最初の異変が訪れたのは米東部時間27日午後9時41分(日本時間28日午前11時41分)だった。ウォール街の大半が感謝祭で休業となり、トレーダーにとっては休日をなお楽しんでいる時間帯だった。
世界最大の先物取引所運営会社である米CMEグループは顧客に送った1行の電子メールで「技術的な問題により」先物およびオプション取引の「市場が停止した」と通知した。
原因は、シカゴから約80キロ離れたイリノイ州オーロラ郊外にあるデータセンター複合施設の冷却システムだった。同施設は、日々数兆ドル規模のデリバティブ取引を支える主要拠点だ。事情に詳しい関係者によると、外は極寒にもかかわらず、施設内の温度は摂氏38度を超えていたという。
障害発生日が感謝祭期間であったことに感謝です。
CMEグループは株式、債券、通貨、商品の先物・オプション取引の20~95%を寡占・独占しています。
取引所の買収により集中度合いが高まり、これら商品+暗号資産、天気のベンチマーク商品でグローバル流動性を独占し、リスク管理の標準となっています。
先物やオプション取引はリスク低減のために行うものですが、そのための取引所がリスクの発生源となりボラティリティを高めてしまった格好です。
今回はほとんどのトレーダーが休暇を取っており薄商いだったので影響は軽微でしたが、もし平日に発生していれば、世界の市場により深く広範な影響を与えていた可能性があります。
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この障害の根本的な原因は、イリノイ州オーロラにある一か所のデータセンター複合施設にCMEの取引インフラが集中していることです。
これはCMEのデータセンター運営費用を下げる目的があることはもちろんですが、高頻度取引(HFT)業者に対するコロケーションサービスを提供することがより大きな目的としてあります。
コロケーションサービスとは、取引所のマッチングエンジン(注文を成立させるコンピュータ)が置かれている同じデータセンター内(またはすぐ隣の建物)に、自分の取引サーバーを設置させてもらう有料サービスのことです。
HFT業者にとって数ナノ秒の取引の遅延は生死を分けます。コロケーションサービスを利用して取引サーバーを物理的に少しでもマッチングエンジンに近づけ、取引時間を数ナノ秒縮めることで、優位に立とうとしています。
データセンターが複数個所に分散しているとHFT業者が儲けることが難しくなりコロケーションサービスの質が落ちるので、一か所に集中しているわけです。
CMEほど極端ではないものの、ICEの運営する先物・デリバティブ取引所やNYSE、NASDAQといった直物の株式取引所でも、コロケーションサービス提供のためにデータセンターは地理的に集中しています。
今年10月にもAWSのデータセンターで障害が起こり、米国を中心にソーシャルメディア、ゲーム、銀行、航空などの一部サービスが止まり復旧に15時間以上を要しました。
これもAWSのインターネットトラフィックの約70%が経由する重要なハブで障害が起こったためであり、地理的集中が根本原因でした。
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データセンターの地理的集中が解消したわけではないので、今後またどこかの取引所でいつ障害が発生しても不思議ではありません。
場合によっては復旧に何日も要し、この間ずっと取引所が閉鎖したままになるおそれだってあるのです。
主要な取引所が止まると、市場の価格発見機能が大きく損なわれ、適正価格が定まらなくなる結果、流動性の90%以上を提供している高頻度取引やマーケットメイクを行うアルゴリズムがパニックになり、市場から一斉に撤退します。
結果、市場流動性がほぼ枯渇し、価格変動が激しくなります。
現在のようにバブルが長期で膨らみ市場に楽観が蔓延しているなかでは、大きなパニックに発展する可能性は無きにしも非ずです。
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考えてみると、ここ何回かの巨大な市場暴落はグローバルなネットワーク化が進んだことで、悪影響が世界中に即座に伝播したことで発生しています。
リーマン危機は金融がグローバル化し、世界中のマネーが米国(特にサブプライム住宅関連市場)に流れたことで、あれだけ大きな金融危機に発展しました。
コロナ危機は世界的な自由な人の移動があったからこそ、世界中にウイルスが即座に蔓延し、各国はロックダウンを強いられ、一時世界大恐慌並みの不況になりました。
今回のようなデータセンター障害は、世界中に張り巡らされた光ファイバーを通じて世界中に文字通り光速で影響が伝播し、銀行・航空・物流など重要な経済社会インフラを機能不全にする力があります。
データセンター障害がバブル崩壊、金融危機の引き金になることは、不思議でも何でもないのです。
★長期投資家にとっては取引所の障害・閉鎖やこれに伴う市場の動揺が起こっても何も問題ありません。
投資先企業のファンダメンタルズには一切関係なく、配当収入には何の影響もありませんから。
むしろパニックによる株価大暴落は、「ダブルの複利」により将来の配当収入を殖やすためのまたとない機会となります。詳しくはこちら。