銀行業界の労働量は今後5年で3割機械に置き換わる。しかしそれでは終わらない

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銀行業界の労働量は今後5年で3割機械に置き換わる。しかしそれでは終わらない

2017/09/19

 

【2017/09/19 日本経済新聞】全銀協会長「デジタル化で銀行ビジネス効率化を」 都内で講演

 

全国銀行協会の平野信行会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)は19日、「Fin/Sum(フィンサム)ウイーク2017」での講演で、「デジタル化を通じて既存の銀行のビジネスモデルを大幅に効率化していかなければならない」と述べた。

 

平野会長は三菱UFJグループ全体について触れ、フィンテック関連のサービスを充実させて「今後6~7年で2000億円の利益押し上げ効果を目指す」との経営目標を示した。同時に「将来的には9500人分に相当する労働量を減らし、人材をより付加価値の高い業務に振り向けて生産性を向上させる」と述べた。

 

 9500人という数字は、MUFG単体の昨年度末の従業員数35214人の27%です。今後6-7年程度で従業員の27%の労働量が減る(つまり自動化されてその分の人員が不要になる)と聞くと、とんでもないリストラを計画していると思ってしまいます。

 

 しかし銀行業界のグローバルな動きを見ると、6-7年で9500人の労働量減少というのは「それでもやや楽観的な見方」と言えるかもしれません。

 

 

 2007-12年にシティグループのCEOを務め、現在は投資企業オロゲングループのCEOを務めるヴィクラム・バンディット氏は、ブルームバーグのインタビューで、技術の発展により、次の5年間で銀行業務の3割が消えるだろうと話しています。
【2017/09/13 Bloomberg】Pandit Says 30% of Bank Jobs May Disappear in Next Five Years

 

 バンディット氏はAIやロボット工学、自然言語処理技術の進展により、今後5年でバック・オフィス業務を中心に自動化されていくと考えているのです。

 

 昨年3月にシティグループは、2015-25年の10年間で銀行業界の人員は3割削減されるだろうと見積もっています。米国では75万人、欧州では100万人の雇用削減となるようです。人員削減は主にリテール銀行業務の自動化によるものです。

 

 バンディット氏は、昨年3月のシティグループの見積もりよりも3年早く、欧米の銀行業界で175万人の人員削減がされるのでは?と述べているのです。

 

 あくまで意見ですので本当に今後5年で銀行業界の人員が3割減少するかはわかりませんが、例えば米国の大手銀行はJPモルガンを中心に、10億ドル単位でテクノロジー関連投資をしています。JPモルガンは昨年だけで95億ドル超、日本円にして1兆円超のテクノロジー関連投資をしており、AI搭載の機械導入への動きは激しいものがあります。

 

 少なくとも欧米では、今後5年以内にバック・エンド銀行業務の多くが自動化され、銀行ビジネスが大きく変わることは現実的な可能性として考えなければならないでしょう。

 

 さらに長期的にはこれで話は終わりません。

 

 いま言われている銀行セクターの人員削減は、主に銀行の事務・管理業務の自動化に関する話です。

 

 マッキンゼーが今年7月に公表した報告書によれば、AIやロボット工学の発展は現在の銀行業務の6割に影響を与えるようです。一方完全に自動化される銀行業務は全銀行業務の3割とのことです。
【2017/07/21 Finextra】Machines could take over 30% of bank jobs: McKinsey

 

 つまりAIやロボット工学、自然言語処理等の発展による銀行業界の労働量削減は、3割では足りないのです。少なくともさらに3割の人員削減圧力が続くと考えられるのです。

 

 特に銀行業務に大きなインパクトを与えるのは機械学習技術の発展だといわれています。銀行が保有する膨大なデータを機械が食べて、ルールやパターンに合うようなアウトプットを瞬時に求めたり、いずれは機械が雑多なデータ群から自律的にルールやパターンを構成する...といったヤツです。

 

 ロボット工学が人間の「手」に対応する技術だとすれば、機械学習は人間の「脳」に対応する技術です。

 

 機械学習技術が発展すると、例えば顧客情報をもとに機械が最適な投資商品を提供したり、不正取引をリアルタイムで監視し、より高速で正確な不正取引の摘発ができるようになったり、借り手の信用リスクを迅速に判定すること等ができるようになります(→アクセンチュアのスライド)。

 

 また機械は現在のインフレ率や経済成長率、企業のファンダメンタルズ、ボラティリティといった指標をもとに市場の動きを予測し、アナリスト以上の市況分析やトレーダー以上のトレーディングもできるようになるでしょうし、顧客に現環境に合った最適なポートフォリオづくりを提案したり買いや売りのアドバイスもできるようになるでしょう。

 

 要は、銀行業界の人員3割削減はあくまで銀行業界の人員カットの波の第一波に過ぎず、いずれはアナリスト、アセットマネージャー、トレーダー、信用リスク管理者等、高度な知識や経験が求められる人員にもリストラの第二波が押し寄せる可能性は高そうなのです。

 

 ただし単純に人員が減るだけ、というわけではないようです。例えばJPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEOは、新たに技術者を雇用するなどして、結果的に従業員は増えるだろうとしています。

 

 またマッキンゼーも、既存の従業員は機械に職を奪われても、リサーチやアイデアの創出、クライアントとの関係性の管理といった、別の高価値の業務にシフトすることで生き残れるとしています。

 

 つまり、今後銀行業界に確実に押し寄せる技術革新の津波に適応できる銀行従業員は生き残れるし、適応できない従業員は消え去るかもしれない、ということです。生きるも死ぬも、従業員の適応努力次第というわけです。

 

 銀行員という、高給のエリート職の人々はもしかしたら変化を受け入れるのは難しいかもしれませんが、そうも言ってられないのが現実のようです。頭脳は良くてもプライドの塊のような人は、この荒波は乗り越えられないかもしれません。

 

 

 上は銀行業界の話ですが、技術革新の波は我々の生活にも何らかの影響を与えるでしょう。

 

 今後は機械への置き換えや不況等に伴う人員削減の話はいっぱい出てくるかもしれませんが、自分自身の変革へのチャンスと考え、将来に適応するための準備をしていきたいものです...という、なんともありきたりなシメ。

 

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