円高ドル安フラグ。短期国債市場の動きとトランプ政権の為替操作認定新方式づくりの動きから
2017/04/01
何だか今後は円高ドル安方向に推移しそうですねぇ。
短期国債市場の崩壊の足音が聴こえてくる
日本は短期国債市場の雲行きがかなり怪しくなってきました。
日銀は3月23日、短期国債が市場に不足していることを理由に、保有している短期国債を一時的に売却する措置を講じることを発表、24日から早速日銀による短期国債売りが始まりました。
→【ブルームバーグ】今までにない国債「モノ不足」に日銀が対応、期末の短期金利は急上昇
国債の貸し借りを行うレポ市場で国債の貸し手が特に少なくなる年度末に対応したという話ですが、要はいままでの日銀の金融緩和によって市中の短期国債が不足してしまったことが一番の原因です。
量的金融緩和により日銀は短期・長期国債を買いあさり、さらには日銀の金融緩和が円調達コストを低下させたことを理由に、外国人投資家も短期国債に触手を伸ばし、日銀と外国人投資家が短期国債をほとんど食い尽くしてしまったのです。これが短期国債不足の真の原因です。
こうした状況を考えれば、3月24日からの日銀の措置は、日銀の量的・質的なんとか金融緩和が限界に達したことによって引き起こされた、事実上の金融引き締めと言えるでしょう。
いままで外国人投資家が日本の短期国債を購入してきた最大の要因は、ドル・円ベーシススワップスプレッドと呼ばれるスプレッドが大きくマイナス化したことで、短期国債からの利益を得られやすい環境にあったからです。
3ヶ月物の同スプレッドは2016年11月には-0.95%にまで下がり、外国人投資家の日本短期国債買いのインセンティブを大きく高めたのですが、その後は急激に同スプレッドは上昇し始め、日銀による短期国債売りが行われたときには同スプレッドは-0.21%にまで縮小してしまいました。
画像ソース:Bloomberg
同スプレッドが大きくマイナス化した一番の要因は日銀による金融緩和でしたが、いまや日銀はテーパリングを実行中ですので、今後同スプレッドが以前のようにまた大きく下がる可能性は低いでしょう。
さらに重要なのは、そもそも市中に購入できる短期国債がほとんど余っていないのですから、短期国債の需要が中長期で大きく伸びる余地がないのです。
このため、外国人投資家による短期国債の爆売りを射程圏内に考えなければならなくなったわけです。いまや外国人投資家は短期国債の半分以上を保有しているのですから、いずれ短期国債市場は血の海と化すおそれもあります。
「日銀が買入れを減らすことで金利が調整されれば、国内勢も戻ってきて日銀と外国人だらけのマーケットが多少は正常化に向かう」という意見もあるようですが、ただでさえ短期国債が不足して買える品がほとんどない状況で、国内勢が短期国債の購入に踏み切れば、国内勢が買い支えてくれる間に海外投資家は一斉に利益確定売りに移るんじゃないでしょうか。
どうも、また国内勢は外国人投資家の食い物にされそうな気がしてなりません。
上のような短期国債市場の動きを見れば、いずれ円高ドル安方向に移るでしょうな。
トランプが中国・日本を為替操作国だと正式に認定する
もう一つドル円の動きで見逃すことができないのは最近の通商関連におけるトランプ政権の動きです。まずはこちらのニュースから。
【2017/04/01 日本経済新聞】トランプ氏「不公正貿易終わらせる」 大統領令に署名
トランプ米大統領は31日、中国や日本などとの貿易赤字削減を目指す大統領令に署名した。商務長官と米通商代表部(USTR)代表に貿易赤字の要因を分析させ、相手国の不公正な関税や輸出補助金などを徹底的に調査する内容だ。トランプ氏は「ルールを破れば極めて重い代償を負うことになる」と述べ、貿易不均衡の是正へ対外圧力を強める姿勢をみせた。
(エイプリルフールネタでは一切ございません。残念ながら。)
トランプ大統領の経済・通商問題における最も影響力の強い人物の一人であるウィルバー・ロス商務長官はブルームバーグのインタビューで次のようなコメントを残しています(粗訳):
- 「中国は最も保護主義的な国の一つである」
- 「中国がいくら自由貿易の弁証法を並び立てても、米中間には固有の不一致が存在する」
4月6-7日に中国の習近平国家主席が訪米し、トランプ大統領とフロリダの別荘で首脳会談を行います。以前安倍首相が訪問した別荘と同じです。
中国との首脳会談を目前にして、ロス商務長官の中国に対する挑発的な言動、そしてトランプによる貿易赤字削減に関する大統領令への署名。もはや米中貿易戦争勃発は不可避です。
トランプ政権はいままで中国を何度も為替操作国だというレッテルを貼ってきました。しかしそれは文字通り「レッテル」でした。
米国による、貿易相手国に対する為替操作国であるとの認定にはちゃんとルールがあります。
米国は2016年2月に成立した貿易円滑化・貿易執行法(Trade Facilitation and Trade Enforcement Act)のもとで、米財務省が主要な貿易相手国の経済・金融に関する5つの指標を米議会の所轄委員会に対して報告するよう求めてきました。
そしてこの報告をもとに財務省が3つの判定条件で当該国の為替政策を評価し、3つすべての条件を満たす場合にのみ為替操作国だと認定することができます。これが米国政府による為替操作国認定ルールです。
現在の判定条件のもとでは中国は1つの条件を満たすのみですので、中国を為替操作国だと断定することはできないのです。トランプの発言は全くのデタラメです。
ではトランプは中国に対して嘘をついてまで為替操作国だとレッテルを貼り、元高ドル安に持っていきたいのか?というと、半分正しく半分間違いです。
確かに現行のルールのもとではいままでのトランプの発言は全くのデタラメでした。いままでは...
ところが実は現在、米国では財務省、商務省、国家経済会議、国家通商会議、通商代表部が共同で為替操作国認定のための「新方式」を考案中なのです。
→【CNBC】Trump is looking at new ways to go after countries that game their currencies
つまりトランプは中国を為替操作国だと「100%認定可能な」何かしらの新方式をつくって、中国を正式に為替操作国と認定させるつもりなのです。トランプのいままでの中国に対する発言内容はいずれレッテルではなくなるでしょう。
少なくとも中国が米国との間に巨額の貿易黒字を積み重ねた割には、元高ドル安方向には進んでこなかった印象は拭えませんから(現在までに米ドル・人民元のレートはドル高元安方向に進み、2008年の水準にまで戻ってしまった)、何かしらの根拠をもって中国を為替操作国だと認定するのはそう難しいことではないと思われます。
習近平国家主席との首脳会談を間近に控え、トランプ政権は上記大統領令に署名しました。
今回のトランプ政権の大統領令の署名は、米国の中国に対する貿易戦争の明確な宣戦布告であり、中国が米国から為替操作国だと認定されることがほぼ確定的な未来であることを示すものと見て良いでしょう。
もちろん中国に対してだけではありません。日本も間違いなくとばっちりを受けることでしょう。
日本もいつのまにやらトランプから新基準のもとで為替操作国だと認定されることでしょう。そうなれば円高・ドル安は不可避です。
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