トランプの「中国は為替操作国ではない」発言はただの芝居

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トランプの「中国は為替操作国ではない」発言はただの芝居

2017/04/17

 

【2017/04/13 BBC】トランプ氏、中国は「為替操作国ではない」

12日付ウォールストリート・ジャーナル紙掲載のインタビューで、トランプ氏は中国はかなり前から「為替操作国」ではなくなり、人民元のこれ以上の下落を防ごうとしてきた状態だと述べた。

 

トランプ氏は大統領選中から、中国は米国市場での輸出競争力を高めるために人民元の対ドルレートを低く操作していると断言し、これは中国による米国の「強姦」のようなものだと非難。大統領就任初日に、中国を為替操作国に認定すると公約していた。

 

しかしフロリダ州の別荘で習近平中国国家主席と会談後のインタビューで、トランプ氏はむしろ「ドルが高くなりすぎていて、それはある意味で僕のせいだ。国民が僕を信じているから」と述べた。

 

トランプ氏は「ドルが強くて、よその国が通貨を切り下げている状態では、競争するのはとてもとても大変だ」と述べ、ドル高は米国にとって利点もあるが究極的には米国経済を損なうものだと指摘した。

 

【2017/04/17 ブルームバーグ】トランプ大統領:北朝鮮問題で協力する中国を為替操作国とは呼べない

トランプ米大統領は選挙公約に反して中国を為替操作国に認定しないことを決めた理由について、北朝鮮を抑え込むために中国政府の協力を得られるためだと説明した。
トランプ大統領は16日午前にツイッターで2800万人のフォロワーに対し、「北朝鮮問題でわれわれと協力している中国を為替操作国とどうして呼べようか」とコメントした。

 

 トランプが中国を為替操作国ではないと、いままでの発言内容と180度異なる発言を行いましたが、もちろんこのトランプの発言を文字通り受け取ってはいけません。

 

 14日、米財務省は外国為替報告書を公表し、その中で中国は為替操作国ではないと述べています。最近は元安誘導どころか、資本流出への対応のために、結果的に米国が望む方向である元高政策を取ってきた事実についてもしっかり述べています。

 

 トランプの発言は、米財務省の(正しい)見解に沿った発言なのです。

 

 しかし「中国が為替操作をしていない」ことと「米ドル・人民元の為替が適切な状態にある」こととは全くの別問題です。

 

 トランプ政権の通商政策を担っているのは商務長官のウィルバー・ロス氏や国家通商会議の委員長であるピーター・ナヴァロ氏ですので、彼らの行動をチェックすることが大事です。

 

 以前の記事に書いたように、米国では財務省、商務省、国家経済会議、国家通商会議、通商代表部が共同で為替操作国認定のための「新方式」を考案中なのです。
【2017/03/30 CNBC】Trump is looking at new ways to go after countries that game their currencies

 

 新方式では為替操作の有無を判断する代わりに、「為替不均衡(currency misalignments)」であるかどうかが評価基準となるようです。

 

 為替不均衡とは、ロス商務長官が言うには、通貨が通常の価値の範囲から逸脱した場合に起こるもので、これは為替操作を理由に起こることもあり得るし、その他意図しない要因によって生じることもあり得るものだそうです。
【2017/04/06 Reuter】Currency 'misalignment' gains stature in Trump trade plans - official

 

 つまり為替操作をしようがしまいが、結果的に不当なドル高状態であると米国が判断すれば、当該貿易相手国に対して為替の是正を求めるものと思われます。

 

 ロス商務長官は、トランプが中国を為替操作国ではないと発言した日の後に受けたFTのインタビューでも「米国は欧州、日本、中国ほど保護主義的な国ではない」と述べていることからわかるように、通商政策に関するスタンスはまったく変わっていません。

 

 そういうわけでトランプのドル安政策が実行される確率はかなり高そうです。

 

 

 トランプの「ドル高なのは俺のせい」「中国は為替操作国ではない」という芝居掛かった発言は、むしろ今後の中国との通商交渉で米国が優位に進めそうだなという印象さえ与えます。

 

 というのは、現在の北朝鮮情勢を観察していると明らかに米国が主導しており、中国は米国に「おんぶにだっこ」という印象が否めないからです。

 

 米軍によるシリア空軍基地ミサイル攻撃から一週間ちょっとのあいだに、米国による対北朝鮮への強硬な動きが進んできました。

 

 そんななか最近出たホワイトハウス高官の話によると、現在朝鮮半島の周りで行われているトランプ政権の対北朝鮮政策は、北朝鮮体制の転覆を企図したものではなく、北朝鮮に対して最大限の圧力を掛けることで核に関するあらゆる活動の放棄を促すことが目的であるそうです。
【2017/04/14 The Washington Post】Trump’s North Korea policy is ‘maximum pressure’ but not ‘regime change’

 

 こうした話が出たということは、米国による対北朝鮮戦略の一つの段階が終了し、次のフェーズに入ったことを意味します。

 

 次のフェーズに入る前後になって、米国から中国の役割の重要性に関する話が積極的に出るようになってきました。本記事のトップに引用した報道もそうですし、他にも...

 

【2017/04/13】トランプのツイート
I have great confidence that China will properly deal with North Korea. If they are unable to do so, the U.S., with its allies, will! U.S.A.
→中国が北朝鮮と適切に交渉を行うことにとても自信があると発言しています。

 

【2017/04/16 Reuter】U.S. national security adviser says North Korea missile test provocative
 マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官が、16日の北朝鮮のミサイル発射実験(失敗に終わる。原因は米国のサイバー攻撃によるものだとの話もあり)に関して北朝鮮を非難する発言をしましたが、発言のなかで「中国のリーダーシップ」というワードを述べており、中国が対北朝鮮の主導役であることをアピールしています。

 

 このように中国を立たせる発言がここ最近目立っているのです。

 

 中国の北朝鮮への対応は、当初はあまり積極的なものではありませんでした。

 

 経済制裁に関して、中国は7日に北朝鮮の石炭貨物船を引き返させるよう中国商社に通告しましたが、それは米国が米中首脳会談のさなかにシリア空軍基地にトマホークを打ち込んだ後でした。

 

 また習近平がトランプとの電話会談で、北朝鮮問題の平和的解決を望むと話したら、翌日には米軍がアフガニスタンで「すべての爆弾の母」と呼ばれる、非核兵器で最強の爆弾をテロリストたちに投下しました。

 

 米国の戦略が北朝鮮へ最大限の圧力を高めて核放棄させることである以上、中国の軟弱な対応ではトランプは物足りないと考えたのでしょうか。

 

 最近は米国は中国を立たせていることから、何かしら中国の態度や行動が変わったのか、いまだ弱腰の中国の態度や行動を今度はアメで変えさせたいのか、それとも中国も最初からトランプの戦略に付き合ってわざと軟弱に見える演技をしていたのかはよくわかりませんが、ともかく米中が共同で対北朝鮮対応をしていることが表向きにされてきたことは確実です。

 

 いずれにせよ、こうした米中の動きを見ていると、どうも中国が米国におんぶにだっこである印象は否めません。こうした印象をつくるように最初からトランプ政権が企図していたとすれば、トランプ政権はかなり対外戦略能力が高そうですね。

 

 個人的な見立てでは、今回の対北朝鮮の対応は米国が東アジアでの役割を中国に引き継ぐことが一つの目的であると同時に、今後経済、金融分野を中心に国際的な主導役になろうとしている中国を、オン・ザ・ジョブ・トレーニングで国際運営のイロハや心構えを実践で身に付けさせようとしているのではないかと思っています。

 

 いままで中国は本格的な世界運営などやったことはなく、そもそも中国は大陸国家で外交よりもまず国家内部の運営をどうにかしないといけない国ですから、米国は中国に北朝鮮問題を通じて国際運営の強烈な洗礼を浴びせながら、最低限の実務能力や覚悟を身に付けさせたいのではないでしょうか。

 

 もっとも、現在までの中国の対応は鈍く、ホントにこれから世界経済、金融の主導役なんて担えるのかどうか心配になってきますが...

 

 いずれにせよ、今回の北朝鮮問題で中国が米国におんぶにだっこ状態、またはそのように見える状態を米国が戦略的につくりだした感は否めません。そうしたなかで米国は中国を持ち上げ始め、トランプに「北朝鮮問題でわれわれと協力している中国を為替操作国とどうして呼べようか」なんて言われてしまえば、外交的に中国は米国に完全にしてやられていますね。

 

 このまま上手く北朝鮮問題が解決に向かえば、中国が今後待ち受けるであろう米国との通商交渉では不利な立場に立たされそうですね。

 

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