長期投資に関わるリスクの時間的影響による分類

投資ブログへのリンク

長期投資に関わるリスクの時間的影響による分類

 投資を行う上で最も理解することが大切となるのはリスクについてでしょう。

 

 今までの記事では長期投資のリターンをどのように得るのか、その一つの方法として配当再投資を説明してきました。投資の一番の目的は自分で掲げた目標となるリターンを達成することですし、リターンをどのようにして得るのかという基本的仕組みが皆さんが一番興味のあるところだと考えたからです。

 

 しかし目標のリターンを達成するまでには様々な紆余曲折があるでしょう。価格変動、世界の経済・金融危機、医療費といった突発的な出費、そしてピンチが訪れたときの心理の動揺...こういったリスクをクリアすることが大切となります。

 

 今回は投資のリスクを語るうえで、時間的影響によるリスクの分類を考えてみたいと思います。というのは長期投資家にとっては、長期で影響を与えるリスクとはどんなものかを理解することが大切で、短期にだけ影響を与えるリスクはあまり重要ではないからです。きちんと分けることが重要です。

 

 

リスクの時間的影響による分類

 リスクには市場リスク、信用リスク、流動性リスクといった、リスクの原因となる部分に応じて様々なタイプのリスクがあることが知られています。

 

 もちろんこうした分類も意味のある分類ではあるのですが、私たち投資家にとって重要なのはリスクの原因となる場所がどこかというよりは、リスクが生じたときの「ダメージの大きさ・規模」と、マイナスの影響が続く「期間・時間」がどれくらいであるかだと思っています。

 

 私たちが何故リスクを考えるのか、それは我が身に降りかかる損失を最小限に防ぎたいからです。よってリスクが生じたときに私たち自身にどれだけの被害を与えるかどうかが、リスクに関して最も関心が高いはずです。そして被害の度合いを示すのが「規模」と「時間」なのです。

 

 では規模と時間によってリスクを区別するとどんなリスクがあるでしょうか。ちょっと考えると次の3つのリスクがあることがわかります。

 

  1. 短期的な影響が長期的な影響に直結するリスク
  2. 短期的に大きな影響を及ぼすが、長期的にはほとんど影響力が失われるリスク
  3. 短期的にはあまり影響力はないが、長期的に莫大な影響を及ぼすリスク

 

 このうち1番目と3番目は絶対に避けなければならないリスクです。一方2番目はあまり気にしないようにすることが大切なリスクです。そして2番目のリスクを気にしすぎてしまって適切な行動を取れないと、1番目のリスクに変化してしまいます。

 

 それではこの3つのリスクについてもう少し詳しく説明しましょう。

 

短期的な影響が長期的な影響に直結するリスク

 これは言い換えれば「一寸先は闇」というリスクです。これは次の3つの要因によって引き起こされます。3つの要因とは「集中のさせ過ぎ・準備不足・油断」です。

 

 まず投資以外の現実世界でありえそうなシチュエーションを考えてみましょう。例えば仕事一筋でその道しか知らないサラリーマンの方が働いていた職場を突然解雇されて、長い間生活に苦労を強いられる人もいるでしょう。

 

 何故長い間生活に苦労してしまうのかといえば、未来の収入をすべて現在の仕事1点に集中させてしまい、他の収入源(副業、投資など)を確立して来なかったことや、いままでの仕事分野以外の分野をあまり勉強して来なかったために、新しいことをしようと思ってもそうするための知識や理解、視野がないという準備不足に大きな原因があるかもしれません。

 

 スマホを見ながら自転車をこいでいたら交差点で横から来た自動車とぶつかって半身不随になってしまったり、最悪死んでしまうこと。これはまさに油断から来るものです。

 

 他にも大地震に襲われたときに十分な備蓄がないためにしばらく食事に苦労した、これは準備不足や油断が原因でしょう。一世一代の賭けに負けて大量の資金を失った、これは集中や油断が原因といえるでしょう。

 

 このように投資以外の現実世界でありえそうな「短期的な影響が長期的な影響に直結するリスク」を考えてみると、「集中のさせ過ぎ・準備不足・油断」のどれかに原因が潜んでいることが多々あるように思えます。

 

 投資でも同じです。投資でもこの3つの要因が短期的な影響を長期的な影響に直結させてしまい、大失敗につながってしまうのです。投資ではこの3つの要素は具体的に次のように言い換えられます。

 

  • 集中のさせ過ぎ→分散投資が不十分、生活資金も含めたあまりに多くの資金を投資につぎ込むなど
  • 準備不足→投資に関する勉強不足、リスクや企業の財務状況を調べずに投資する、精神的な備えが不十分など
  • 油断→株価の上昇に浮足立つ、根拠もなく相場に楽観的になる、後先考えずにレバレッジをかけるなど

 

 例えば昭和2年に日本で起きた昭和金融恐慌。当時の大手金融機関や商社がバタバタと倒れ、こうした企業にとってまさに「一寸先は闇」が現実化したわけですが、この原因は第一次世界大戦の特需期から放漫な貸出を金融機関が行ったからでした。

 

 特定事業や企業への集中融資、リスクを過小評価して事実上無担保の信用ベースの融資、監査機能が不十分であることから発生したモラルハザードによって金融機関全体に蔓延した油断、こうした「集中・準備不足・油断」が当時日本の大金融恐慌を引き起こしました。

 

 また2008年のリーマンショック期にはAIGという当時米国最大の生命保険会社が多額の損失を出して事実上破綻しましたが、その背景にはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれる「企業に関する死亡保険」「大量破壊兵器(by ウォーレン・バフェット)」を、将来のリスク評価を十分にせず、モラルのかけらもなく集中的に売りまくって保険料収入を得ようとしてきたことが原因でした。ここにも「集中・準備不足・油断」があると言えるでしょう。

 

 このように投資の世界においても「集中・準備不足・油断」が一寸先は闇の隠れた要因となるわけです。

 

 「集中・準備不足・油断」。これら3つに共通しているのは、短期的な影響が長期的な大失敗につながる出来事、一寸先は闇な出来事が起こるかどうかは「私たち自身の意識や行動」に掛かっているということです。

 

 上の金融危機の例でも、原因は投資や融資そのものではなく、それに携わった人たちに原因があることがわかります。また昭和金融恐慌のときには財閥系銀行が多くの預金を獲得できましたし、2008年の危機のときもウェルズ・ファーゴ、M&Tバンクといったアメリカのリスク管理がしっかりされてきた商業銀行ではすぐに業績は回復しています。

 

 個人レベルで考えても次のような心掛けさえしておけば、仮に投資で失敗しても損失は限定されるでしょう。

 

  • しっかり分散投資を行う
  • 資産のすべてを投資につぎこまない
  • 信用取引をしない
  • 空売り・オプションの売りをしない
  • バブルの歴史を勉強してパニックにならないことが重要であると学ぶ
  • 普段から株価を見過ぎない
  • 価格が急落しても、配当再投資をすることで長期的に資産を大きく増やすチャンスに変えられることを理解する

 

 一寸先は闇な出来事のリスクの本質は「私たち自身にある」ことを理解することが大切なのではないでしょうか。

 

短期的に大きな影響を及ぼすが、長期的にはほとんど影響力が失われるリスク

 これは一言で言ってしまえば「インフレリスク以外の投資リスク」です。価格の変動をもたらす市場リスクや流動性リスクのことを指しています。

 

 市場リスクや流動性リスクは私たち投資家自身で発生を防止することはできません。各国の予測不可能な情勢、金融機関の破綻、株式市場の一時閉鎖など、投資をしているときにはどうしてもこうした出来事に何らかの形で影響を受けてしまうことでしょう。

 

 しかしこれら「インフレ以外の投資リスク」で最も重要なのは、分散投資をする、売買高の少ない銘柄には投資しすぎない、投資の勉強をする、市場、経済、金融の歴史を知り精神的な心構えを広くするといった行動により、長期的な影響を抑えられることです。上に挙げた「集中のさせ過ぎ・準備不足・油断」さえ克服すればあまりビクビクする必要はないですし、ビクビクしてもしょうがないのです。

 

 市場リスク、流動性リスクは確かに短期的には大きな影響を及ぼします。1929年のウォール街の大暴落やリーマンショック、日本やドイツなどの敗戦などは短期的に株価を50%以上、酷いときには90%以上下げてきました。

 

 しかしこうした短期的な大ショックを受けても何も気にすることなく配当金を再投資してバイアンドホールドを続けていれば、20年、長くて30年も経てば資産を大きく殖やすことができるのです。国別で分散投資を行っていれば短期的な被害をある程度抑えつつ、もっと早い年月でリターンに転じることができたでしょう。

 

 過去の歴史、とりわけ2回の世界大戦や中東の大混乱、世界大恐慌、共産主義の台頭といった激動の20世紀を見ても、アメリカやイギリスはもちろんのこと、敗戦やハイパーインフレを経験した日本やドイツ、その他各国を見ても、長い目で見れば株式のリターンはプラスになっていったのです。

 

 市場リスクや流動性リスクはよく日々のニュースでも関連記事が取り上げられますし、専門家もよく分析や予測を行っているので、人によってはニュースを見ることでこうしたリスクに敏感に反応したり不安になったりするかもしれません。

 

 しかし過去何度も株式の危機が騒がれながらも株式が歴史的に高いリターンをあげてきたことを考えれば、普段の市場リスクや流動性リスクに関するニュースに気にしすぎても仕方がないのです。

 

 そんなことよりも短期的な変動を抑えるために国別やセクター別などで分散投資を行ったり、ポートフォリオのリターンの変動やそれが引き起こす精神への動揺を抑えておくよう管理することの方がよっぽど長期投資成功に貢献するでしょう(であると私は信じています)。

 

 むしろ日々の株価や日々のニュースをあまりにも気にしすぎて、動揺や妄想という意識外の油断を引き起こすことの方がよっぽど怖いことだと思っています。上で話したように、ちょっとした油断こそ短期的な影響を長期的な悪影響、大失敗をもたらす引き金になるからです。

 

 突発的な株価の下落や強烈な見出しのニュースに大きく反応してしまい、即刻安値で株式を売りたたいてしまうこともあるかもしれません。しかしこうした行動は単にキャピタルロスを生み出すだけではなく、いままで時間を掛けて複利効果を働かせながら育ててきた株式の芽を根こそぎ摘み取ることになってしまいます。いままでの長期投資の努力がすべて失われてしまうのです。

 

 短期的に大きな影響を及ぼすが、長期的にはほとんど影響力が失われるリスクで本当に大切なリスクは。市場リスクでも流動性リスクでもありません。投資家自身が「短期的に大きな影響を及ぼし、さらに長期的に莫大な影響を与えるリスク」に替えてしまうことが一番のリスクなのです。

 

 分散投資、歴史や心理学などの研鑽、日頃からあまり株価や市場に関するニュースを深く見過ぎない「Less is more」の意識、こうした行動によって市場リスクや流動性リスクが生じてもそこまで気にしすぎなくてよい環境をつくる、これが短期的な影響を長期的に影響力がないようにするための一番大切なことなのです。

 

短期的にはあまり影響力はないが、長期的に莫大な影響を及ぼすリスク

 これは最も私たちが警戒しないといけないリスクです。というのはこうしたリスクは「気付かないうちに(もしくは気付いても大したことがないと高をくくっているうちに)雪だるま式にリスクが積み重なり、リスクに気付いたとしてもその時にはもう手遅れ」といった特徴があるからです。これは私たち投資家自身のリスクにもありますし、私たちの外にもあります。

 

 まず投資家自身の面で言えば、「自分は完璧」だという自信、楽観、それに謙虚さの欠如です。人間は理解している知識、直近のニュースといった目に見えるもの、自分が正しいと思っている信念にばかり目がいってしまい、自分の頭の中にないもの、信じられないものには中々気づかないものです。

 

 ある程度勉強をしたりマスターした気分になると「自分は完璧」だと思って、その後の勉強や研鑽をおろそかにしてしまうもの。そうして長い期間を無駄にしてしまうと、リスクを見落としてしまったり後で自分の勉強不足を悔やんでも失った時間は戻ってきません。

 

 いくら自分の投資方法が完璧であっても、時に自分のポートフォリオの特徴を調べてみると意外な問題が見えてくるものです。そうやって早くから軌道修正できれば良いのですが、出来ないと「自分の考えと実際の行動」との間に乖離が出来てしまい、気付いた時には長期的に大きな影響を与えてしまうかもしれません。

 

 また世の中は常に動いており、環境が大きく変われば投資環境や適した資産も変わってきます。現在がすべてだと勘違いして歴史を知っておかないと、実は世界の大転換がやってきているのにそれに気づかず、間違った資産を多く抱えることにもなります(例えば国家破綻の足音が近づいているときに金や銀を少しも持たず、現金を多く抱えているなど)。

 

 このように自分は完璧、現在の状況が永久に続くものだと思って自分の行動や理解の欠如や問題点に気づかないまま問題を放置してしまった結果、後になって取り返しのつかない損失を被る。これが投資家にとって最も怖いリスクです。

 

 では投資家の外にある、短期的にはあまり影響力はないが、長期的に莫大な影響を及ぼすリスクとは何でしょうか。それはインフレリスクです。私たちはこのリスクに対処できる投資戦略をできるだけ早く考え、実行することが求められます。

 

 インフレリスクを何故相当程度警戒しないといけないのか。それはインフレが私たちの実質の資産価値を「目に見えない形で複利的に減少させる」からです。もっとわかりやく言うと「私たちの知らない間にこっそりと資産を奪っていき、気付いたときには取り返しの付かないことになっている」のです。

 

 インフレリスクは実体の生活の中に見えてきます。「最近食品や衣服の値段が高いな...」と感じるものですが、まだ生活を少し切り詰めればなんとかなる、そう思ってしまうかもしれません。

 

 しかしこうしたちょっとした負担の増大が少しずつ複利的に積み上がり、本当にインフレリスクが顕在化するとインフレは一気に進んでしまうのです。1970年代からのアメリカでのインフレもそうでしたし、第一次世界大戦からのドイツのハイパーインフレもそうでした。

 

 怖いのは、私たち人間は途方もないインフレが始まっていることを、インフレが相当進展してからでないと認識できない可能性があることです。

 

 例えば第一次世界大戦に端を発し、最終的に通貨価値が1兆分の1になったドイツのハイパーインフレーションのときでも、多くのドイツ国民はインフレを認識していなかったと言われています。

 

 モノの値段が急上昇しても「来週には落ち着くさ」と楽観的に考えたり、1マルクの価値は1マルクのままだと考えることで通貨価値の下落に気付けなかったり、新聞にもハイパーインフレが長く続くことはないと書かれているなどして、ドイツ国民が「とんでもない事態が起こっている」と気づき、対処するまでにはインフレ開始から何年も経ってからだったのです。

 

 「なぁに、私は大丈夫。インフレが起こってもすぐに気づけるよ」と思っている皆さん。実はいま日本で起こっているマイナス金利政策が事実上インフレ状態を生んでいることにお気づきですか?

 

 この文章をみて何を言っているのかさっぱりわからない方は、もしかしたら100年前のドイツ国民の置かれた状況や彼らの認識とさほど変わっていないかもしれません。

 

 人間は目に見えないこと、いままで経験して来なかったことをすぐに認識し自覚することは出来ないですし、自覚できても中々すぐに対策に移せない生き物です。インフレという目に見えない魔物を放っておくと、気付いた時には手遅れです。なんせインフレは資産を複利的、加速度的に減らしていきますから。

 

 だからこそ私たちは高インフレになる前から「そもそもインフレとは何か?」「インフレの威力はどの程度なのか?」「インフレの時期に株式や貴金属のリターンはどれくらいだったのか?」「何故マイナス金利はインフレと大して変わらないのか?」といった、インフレにまつわる理解を深め、早くから合理的な対処が望まれるのです。

 

 インフレに関する基本的事柄をしっかり認識し理解しておけば、早くからインフレリスクに対処しやすくなります。特にいまの時代、インフレに対する感受性を今のうちから高めておくことで資産防衛に大きく役立つのではないでしょうか。

 

 【マイナス金利政策が事実上のインフレ状態を生んでいる?】
 マイナス金利政策が事実上のインフレ状態(より正確にはスタグフレーション)を生むことに変わりないことは、例えば次の書籍を読むと理解できます(少々専門的なので人によっては内容が難しいかもしれませんが、理解しやすい部分をかいつまんで読んでもらえれば大丈夫です)。将来への不安を自分の力で乗り切りたい方は読んでみてはいかがでしょうか。
 →マイナス金利―ハイパー・インフレよりも怖い日本経済の末路

 

最終更新日:2016年8月25日

アボマガリンク


アボマガ・エッセンシャル(有料)の登録フォームこちら


アボマガお試し版(無料)の登録フォーム


このエントリーをはてなブックマークに追加   
 

▲記事本文の終わりへ戻る▲

▲このページの先頭へ戻る▲