キャッシュレス社会:タンス預金の罠と対処法

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キャッシュレス社会:タンス預金の罠と対処法

初回公開日:2017/01/04
最終更新日:2017/01/06

 

 今回はブリオンボールトや金投資に直接関係ある話題ではありませんが、金投資される方にはおそらく興味があるであろう、資産防衛に関するちょっとした情報をお届けします。

 

 【重要】本記事の内容はあくまで個人的な意見ですので、最終的には皆さんの頭で考えて行動してください。

 

 

キャッシュレス社会:タンス預金の罠と対処法

 こちらの記事で書いたように、現在世界は電子決済がメインとなるキャッシュレス社会への移行が進んでいます。ヨーロッパを中心にアジアでも進行中で、電子決済が決済の中心に移行する趨勢は今後も続きそうです。

 

 キャッシュレス社会は単に決済の中心が電子決済に移行するだけではなく、現金の使用や保有に対するペナルティも同時に付与される可能性が高いです。すでに欧州では、現金退蔵に便利である高額紙幣の500ユーロ札発行が2018年に終了することが決まっています。

 

 さらに2016年のアメリカ大統領選挙の投票日と同日にインドでは突然高額紙幣の通用が禁止となり、新紙幣への交換が強要されました。インドでは新紙幣への交換に伴う社会の大混乱が現在も続いています。

 

 モディ首相は今回の高額紙幣の交換強要については、不正資金やマネーロンダリングへの対処の一環だと話していましたが、その後キャッシュレス社会の推進を公言したことから、おそらくキャッシュレス社会移行のための実験の要素が含まれているものと思われます。

 

 こうした世界の流れを見るかぎり、当然日本でも今後キャッシュレス社会の推進に向けて動き出すことが考えられます。そしてキャッシュレス社会が現物通貨保有へのペナルティと結びついている以上は、タンス預金への影響を考えなくてはなりません。

 

 ※現在のところ、日本のキャッシュレス化にむけた直接的な大きなニュースを私は知りません。あくまでもし日本がキャッシュレス化に向けて動いてきても大丈夫なようにするにはどうすればよいのかという観点で話しています。

 

 現在、タンス預金を行う上での一番のリスクと考えられるのが、5,000円札や10,000円札の通用禁止です。

 

 世界の動きを見ていると、まずは現物通貨の退蔵に最も適した高額紙幣へ何らかのペナルティを課すという流れがあります。そのため日本においても、高額紙幣である10,000円札がターゲットとなる可能性もゼロとは言い切れないのです。

 

 日本の紙幣・硬貨の流通高を見ると、10,000円札がダントツに多く、次点で1,000円札、5,000円札と続きます。これより日本ではもっぱら10,000円札が現金退蔵に使われているようです。5,000円札は現金退蔵にはほとんど使われず、1,000円札は決済で非常に多く利用されていることがうかがえます。

 

日本銀行券流通高推移

ソース:日銀

 

 そのため10,000円札の保有がいずれできなくなるリスクは常に頭に入れておいたほうがよいように思えます。5,000円札はわかりませんが、10,000円札の保有が禁止となれば5,000円札に流れ込むことが当然考えられ、5,000円札の流通額の少なさから大パニックが生じるおそれがあるため、5,000円札も同時に保有できなくなるかもしれません。

 

 1,000円札はさすがに大丈夫だと思います。というのは1,000円札は日常の現金取引で広く用いられており経済停滞のデメリットが考えられますし、紙幣特有の軽さもあることから、1,000円札廃止となればさすがに日本国民も黙っちゃいないと思えるからです。1,000円札を廃止するメリットは薄いと思われるので、1,000円札の保有禁止は現状考えにくいです。

 

 よってタンス預金をするのであれば1,000円札および硬貨で保有しておくのが最も低リスクであると思われます。

 

タンス預金は緊急時の決済手段として用意しておくのが無難か

 タンス預金をするのであれば、事実上1,000円札で退蔵するのが最も低リスクであろうという結論に達したわけですが、いままで高額のタンス預金をしてきた人たちにとっては対処が面倒な結論かもしれません。

 

 例えば1,000万円タンス預金してきた人は、いままで1,000枚で済んだのがその10倍の1万枚必要になるわけですから。重さにして10kg、厚さ1mです。1億円退蔵されている方であれば10万枚の1,000円札が必要になるわけですが、重さ100kg、厚さ10mですからタンス預金することは物理的に厳しいものがあります。

 

 ただ、現在の日本の財政事情を勘案すれば、そもそも日本円で多額の資産を保有すること自体がリスクだと個人的に思っています。

 

 日本の公的債務残高が1,000兆円以上という絶望的な数字であることは皆さんご存知かと思いますが、2017年度予算案はこれまた非常に厳しいものがあります。何とか新規国債発行額は前年比減少になる見通しですが(まぁどうせ追加発行するのだろうけれど)、それは外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金の一般会計への100%繰り入れ(2.5兆円)という奥の手を使ったからです。

 

 外為特会とは財務省による外国資産やFX運用に関する会計のことで、剰余金とはそこから得られる利益のことです。剰余金は米国債からの金利収入が多くを占めると言われています(→参考資料)。

 

 剰余金のほとんどは米ドルでの収入だと思われるので円転しないと国内での支出に利用できませんが、円転してしまうと円高ドル安になってしまうので円転されることはおそらくありません(→関連書籍)。外為特会の剰余金の多くは実質的にはあくまで帳簿上の数字に過ぎないものと思われます(結局国債発行に頼らざるをえないということ)。

 

 ここ何十年も外為特会剰余金の60-80%前後を税外収入として一般会計に繰り入れて来ましたが、100%繰り入れは滅多になかったことです。新規国債発行額を減らすために外為特会の一般歳入への100%繰り入れをしなければならないほど、日本の財政事情は厳しいところまで来ているのです。これで日本にデフレの波が押し寄せてきたら、予算を組むことすらままならなくなりかねません。

 

 また外為特会はトランプ政権の政策次第で大きな影響を被るおそれがあるので、この点も頭の片隅においておくのが良さそうです。

 

【関連ニュース記事】
【2016/12/22 日本経済新聞】税収頼みの財政再建 曲がり角 17年度、前年度並み57.7兆円
【2016/12/22 日本経済新聞】国債減へ繰り出した「奥の手」 17年度予算案
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【2016/12/23 日本経済新聞】構造改革なき予算案、アベノミクスに綻び 17年度、過去最大の97兆円

 

 こうした現状で、果たして高額の日本円をタンス預金しておく意味はあるのかと問われれば、疑問符がつかざるを得ません。

 

 個人的にタンス預金は、何か緊急事態が起こったときの生活必需品購入のための決済手段として捉えるのが一番良いのではないかと思っていますし、そうした観点から私も1,000円札でのタンス預金をしています。

 

 インドでは高額紙幣の通用が禁止なった途端、銀行やATMの前には長蛇の列が並んだり、農村部での商業決済が滞るなどのパニックが起こりました。

 

 こうしたパニックに巻き込まれることなく、いつ何時でもすぐさま現金決済できるための準備、これがタンス預金の一番の役目だと個人的に考えています。要は備蓄と同じです。

 

 そういう意味で、緊急用に一人あたり5万~50万円、せいぜい100万円程度の1,000円札をタンス預金しておくのが個人的に一番無難かなと思っています。これくらいであれば大量に1,000円札に両替する必要はありませんので、不審人物だと思われる心配もないでしょうし、銀行への負担もあまりかけずに済むのではないでしょうか。

 

 高額の資産保全は、例えば金・銀など、他の資産への転換も考えておくのも良いかもしれません(あくまで自己判断で)。

 

**********

 

 本記事の内容は、世界の流れや日本の現実から考えられる可能性とそれへの対処方法を個人的な考えで述べているものです。

 

 10,000円札の退蔵が無意味になるというのはあくまで可能性の一つに過ぎません。さらに日本がキャッシュレス社会へ移行したとしても、その過程で5,000円札や10,000円札の価値が急激に高まる可能性もあるでしょう(例えば電子決済や銀行システムの信頼性を大きく揺るがす何かしらの出来事が生じて、匿名性や隠匿性に優れる紙幣の需要が急増するなど)。

 

 そういう可能性を考えれば、物理的に最も退蔵にすぐれた10,000円札をタンス預金しておく意味が完全にないとは言えませんし、場合によっては大きなアドバンテージを生む可能性も無きにしもあらずです。

 

 ただあまりにも巨額の退蔵をしてしまうと、10,000円札がいずれ自由に使用できなくなる、退蔵が無意味になるフラジャイルなリスク(生じる確率は決して高くなくても、顕在化した場合の損害が甚大なものになりかねないリスク)は排除できないので、このリスクを踏まえながら皆さん自身で考えて行動してください。

 

1,000円札への両替の方法

 最後に1,000円札(または硬貨)への両替方法ですが、皆さんが利用している銀行の(窓口のある)店舗に置いてある両替機を利用すれば両替可能です(キャッシュカードがあれば両替できます)。現金持参のうえで両替してください。窓口のないATM設置店には両替機はありませんのでご注意ください。

 

 両替機を利用すれば500枚程度までの両替であれば手数料無料です。これより少なくとも一日100枚程度であれば1,000円札に両替しても不審者がられることはないと思いますし、銀行側にもそこまで迷惑かけずに済むと思います。

 

 両替機を利用せずとも普段の買い物で10,000円札を積極的に利用してお金を崩す作戦もありますが、経験上あまりおすすめできません。非効率ですし、店舗に迷惑掛けますし、樋口一葉への嫌悪感が生じるからです(笑)

 

 素直に両替機を利用してとっとと1,000円札に両替してしまうのがおすすめです。

 

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金価格とマネタリーベースの推移

画像ソース:Incrementum

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