無知は危険である:ヒューリスティックと上手く向き合うために

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無知は危険である:ヒューリスティックと上手く向き合うために

 投資を始めてみると、世の中の様々な分野について幅広く知っておく必要が出てきます。会計をはじめビジネス、経済、金融、政治、法律、最近だとITの動向などもですか。

 

 しかしこうした分野はいままであまり触れてこなかった人にとっては馴染みのない分野ばかりでしょう。それぞれの分野の基本的枠組みがわかりませんし、ニュースの文章中にたくさん出てくる専門用語も往々にして何を言っているのかわかりません。いろんな専門用語や数字が並べられても、一体それがどのくらい重要なのか、どのように解釈すれば良いのかわからないものです。

 

 背景となる知識を有さず、専門的でいまいち何を言っているのかわからない情報を目にした場合、私たち人間はあまり適切ではない解釈を行い、適切でない判断や推論に導く傾向にあります。

 

 ちょっとした例を考えてみましょう。

 

 2016年1月に日銀が導入を発表し、2月から実施されたマイナス金利政策。日経にあるマイナス金利政策の説明は次のようになっています:

 

マイナス金利政策 中央銀行が政策金利をゼロ%よりも低い水準にする政策。民間銀行が中央銀行に預け入れる預金の金利をマイナスにするのが一般的。民間銀行は日銀に資金を預けると、金利を支払う必要が出てくるため、民間企業の融資や有価証券の購入に資金を振り向ける効果を見込む。中央銀行が供給した資金を実体経済に回りやすくする狙いがある。家計や企業が民間銀行に預ける預金金利をマイナスにするわけではない。欧州ではスイスやデンマークなどの中央銀行が導入している。

 

 もしこれをあまり経済や金融に詳しくなく、日々のニュースも流し読み程度で済ましている人が読んだら一体この文章を読んで、どのように解釈するでしょうか。

 

 ほとんどすべての人は「マイナス金利とは何か?またその影響はどんなものになるのか?」といった難しい問いへの回答や分析は行わないはずです。そのかわりに「日経のマイナス金利政策の記事を読んでどのように感じたか?」という感想だけを得るものでしょう。

 

 この日経の記事などの利用可能な情報を元にした大雑把な思考手続き(利用可能性ヒューリスティック)や、得た情報や喚起された連想から湧いてきた感情にならった判断を下すという思考手続き(感情ヒューリスティック)に沿った結果として、「この日経の記事をどのように感じたか?」という回答が容易な質問に答えているのです。

 

 マイナス金利政策に関する記事を読んで感想を得る、これ自体は人間の自然な活動ですし良いことです。ただ問題はあまり経済や金融に詳しくない人が、利用可能性ヒューリスティックや感情ヒューリスティックを通して得られたマイナス金利政策の記事に対する感想というのは、的外れな感想になりやすいことです。

 

 本当に経済や金融が全くわからない人だと、このニュースから得られる感想というのは「マイナス金利政策はよくわからないけれど、他の中央銀行も導入しているのだから、経済の安定には役立つ効果があるのかもしれないね」程度になるのではないでしょうか。何故なら上の日経の記事の書き方がややポジティブな書き方だからです。

 

 経済や金融はあまりわからないながらも、ここ最近の景気があまり良いと思えない人は「マイナス金利政策はよくわからないけれど、日銀さんの政策の影響による生活への良い実感があまりないし、今回も思ったような効果はあげられないんじゃないかな」と感じるかもしれません。

 

 このような人は日経の記事から瞬間的に自分の現在の経済実感という、別の関連した利用可能な情報が喚起されたので、ちょっと違う感想が得られるのです。

 

 さらにここ最近、ニュースでマイナス金利政策に関するネガティブな記事を読んだことがある人は「マイナス金利政策はマズいんじゃないかな」という感想を抱いているかもしれません。マズイことはわかるけれど、どの程度マズイかはまではよくわからないといったところでしょうか。

 

 ではマイナス金利政策に関連する多少なりとも基本的な知識を有し、客観的事実を知っている人はどんな感想を抱くでしょうか。

 

 それはマイナス金利政策というのは「日本の金融・経済を破壊し、国民の負担を増やし、年金システムを崩壊させる」という最悪の結果をもたらすことが十分考えられるというものです。上の日経のマイナス金利政策の説明からは到底得られない感想になります。

 

 マイナス金利が続くと銀行や保険の収益構造が崩れ、生き残るためには手数料の増額といった形で国民負担が増えざるを得なくなります。企業も設備稼働率が趨勢的に落ち込んでおり、設備投資を増やせない状況ですから、マイナス金利が実体経済をよくするとは思えません。

 

 さらにマイナス金利は公的年金の運用利回り(現在厚労省は4.1%程度を想定している)を大きく減らすので、時間が経つにつれ年金積立金に依存した年金支払いが不十分となり、その分年金保険料の増額や年金受給額の減額、給付年齢の引き上げで賄うことが必要になります。少子高齢化と合わせて、これら措置の全世代に与える負担の度合いは相当大きいと予想されます(国民が負担に耐えられずに制度崩壊につながることもあり得ます)。

 

 経済、金融の多少の知識や現状を知っており、それを利用可能な情報として用いることで、こうした感想を得ることもできるのです(余談ですが、私のサイトで配当再投資や金投資を薦めているのも、こうした事情を想定したうえで皆さん自身で大切な資産を守ってほしいと考えているからです)。

 

 マイナス金利政策のニュースだけではありません。国内の経済に関するニュースを見るときも、中央銀行の政策に関するニュースを見るときも、企業の決算を見るときも同じです。背景となる知識を有さず、専門的でいまいち何を言っているのかわからない情報を目にすると、あまり根拠のない感情的な判断や推論をしてしまうのです。

 

 

無知は危険である

 上で話したことから何が言えるのかというと「無知は危険である」ということです。

 

 無知でいるとマクロ経済指標の数字といった客観的事実や難しい言葉からは目を逸らし、読みやすい文章ばかり目が言ってしまいがちです。ニュースの文面の書き方の印象や役に立たない連想に依存した、的外れな感想が導かれてしまうことが往々にしてあり得るのです。

 

 読みやすい文章というのは客観的事実よりも意見の方が多いものです。国際組織の権威者やCEO、学者、アナリストらの意見やメディア独自の見方(喧伝含む)にばかり目が言ってしまうものです。

 

 残念ながら人間はみな正直ではなく、自分にとって都合の悪い情報があるとそれをごまかしたり隠したりしながら、前向きで希望に溢れる言葉を並びたててしまう生き物です。こうした罠に気付けないと、事実とは真逆の間違った見方をしてしまったり、間違った見方をもとに変なタイミングで変な企業に投資してお金を損してしまうことがあり得るのです。

 

 よって事実に基づいた多少なりともまともな判断をするために、無知を解消する必要があるのです。つまり経済でも金融でも、興味のある分野について多少なりとも勉強した方が良いということです。

 

 ニュースやネット上の様々な情報を眺めているだけでも何となく世の中の現状についてわかった気になりがちですが、個人的な経験を踏まえて言えばこれだけではわかった気でしかないこともしばしばあります。

 

 経済、金融、会計、歴史、その他もろもろ、一度本を読んで基礎的な内容を体系的に学んだり、様々な専門用語を目にしたり、過去の事実を知る経験をすることで、客観的事実や難しい言葉を真摯に受け止められるようになります。わからない専門用語等が出て来ても、思考停止せずに自分で意味を調べてみようとの動機も生まれてくるので、さらなる成長につなげることもできます。

 

 またニュースやその他情報を見たときの視野が格段に増えます。少しでも学習経験があると自分で調査をしやすくなったり、ニュースのポイントも頭に記憶しやすくなるので、適切な情報を判断材料とした推論がしやすくなり、分析力も向上します。

 

 完璧に理解できなくても、一度学習した経験さえあれば少なくとも意見ではなく事実に着目しながら自分で解釈しやすくなるため、日々の情報に接したときに得られる考えや意見もまともになっていくでしょう。

 

**********

 

 利用可能な情報をもとに、感情的な判断を下す。これ自体は人間の思考手続きとして進化論的に埋め込まれているものであり、防ぐことはできません。どんなに理性的だと思っている人でも利用せざるを得ないものです。

 

 思考をする上で大切な視点は「こうしたすべての人間に備わった大雑把な思考手続きをどう上手く活かせるようにするか」です。こうした視点が投資を上手く行ったり、情報をまともに解釈するために重要であると言えます。その解決法の一つが「無知であることをやめる」ことなのです。

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