生存率は医療界の生存にプラスに働く

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生存率は医療界の生存にプラスに働く

   以前の記事で、生存率と死亡率がどういったものかについて説明しました。 これらはコインの裏表の関係に見えますが、実際は似て非なるものです。


   また前回の記事で、生存率、生存期間といった"生存"目線で見てしまうと、様々なバイアスに掛かってしまって医療の進歩を実態以上に評価してしまいやすくなることを書きました。


   医療関連のホームページや資料を読んでいると、生存率や生存期間といった"生存"を含むワードが目立ちます。


   では何故医療従事者たちは死亡率ではなく、生存率や生存期間を使いたがるのでしょうか。 死亡率といった"死亡"よりも、ポジティブなワードである"生存"という言葉によって私たちの不安を和らげたいのでしょうか。


   ポイントは医療界の生存です。 生存というワードを使うと医療界が生存するために大きなメリットがあるのです。

生存率は医療界の生存にプラスに働く

   最初に書いたような、様々なバイアスによって医療の進歩を印象付けやすくなるという意味ももちろんあるでしょうが、それだけではありません。 安定的に収益をあげるという意味でも、医療界には大きなメリットになります。


   医療関係者、医療界も所詮は人間や組織です。 お金がなければ暮らすことも出来なければ、組織を維持することもできません。


   では医療関係者が最も安心して稼ぐためにはどうすればよいでしょうか。 それは出来るだけ同じ患者から長い間治療費を稼げばよいのです。 そうすれば安定的に収益を増やすことができますから。


   私たちだって、不規則に稼ぐよりも長い間安定的に給料をもらえるほうが安心しますよね。 それは医療関係者だって同じです。


   しかしそのためには患者の生存期間を何としても増やす必要があります。 では生存期間を増やすにはどうすればよいのか。


   一番効果的なのは病気を早期発見することです。


   病気を早期発見することには次の二つのメリットがあります。 一つは早期発見によって早くから患者を確保することが出来ること。 そしてもう一つは早期発見によって患者がすぐに亡くなるリスクが減るので、安定して長期間治療を出来ることです。


   つまり早期発見によって、生存期間を長くするために必要な「始まりの期間を早くしてケツを伸ばす」という2つの要件を同時に満たすことができます。


   よっていかに患者を早期に診断させて、早期に病気を発見するかが医療従事者にとって収入を増やすためにとても大切になります。 そこで生存率という言葉を上手く使って、早期診断の大切さを訴えます。


   「早期(ステージⅠ)の場合5年生存率は95%ですが、末期(ステージⅣ)の場合の5年生存率は7%にまで減ります」のような具合に。


   しかし「5年生存率」ではなく「死亡率」という言葉を使ってはこのような宣伝はできません。 早期にがんが見つかっても、末期にがんが見つかっても、死亡する年齢が大して変わらない場合があるからです。(リード・タイム・バイアス)


   そうすると早期検診メリットのインパクトが減るだけでなく、死亡率が大して変わっていない→医療が大して進歩していないと思われて、早期検診する人が途端に激減してしまうかもしれませんから。


   「95%と7%」という、両極端な対比をすることで私たちに早期診断を促し、患者から長期間安定的な収入を得るためには、どうしても"生存"という言葉を用いらざるを得ないのです。


   ・・・


   少し話が逸れますが、以前話したように医療界では相対生存率という言葉が良く使われます。 そして生存率≦相対生存率ということを話しました。


   生存という言葉を使って医療界を生存させたいことを考えると、相対生存率を使っている理由は出来るだけ高い数値を見せることで医療の進歩をより背伸びして見せたいという気持ちの表れなのではないでしょうか。 ちょっと考えすぎですかね。

完璧な指標は存在しない

   生存率、生存期間が医療界にメリットがあって、場合によっては患者には何のメリットがないことを説明しました。


   だからといって死亡率を指標として用いれば良いのかと言えば、必ずしもそうではありません。 死亡率も大きな欠陥があります。


   当たり前ですが、全病気の死亡率なんて未来永劫変わるはずがないのです(高齢化に対する人口調整を考慮すれば)。 何かの病気の死亡率が減れば、他の何かしらの死亡率は増えざるを得ないのです。


   それにIatrogenesis(医原病)の問題もあります。 例え手術や抗がん剤、放射線治療によって胃がんが良くなったとしても、この治療が別の病気を引き起こすかもしれないです。 例えば胃がんが良くなって数年後に肺炎で亡くなったら、死因は肺炎だということになるでしょう。


   例え特定の病気の死亡率が減っても、その治療による副作用によって別の病気で死んだら意味ないですよね。


   こういう意味で、例え死亡率が低いからと言って問題ないわけでは決してないのです。


   それに生存率も決して医療界にだけメリットがある指標と言うわけではありません。 進行が早いがんだったり、末期のがんに対する5年生存率という考えは重要です。


   もしこういったがんに対する5年生存率が上がれば、本当の医療の進歩だといえます。 何故ならこうしたがんはほっといたらすぐに亡くなる可能性もあるからです。


   何も医療を受けなければすぐに100%死ぬところを、医療によって20%でも5年間生存できればすごくないですか。 ひどい副作用で延命期間中にずっと生き地獄を味わうのならば意味ないですが、そうでないならば医療の力を素直に受け入れるべきです。


   しかしジレンマもあります。 それは以前に述べたレングス・バイアスによって、進行の早いがんが生存率という数値に反映されにくいことです。


   よって例え進行が早かったり末期のがんの生存率が増えたとしても、生存率の数値に現れない"真の"生存率は数値よりも低いと見るのが自然です。


   結局、死亡率や生存率といった指標に絶対はないのです。 副作用、早期や末期といったステージ、こういった要素を考慮せずに死亡率や生存率といった数字を解釈することは無意味なだけではなく、誤った医療を受ける元凶ともなりかねません。


   全うなお医者さんは「最後に決めるのは患者さん」と言いますが、この言葉こそ一番心に留めておくべきものなのです。 数字に惑わされないためにも。


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