは「複利的に資産を殖やす」か「複利的に資産を減らす」かの2択に迫られるでしょう。理由は実質利回りがゼロのときしか購買力を維持することはできず、利回りがプラスにでもマイナスにでも触れると自動的に複利効果が働いてしまうからです。

 

 インフレが存在する世界においては、長い目で見たときに資産を現状維持させることは困難です。インフレリスクを理解して資産を複利的に増やす努力をするか、何も対策せずに知らず知らずのうちにインフレリスクに資産を晒して複利的に購買力を低下させるかのどちらかです。

 

 人間(または人間が裏でいくらでも変更可能なプログラム)が通貨発行権を握る限りインフレがなくなることはありません。インフレとは人間が生み出した「富裕層と貧困層とに二分する魔法」なのです。この魔法が掛かっている限り、私たちは複利の呪縛から逃れることはできないのです。

 

 複利効果をマイナスに働かせることは絶対に避けなければならない...となると、私たちは複利効果をプラスに働かせる努力をするしかありません。インフレが働く世界では、資産を守るために私たちは嫌でも資産運用をしなければならないのです。

 

インフレとは「危険性に早くから気づいて、手遅れになる前に対処しないといけないもの」

 よくインフレは良いインフレ、悪いインフレがあると言われますが、インフレに良いも悪いもありません。どんな状況であろうとインフレが資産価値を低下させて購買力を下げる力を持つことに変わりはありません。

 

 確かに景気が良いときにはインフレになる傾向がありますが、これは「経済が回って景気がよくなり賃金も上昇し消費も活発化」した結果としてインフレが起こっているだけです。
インフレが良いのではなく「景気が良くなったために実質賃金成長率がプラスになった」から良いのです。

 

 確かにインフレになるとメリットになる立場の人がいることは事実です。沢山のお金を使いたい人たち(企業・政府など)やお金を使いたい人たちにお金を供給して利益を得られる人たち(銀行など)です。インフレによって「今日借りたお金は明日返済するお金より価値がある」状態をつくれるので、こうした人たちにとっては安定した長期インフレは願ってもない状況です。

 

 しかし私たち消費者側にとっては、インフレは資産の価値を時間とともに減少させるデメリットはあるにせよ、メリットはないのです。何故ならインフレによって私たちが安心して生きられるために蓄えておいた貯蓄を目に見えない形で勝手に盗んでしまうからです。

 

 インフレは見た目の数値を良くさせながらも実は私たちの資産をかすめ取る、ある意味詐欺みたいなものなのです。インフレ以上の賃金成長率や預金金利があれば別に対処しなくても問題はないです。しかしそうなっていない今日ではこの詐欺師の影響に早くから気づいて対処しないと、気付いた時には莫大な資産を奪われてしまっていることになるわけです。

 

 私たちにとってインフレとは「危険性に早くから気づいて、手遅れになる前に対処しないといけないもの」なのです。

 

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 リスクには様々な種類があります。市場リスク、流動性リスク、信用リスク、地政学的リスクなどです。こういったリスクは短期的にはインパクトはあっても、長期分散投資を心がけていれば長い目で見ればあまり影響力は大きなものではありません。

 

 しかしインフレリスクは違います。インフレーションの複利効果によってインフレリスクは長期で不可逆的に影響してきます。長期になればなるほど「富裕層と貧困層を二分する」効果が爆発的に顕在化し、対応が遅れると資産をほとんどすべて失った状態からの再出発を余儀なくされます(歴史的な事実です)。

 

 インフレーションは皆さんの資産を時間とともに急激に減少させる恐ろしいリスクです。このことを絶対に忘れてはいけません。

 

最終更新日:2016年7月20日

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