ロシアが原油をコアとした経済基盤の構築を着々と進めている

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ロシアが原油をコアとした経済基盤の構築を着々と進めている

2016/12/13

 

 11月の終わりから12月にかけて、やけに原油に関するニュースが報道されているなと感じたので、その背景を少し調べてみました。

 

 

 調べてみてわかったのは、ロシアが原油をコアとした経済基盤の構築を着々と進めていることです。ここ最近ロシアが原油に関する経済的な動きを強めており、12月に入ってこうした動きに呼応する形で原油に関するロシアの強さを表す出来事が次々と起こっています。

 

 10月以降、ロシア経済と原油に関する大きなニュースは(私が知るかぎりで)3つありました。

 

 一つは10月にロシア最大の国営石油企業であるロスネフチ等が、インドの石油企業2番手のエッサール・グループの石油精製事業の98%の株式を130億ドルで購入するというニュースです。

 

 ロスネフチがエッサールの精製事業の株式の49%を取得、また商品取引企業の大手であるトラフィグラも株式の24%を取得します。

 

 インドは今後25年で最も石油需要が大きく伸びる国と言われており、日量40万バレルの精製が可能なエッサールの精製事業を買収したことはロシアにとって長期的に大きなプラスとなるでしょう。インドへの原油輸出の約2/3が中東を占めていましたが、こうしたパワーバランスにも影響しそうです。

 

 二つ目の大きな動きは、11月25日よりロシア最大のコモディティ取引所であるSPIMEXが、ロシア産原油のベンチマークであるUralsの原油先物取引を開始したことです。

 

 当初は2015年の終わりごろ~2016年の上半期にSPIMEXでのUralsの先物取引、およびESPO(東シベリア・太平洋石油パイプライン。ロシアから中国への石油輸送の中核)の先物取引を開始するとしていましたが、予定より半年程度遅れてUrals取引がまず先行開始されました。ESPOの取引開始は来年以降にずれ込みます。

 

 ロシア産原油のロシアでの取引プラットフォームの構築はプーチン大統領の10年越しの悲願でしたが、それがようやく実働し始めたことになります。

 

 ロシア産原油の先物取引は既に国際市場で行われてきましたが、ロシア産原油は中東産と同じように硫黄成分が多く含まれており低質だ、とのことで、高品質であるといわれる北海のブレント原油よりも2-3ドル/バレル安い値段で取引されてきました。

 

 ロシア側はこうしたロシア産原油の低評価を不当と感じており、今回のSPIMEXでのロシア産原油先物取引を広めることで、より正当な価格でロシア産原油が活発に取引される環境をつくりたいとしています。

 

 とはいえ本当の目的は、SPIMEXでの先物取引を通じて安定的な手数料収入を財源として確保したいこと、そしてSPIMEXを通じて商業国としてロシアの地位を高めることで、世界中の信頼できるパートナーからの資金を呼び込んで、ロシアの経済発展に使いたいというのは間違いないでしょう。

 

 SPIMEXでのロシア産原油の先物取引事業は、ロシア政府、ロシア国営企業、ロシア中央銀行がバックについていますから、ロシア側の本気度が伺えます。

 

 ただ取引初日の取引量は63,300バレルしかなく、目標とされる一日300万バレルの取引量からは程遠い状況です。知名度も低く、海外投資家にとっては流動性の低さや取引コストが高いこともネックとなっているようですから、軌道に乗せるには今後何年もの難しい努力が必要となるでしょう。

 

 現在は米ドル建て取引を扱っていますが、将来はルーブル建てでの取引に限定したいという声もあるようです。ドルのような国際通貨に依存する恐ろしさを1990年代にロシアは身をもって経験していますから、経済への悪影響を緩和させたり、信頼できない出所からの投機マネー流入を防ぐためにも自国通貨建てでやりたいのでしょう。

 

 ただ将来的にロシア側がカネに目がくらんで結局投機マネーを集めすぎた結果、経済的に大きなダメージを被るといった可能性ももちろんありますが。

 

 SPIMEXでのUrals原油先物取引が開始する少し前のイベントに、先ほど出てきたトラフィグラが参加しています。さらに最近スイス大手の商品取引事業を営むグレンコアとカタール投資庁がロスネフチの株式の19.5%を105億ユーロで購入するという、市場関係者にとって予想外のニュースが出ましたが、実はグレンコアも11月のSPIMEXのイベントに参加しているのです。

 

 グレンコアによるロスネフチ株式の取得は、ここ最近のロシアと原油に関する3つ目の大きなニュースです。一見するとグレンコアの勝利のように見えますが、ロスネフチの過半数の株式は依然としてロシア政府が握り続ける予定ですし、SPIMEXとの関連も含めてみれば、むしろロシア側がグレンコアを取り込んだ形となっています。

 

 ロスネフチはSPIMEXの筆頭株主ですから、グレンコアは事実上、まだまだ弱小であるSPIMEXの一部を所有することになります。つまりグレンコアによるロスネフチの株式取得は、ロシアの原油先物市場の成長に協力するという意思を実行に移したとも解釈できるのです。

 

 こうした一連の流れを見ると、ロシア側は巨大な多国籍企業をも取り込みながら、原油を核とした経済圏を着々と築き上げていることがわかります。

 

 12月に入ってからはグレンコアのニュース以外にもロシアの強さを暗示するようなニュースが次々と出てきています。OPECとの減産合意がロシアを含む非OPEC諸国側に有利な形で決まったり、シリア政府軍とロシア軍がシリア・アレッポの大部分を制圧したようです。

 

 さらにトランプ政権の国務長官に、エクソンモービルCEOのレックス・ティラーソン氏を起用するみたいですね。彼はロシアとのビジネス交渉を通じてプーチン大統領とのコネクションのある人物で、彼以上にプーチンと双方的な話し合いをしてきた米国人はヘンリー・キッシンジャーくらいしかいないという声もあるみたいです。

 

 ロシアは2014年に欧米から経済制裁を喰らい、原油価格暴落の憂き目にも遭い、ロシア経済や財政にとって厳しい期間が続いてきましたが、アジアを中心とした経済交渉の進展や、中東を初めとした国際的影響力の拡大など、政治面、経済面で国際的な地盤を着々と築き上げてきました。

 

 ロシア経済が長期的にどの程度よくなるかは正直わかりませんが、少なくとも世界の経済の形を大きく塗り替えるポテンシャルがあることは確かでしょう。逆境を跳ね返してここまで築き上げてきたのですから、相当強いですよ。

 

**********

 

 上のニュースは一見したところ日本とは関係なさそうですが、そんなことはありません。

 

 上のニュースをみるかぎり、ロシアは世界の経済や政治のパワーバランスを大きく変えてきています。そしてこうしたパワーバランスに変化が生じるときには、経済崩壊もセットでついてくるのは歴史的必然です。

 

 日本ではここ最近、債務残高の増加、量的金融緩和によるカネのバラまき、株式・債券・不動産バブルが生じたくらいで、経済基盤はどんどん弱くなっていきましたから、大きな変化には耐えられないでしょう。

 

 よって近々、日本経済に何かしらマイナスの影響を及ぼす出来事が起こることは避けられないでしょう。そういった心構えや準備が必要であることを、最近のロシア関連のニュースは私たちに教えてくれています。

 

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