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不安定が安定をもたらす-人工呼吸器とJensenの不等式-

   非線形に由来する"不安定が安定をもたらす"という考えが生かされようとしている分野があります。 そのうちの一つが人工呼吸です。

一定量空気を送る人工呼吸器のジレンマ

   医療の現場で当たり前のように使われている人工呼吸器。 ARDS(急性呼吸促迫症候群)といった肺の病気に掛かって呼吸が困難になると、人工呼吸器が取り付けられます。


   人工呼吸器によってどのように空気が送られているのかというと、患者の体重によって決まる、一定量の空気が規則的に送られているのです。


   規則的に毎回同じ量の空気を肺に送り込むのは直感的に正しそうな気がしますよね。 しかしこの手法はベストな治療ではなさそうなのです。


   背景にあるのは圧力と空気量に関するリスクのトレードオフです。 呼吸困難な患者には、出来るだけ多くの空気を送らなければなりません。 そうすると、患者の肺や気管にそれだけ多くの圧力を掛けることになります。


   しかし肺や気管が高い圧力を受けると、それだけ患者に負担が掛かって逆に死亡リスクを高めてしまいかねないのです。 肺の中に拳を入れられて、中からグッと力いっぱい肺を押し広げられる姿を想像してみてください。 想像しただけでも苦しくないですか?


   実際、人工呼吸器によって送られる従来の空気の量よりも少ない空気を送った方が、患者の死亡率が22%減ったとの研究結果があります。

   →The Acute Respiratory Distress Syndrome Network(2000)


   つまり空気を十分送れないリスク以上に、高い圧力を掛けるリスクがあると言えます。


   でもやっぱりちゃんとした量の空気をもっと患者の肺に送り届けたい。 患者の圧力負担を減らしながら十分な量の空気が送れるようになれば、もっと患者の死亡率を減らすことができるのではないか。


   患者の圧力負担を減らしながら空気をちゃんと肺に送り込むという、一見"矛盾した"課題への解決が模索されているのです。


   一見解決策がなさそうなこの課題。 しかし現在研究によって、この課題を克服できるある方法が考えられています。


   それは"不安定"に空気を送り込むという手法です。 時折"ノイズ"を交えることが、かえって安定性を生むのです。 その肝となるのは圧力と空気量の"非線形性"です。

圧力と空気量の非線形性と不安定が織りなすコントラスト

   参考ソース:Convexity, Jensen’s inequality and benefits of noisy mechanical ventilation(2005)


   圧力と空気量との関係は、下図のように非線形であることが知られています。 横軸が圧力、縦軸が空気量です。 (a = 0, b = 1200, c = 30, d = 7 としたときのグラフです)


圧力と空気量の関係


   この非線形性を考えると、理論的には毎回同じ量の空気を送るのではなくて少ない空気量と多い空気量を混ぜ込んで送る方がより効率がよくなるのです。


   例えば毎回18cm H2Oの圧力を掛け続ける"安定的な"方法と、10~26cm H2Oの間で圧力をランダムに変えながら空気を送る"不安定な"方法を考えてみます。 どちらも平均して18cm H2Oの圧力を掛けるという点では同じです。


   すると、安定的な方法で送れる空気量は183.13mlとなります。 一方で"不安定な"方法だと、なんと205.73mlの空気が送れるのです。 つまり不安定な方法の方が、安定な方法よりも12%も多くの空気を患者の肺に届けることができるのです。


   不安定な方法をさらに変えて、10cm H2Oの圧力と26cm H2Oの圧力だけを半々で掛けるという"極端な"方法を考えてみましょう。 こちらも平均して18cm H2Oの圧力を掛けることになります。


   すると、送れる空気の量は249.14mlにまで跳ね上がります。 何と安定な方法よりも36%もの多くの空気を送り込めるのです。


   いまは平均圧力を保ったまま圧力を変化させたときに、どれくらい空気の量が増えるのかを見ました。 今度は逆に、平均の空気量を保ったときにどれだけ圧力を減らせるかを見てみましょう。


   平均して205.73mlの空気を送ることを考えましょう。 一つは"安定的な"手法、もう一つは"不安定な"手法です。


   安定的な手法だと、常に18.97cm H2Oの圧力を掛けることが必要です。 しかし不安定な手法だと、上で見たように、10~26cm H2Oの間で圧力をランダムに変えても平均して205.73mlの空気量を送れます。


   この場合は平均18cm H2Oの圧力で十分なので、安定的な手法に比べて5.2%の圧力削減が出来ています。


   また249.14mlの空気を送るのに、安定的に送り続けるには20.62cm H2Oの圧力が必要です。 しかし上のように半分10cm H2O、半分26cm H2Oという極端な方法で送っても同じ249.14mlの空気が送れます。


   この場合は平均で18cm H2Oの圧力となるので、安定的な手法よりも12.7%もの圧力削減が実現できます。


   このように不安定にすれば、圧力を減らしても十分な空気量を確保することができるのです。

不安定が安定をもたらすギミック:Jensenの不等式

   毎回同じ量の空気を送る安定的な手法よりも、送る空気の量を変える不安定な方法のほうが効率的だということを見ました。 これは"Jensenの不等式"という有名な数学の定理に由来します。


   上では"不安定な"ケースと"極端な"ケース、二つのケースを見て、両方とも"安定した"ケースよりも効率が良いことを見ました。 しかし何もこの二つのケースにだけ成り立つわけではありません。


   圧力(または空気量)の平均が同じであれば、どんなケースでも"安定した"ケースよりも"不安定な"ケースの方が効率が良くなるのです。 これがJensenの不等式が保証するものです。


   注意があります。 こうした不安定が安定よりもよいケースは、グラフが下に凸の場合だけです。 上に凸になると、不安定にするとむしろ非効率になってしまいます。


   最初のグラフを見ると、下に凸の部分と上に凸の部分が組み合わさったグラフの形状をしています(圧力が30cm H2Oの左側が下に凸、右側が上に凸です)。


   よって無理に圧力を掛け過ぎると、かえって非効率になってしまうのです。

呼吸とべき乗則

   別の視点で不安定に空気を送ることの妥当性を見てみましょう。


   人間の呼吸は規則的ではなく不規則であることが知られています。 不規則というのも若干の語弊があって、呼吸は"べき乗則"という法則に従って不安定に行われていることが知られているのです。


   一言でいえば、「不安定が安定をもたらしている」のです。


呼吸とべき乗則


   普段暮らしている分にはわからないですよね。 でも私は普段の生活でこうした不安定さを実感しています。


   ジョギングするとき、「吸って吸って、吐いて吐いて」みたいなのを規則的にずっと繰り返しているとかえって呼吸が苦しくなります。 「ちょっと吸って、吐いて吐いて吐いて」とか「大きく吸って、吐いて」といったレパートリーをいろいろ混ぜ込んだほうが、むしろ呼吸が楽に感じます。


   こういう不規則な呼吸のメカニズムを考えれば、人工呼吸器も規則的ではなくて不規則に送る方がむしろ自然ではないか、そんな風にも思えるわけです。


   こういう目線で見ても、圧力をいろいろ変えて送り込む空気の量を変動させる方がかえって合理的なように見えます。


   **********


   最後に、上の非線形に関する話はあくまで理論的な話です。 不規則にノイズを交えて肺に空気を送り込むことが死亡率を減らすのかは2014年現在、わかっていません。


   しかし不規則に空気を送り込むことの実証性を確かめるために、現在いろいろ実験が行われています。 実験対象は主に動物ですが、不安定に"ノイズ"を交えて空気を送ることが良い効果をもたらす結果もいろいろ出ています。

   →参考ソース


   こういった非線形に由来する、人間の直感に反した"不安定が安定をもたらす"という発想がこれから先に広がっていくのではないでしょうか。


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