「金融の神様」がグローバル金融の崩壊を警告し続けている
(本記事は私のブログ記事の複製です)
2017/08/02
【2017/08/01 ブルームバーグ】グリーンスパン氏が警告-株価ではなく債券バブルの破裂に用心を
アラン・グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、株式市場の行き過ぎを探し回る株式弱気派に対し、債券相場について心配した方がよいと警告した。実際にバブルが発生しているのは債券市場であり、それが破裂した場合には誰にとっても悪い事態をもたらすという。
グリーンスパン氏はインタビューで、「どのような基準から見ても、実質長期金利はあまりにも低過ぎるため、持続不可能だ」と指摘。「こうした金利が上昇する場合、かなり急速に上昇する公算が大きい。われわれが経験しているのは株価ではなく債券相場のバブルであり、それは市場に織り込まれていない」と語った。
その上で、「真の問題は債券市場のバブルが崩壊した時に、長期金利が上昇する点だ。われわれは1970年代以降目にしたことのないスタグフレーションへと、違った経済局面に移行しつつあり、それは資産価格にとって良くないものだ」とグリーンスパン氏は論じた。
アラン・グリーンスパン、91歳。先の短い人生のなかで、最後に自分の長年の「夢」を達成するために、彼は警告を続けるのか...
グローバル金融世界の創造主が、創造されたシステムの維持は困難だと繰り返し述べている
アラン・グリーンスパン氏は1987年8月、ブラックマンデーの2ヶ月前にFed議長に就任し、米国市場前例のない5度の再任を経て、2006年1月末まで20年近くFed議長を続けました。
彼がFed議長の任期中、米国を初め世界中の金融環境は趨勢的な低金利へと流れ続け、米ドルを中心としたペーパーマネーが国境を越えて世界中を駆け巡り、グローバリゼーションの原動力をつくりあげました。
彼がFed議長を退いた後も、後任のバーナンキ氏も現在のイエレン議長も彼の低金利政策の流れを受け継ぎ、ゼロパーセント近くの低金利環境や量的金融緩和による膨大なペーパーマネーの創造という形で現在までその流れが続いてきました。
金融政策の行方について多弁を費やしながら、含みをもたせ、言質を取らせなかった言葉で市場関係者を幻惑しつつ、巧みに市場金利を望ましい水準に誘導し、「金融の神様」「マエストロ」の名をほしいままにしたグリーンスパン氏。
彼が行使してきた「神の力」を根源に、現在の異常なグローバル金融世界という形で今日までの世界が支配・創造され続けたのです。
そんなグリーンスパン氏ですが、昨年から世界金融における長期金利上昇という警告を一貫して発してきています。
【2016/08/19 ブルームバーグ】グリーンスパン氏:米金利は近い将来に上昇へ、恐らく驚くほど急速に
グリーンスパン氏はブルームバーグ・ラジオとのインタビューで、「こうした金利水準をずっと長く維持できるとは考えられない」と述べた。
「金利は上昇し始めるはずで、そうなった場合は、その速さでわれわれを驚かす可能性がある」
グリーンスパン氏は米経済が低い経済成長と高いインフレ率を伴うスタグフレーションの局面に向かっているとする懸念をあらためて表明。単位労働コストが上がり始め、マネーサプライの伸びが加速し始める中、「その非常に初期の段階に至ったことが明確になりつつある」と指摘した。
【2017/09/23 ブルームバーグ】米国債(22日):堅調、グリーンスパン氏は持続不可能と警告
グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長はこの日、国債市場の強気相場は持続不可能であるとの見解を示した。
グリーンスパン氏は10年債利回りが長期的に最高で5%まで上昇する可能性があると警告した
【2017/11/08 ブルームバーグ】グリーンスパン氏:米国債利回りは5%に上昇も-インフレ定着で
グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、米国ではインフレの定着とともに期間長めの市場金利は上昇すると予想した。
グリーンスパン元議長は7日、ブルームバーグテレビジョンのインタビューで、「現在進展しつつある初期段階のインフレが定着すれば、かなり早期に、10年債に見られるような異例に低い利回りからの非常に大きな転換が起きる可能性がある」とし、「3-4%、またゆくゆくは5%の領域に上昇すると思う。過去の例がそれを示している」と続けた。
グリーンスパン氏は「米国ではインフレ加速の極めて早期の段階に入りつつある」と述べ、「それが引き金になり得る」と加えた。
昨年から現在まで、「米国の長期金利およびインフレ率が長期的に上昇するだろう」という懸念を、グリーンスパン氏は口がすっぱくなるほど言い続けてきたのです。
主要国中央銀行による量的金融緩和政策により、莫大なペーパーマネーが創造されてしまった現実を加味すれば、つまりこういうことです。
「神の力」によって今日まで創造されてきたグローバル金融の世界が、現在の形では事実上維持不可能であると、「創造主が繰り返し述べられている」のです。
ゴールド信奉者がペーパーマネー金融システムの長となった背景を考える
今年2月、ゴールド市場開拓国際機関であるWorld Gold Councilのインタビューで、グリーンスパン氏は次のように答えています。
【2017/02/18 フィナンシャル・ポインター】
グリーンスパン氏がWorld Gold Councilのインタビューで語った内容をBusiness Insiderが伝えている。
グリーンスパン氏は「金を主要な世界通貨と見ている」と語ったとされる。
「今日、金本位制への回帰は絶望の末の行動と見られがちだ。
しかし、現在、金本位制が実施されていたら、今のこんな状況にはなっていなかったろう。」
「もしも金本位制であったなら、こんな状態にはなっていない。
金本位制は、財政政策が脱線しないことを確保する一つの方法だからだ。」
グリーンスパン氏はかねてから「通貨としてのゴールド」に肯定的な発言をしてきた人物です。
彼は1966年に「金と経済的自由」という論文を発表し、金本位制を批判する人々への反論を交えながら「通貨としての金」や「国際金本位制」を肯定する立場を明確に表しています。
特にペーパーマネーなどとは異なり「価値貯蔵」という性質を満たす通貨としてゴールドが優れていることを、論文全体でアピールしていることが印象的です。
その後Fed議長になり、金利操作を通じてペーパーマネーのコントロールを行ってきたなか、1999年5月の上院銀行委員会では、「金(ゴールド)の、売却はいたしません。ゴールドは究極の通貨だからです」と述べています。
彼はFed議長という「ペーパーマネー銀行システムの長」になってからも、本音ではゴールド信奉者であり続けたものと思われます。
彼は50年以上、一貫して「ゴールドは究極の通貨」だとする考えを持ち合わせているほどの、ゴールド信奉者だと言えるでしょう。
そんな彼が、昨年から一貫して長期金利やインフレ率上昇に対する警告を発し続けていると同時に、今年に入り改めてゴールド信奉者としての意見を述べたのです。
1970年代に米国で起こったスタグフレーションの時代には実質金価格は大きく上昇し、10年で10倍以上に膨れ上がり過去最高レベルに達しました。インフレ率の上昇分を割り引いても、強烈なスピードでゴールド価格は上昇したのです。
画像ソース:GOLDPRICE
グリーンスパン氏は私たちにチャンスを与えてくれているのです。
「世界の金融市場が1970年代のような環境になろうとしている。だからいまのうちにゴールドを持って備えなさい」と。
しかしそれだけではありません。
「来るべき時に備えてゴールドを持ちなさい」と暗に警告を発すると同時に、彼はある長年の「夢」を、鬼籍に入る前に達成したいのでしょう、おそらく...
彼は「金と経済的自由」のなかで、ペーパーマネー金融システムに対する明確な批判を述べています。
19-20世紀前半までの金本位制が崩れてから、福祉国家を支持する国家統制主義者たちが銀行システムをツールにして無制限に信用を拡大できるようにしたことで、富の隠然たる没収の仕組みが出来上がり、富の保有者が自らを守る手段を持たないようにしたと、ペーパーマネー金融システムを否定しています。
さらに論文では、ペーパーマネー金融システム信奉者たちによって1913年にFedが立ち上げられ、Fedの金融緩和政策が結果的に世界恐慌をもたらし世界経済をほとんど壊滅させたとの見解も述べられています。
50年前、彼はFedに否定的な見解を示していたのです。
しかしその後彼はFed議長に任命され、およそ20年にわたって「ペーパーマネー銀行システムの長」として、世界恐慌が起こる前の1920年代の金融政策と同じように、金利操作による金融緩和政策を実行し、無制限な信用拡大を助長してきました。
以前論文で批判していた「国家統制主義者たち」の理念に沿うように、金融政策を実行してきたのです。
彼は権力を手中にしてから豹変したのか、悪魔に魂を売り渡したのか、誰しもそう思うことでしょう。
...果たしてそうでしょうか。
彼は「金と経済的自由」のなかで、Fedの金融政策が結果的に世界経済をほとんど壊滅させ、世界中で銀行破綻の続出を招き、世界各国の経済が1930年代には大恐慌に突入していったとの文脈の後に、次のように述べています。
国家統制主義者たちは,一世代前を思わせる論法で,大恐慌を引き起こした信用の津波の要因は主として金本位制にあると論じた。金本位制がなければ,1931年にイギリスが金での支払を拒んでも世界中の銀行が破綻することはなかったというのである。
ここで今年2月のグリーンスパン氏の発言をもう一度引用しましょう。
今日、金本位制への回帰は絶望の末の行動と見られがちだ。しかし、現在、金本位制が実施されていたら、今のこんな状況にはなっていなかったろう。
これら二つを比較してみると、彼の長年の"夢"が見えてきます。わかりますか?
答え(私の見解)を言います。
「大恐慌の要因は金本位制にある」とする思想に対する壮大な復讐を行い、「国際金本位制」を確立したいのです。
私にはそのように映ります。
特に重要なのは、最初の「大恐慌の要因は金本位制にある」とする思想に対する壮大な復讐です。
この復讐を成し遂げるためには「ペーパーマネー金融システムこそが大恐慌の要因である」ことを証明することが不可欠です。
ではこれを達成するためにはどうすればよいでしょうか?私だったらこうします。
「ペーパーマネー金融システムの長であるFedを大恐慌の要因となるように仕向ける」ことです。
こう捉えれば、何故ペーパーマネー批判をしてきた人物が、ペーパーマネー銀行システムの長となり、無制限の信用創造を助長する政策をとって長から退いた後、ペーパーマネーの信用不安を懸念する意見をメディアを通じて発言しているのか、すべての点が一つの線につながります。
グリーンスパン氏はFedの最高責任者となり、彼がとった金融緩和政策は、その後もFedを初めとして世界中の主要中央銀行の金融政策に受け継がれ、現在では中央銀行の巨額のバランスシートにまで発展してしまいました。こうして「ペーパーマネーのバベルの塔」が築かれてしまったことで、いまでは世界中で主要国中央銀行の金融政策に対する不安が高まってきています。
「ペーパーマネー金融システムの長であるFedを大恐慌の要因となるように仕向ける」ことが彼の計画にあったとすれば、それはどうも成功しているように見えます。
彼の壮大な"夢"の一部は、彼が鬼籍に入る前に達成できるかもしれません。
国際金本位制になるかどうかと言われれば、それはわかりません。
しかしロシアや中国等の中央銀行はここ何年もゴールドを購入してきましたし、中国はすでに世界最大の現物金市場となり、金現物の取引も日々活発化しています。
今年上半期の現物金の需要は前年同期比より17%増えていますし、最近の金先物の大口投機玉の買い越しポジションの少なさの割には以前と比べて金価格が上昇していますから、個人による金への需要もまた、確実に増えているトレンドのようです。
またオンライン上での金取引サービスや、ブロックチェーン技術を利用した金取引サービスも出始めており、個人が少ない手数料で気軽に金の売買ができる環境が着実に整えられているようです。
暗号通貨の出現もあり、国際金本位制になるかどうかは正直わかりませんが、少なくともゴールドに対する関心が高まっていることは間違いなさそうです。
少なくともペーパーマネーによる「米国基軸通貨制度」「一国一通貨制度」の存続は、今後難しいのではないでしょうか。
マエストロの警告に耳を傾けるか否かは、あなた次第
グリーンスパン氏に対しては批判の声も根強く残っています。
彼が生み出したグローバル低金利環境は莫大な信用と金融バブルを生み出し、2007年のサブプライムローン危機、その後の世界金融危機の元凶となりました。さらには世界経済は以前と比べ力強さがなくなってしまい、現在でもリーマン・ショック以前の経済状況まで回復できていない国も多く存在します。
それゆえ、グリーンスパン氏が世界経済を崩壊させた張本人だと考える人たちも多数存在するのです。
仮にグリーンスパン氏が「破壊神」だとしても、破壊神の声には耳をふさぐべきでしょうか。
私はそのようには考えません。
たとえ彼が世界経済衰退や崩壊の立役者だとしても、彼の長期金利やインフレに対する警告はしっかりと耳を傾けるべきです。
何故なら彼は現金融環境の創造主の一人だからです。創造主の一人であるがゆえに、一体どのような理念を基盤に現在の金融環境が創造されたのかは当然知っているでしょうし、現在の状況がその基盤となる理念からどの程度乖離しているのか(つまりどの程度危険な方向に向かっているか)についても直感的に認識できることでしょう。
それに今後歴史で永遠に語り継がれるであろうほどの世界的な知名度を持つ高齢の人物が、鬼籍に入る前に何の根拠もなしに「恐ろしい警告」を発することなど、普通考えられないです。晩節を汚すだけですから。
彼の長期金利やインフレ率の長期的な上昇という懸念、警告は、彼なりの裏づけを持った、蓋然性を無視できない未来に対する、文字通りの警告であると捉えなくてはならないでしょう。
グリーンスパン氏の警告に耳を傾け何かしらの対策を講じておくか、それとも耳を貸さずにジジイの戯言だと切り捨てるのか、それはあなた次第です。
私が利用しているゴールド購入サービスのブリオンボールト。大変動に備えたい方のみご覧ください。
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