アボマガ No.270
2023/09/11

輝きが解き放たれるのは時間の問題か


今回はゴールドに関するお話しです。ゴールドを取り巻く環境に大きな変化が生じようとしているので、記事にしました。紹介している金関連銘柄に関しては明日の配信で扱います。

 

日本の金小売価格が最近1グラム1万円を突破しましたが、これは主に円安要因なので、金市場の今後を読み解く参考にはなりません。読み解くには世界を見渡すことが求められます。

 

これまでの金市場のトレンドを簡単に振り返る


昨年から現在にかけての金市場における最大のトレンドは、欧米投資家による金売りと新興国中央銀行による金買いの綱引きと言えるでしょう。

 

2020年にパンデミックが始まり世界景気が一時恐慌並みに落ち込んだ際、世界の金需要も併せて落ち込みました。

 

その後景気が回復していく中で、原材料やエネルギー価格の高騰、サプライチェーンの混乱、人手不足によるインフレが起こり、2021年にかけて新興国の消費者が牽引する形で金需要は回復していきました。

 

昨年に入ると、2つの外部環境の変化によって金需要のトレンドはがらりと変わりました。

 

一つはインフレを抑えるためにFedを皮切りに先進国の中央銀行が利上げを始めたことです。

 

欧米投資家は実質金利(名目金利-インフレ率)が低下すればゴールドを購入し、上昇すればゴールドを売却する傾向にあります。

 

実質金利が上昇するほど、彼らは利息の付かないゴールドよりも利息の付く国債を安全資産として選好するようになるからです。

 

米国の実質長期金利は利上げとともに上昇してきました。Fedの政策金利は5%を超え、長期金利も上昇してきた一方で、直近のインフレ率は3%台前半にまで低下し、実質金利は2020年以来となるプラスになりました(下図緑線)。

 

この動きにきれいに対応する形で欧米投資家は金売却を現在にかけて積極的に進めてきました。

 

画像ソース: FRED

 

もう一つ、昨年に起きた外部環境の変化はウクライナ戦争の勃発です。

 

新興国はアジア通貨危機を経験したり海外の国々が米国の経済制裁を受けることを目の当たりにしたことで、米国の対外政策によって自国経済が翻弄されるのは嫌と思い始め、米ドル依存からの脱却を模索してきました。

 

昨年2月にウクライナ戦争が始まり、欧米が新興国の大国であるロシアに対して資産凍結やSWIFTからの締め出しといった経済制裁を矢継ぎ早に科したことを見て、新興国は脱ドル化を本格化させていきました。

 

その象徴的な動きが、新興国中央銀行による金準備の爆買いです。昨年の世界の中央銀行の金買いは過去最高となりました。

 

中国人民銀行は昨年11月以来、今年8月にかけて10か月連続で金準備を買い越しています。中国は公表している数字以外にも裏でさらに金地金を購入しているのではないかとの噂が絶えません。

 

さらに新興国の間で、ニューヨークとロンドンに預けている金地金を自国に戻す動きも出てきており、ゴールド選好・脱ドルの動きが加速しています。

 

下図をみると、2022年以降のトータルの金買い越し量(灰線)は、中央銀行の金買いを反映した動きになっていることに気が付きます。

 

中央銀行の金買い越し量に比べれば、欧米投資家による売却(金ETFの売り越し量)は少ないです。金需要という観点からみると、新興国中央銀行が金市場をコントロールしているように見えます。

 

 

ドル建て金価格の推移をみると、Fedが利上げを開始した昨年3月から10月にかけて、1オンス2050ドル程度から1620ドル付近にまで下落しました。

 

上図をみるとわかる通り、ちょうど欧米投資家が金ETFを大きく売り越していった時期と重なります。

 

しかしその後、昨年11月から今年3月にかけて金価格は大きく値上がりし、今年3月には再び1オンス2050ドルに達しました。

 

金ETF売りが急速に萎んだ一方で、新興国中央銀行の大きな金買い越しが起こった時期と重なっています。

 

その後現在まで金価格は1オンス1920ドル割れにまで下がってしまいましたが、中央銀行の金買いが急速に低下したことに対応しています。

 

昨年11月以降、新興国中央銀行がドル建て金価格の推移を決定づける状況が続いています。

 

 

新興国の中央銀行と消費者の金需要はこれからも伸びていく


さていま、ゴールドを巡る環境にまた大きな変化が生じようとしているのですが、それについては後述します。

 

その前に最近の金需要についてもう少し細かく見ていきたいと思います。

 

上の図からわかるように、今年に入り中央銀行の金需要は低下しています。昨年10~12月期に過去最高の417トンを記録した後、今年に入り1~3月期は228トン、4~6月期は103トンと下がりっぱなしです。

 

これは4~6月期にトルコ中央銀行が132トンもの金準備を売却したという「特殊要因」が働いたためです。

 

トルコと言えば、ロシア、中国とともに金準備を積極的に買い増してきた「ゴールド・バグ」国の一つです。トルコ中銀の売却がなければ、4~6月期の中央銀行の金買い越しは243トンで、1~3月期を上回っていました。

 

画像ソース: World Gold Council

 

「特殊要因」とはどういうことか。

 

今年2月にトルコ・シリア大地震が起きて、5万人以上の人たちが亡くなりました。その規模と範囲は阪神淡路大震災を大きく上回るものとされます。

 

ただでさえ酷いインフレとリラ安が進んできた中で、復興支援が必要になりました。支援物資の輸入が必要になりました。財政と経常収支はますます悪化し、インフレ・リラ安圧力がさらに増しました。

 

そこで経常赤字拡大を防ぐために、トルコ政府は2月中旬に一部の金輸入の停止を決めました。

 

他方、高インフレと通貨安により、トルコ国民の金需要は高まっていました。

 

かつてトルコ市民は外貨や外貨建て資産を安全資産とみなしていましたが、トルコ政府がインフレ・リラ安対策のために、個人・法人の外貨や外貨建て資産の保有・使用に制限や罰則を設け、外貨運用をさせにくくしてきました。

 

またハイパーインフレ下の利下げにより、実質金利は一時マイナス60%近くに達したため、トルコ債券への投資妙味はありませんでした。

 

そのためトルコ市民は資産防衛のためにゴールドの購入を増やしてきたのです。その結果トルコ国内ではゴールドが不足気味で、国際価格にプレミアムが上乗せされた価格で取引されていました。

 

そのなかで大地震に伴う一部金輸入停止措置が取られ、トルコ国内は極度の金不足に陥り、プレミアムはますます高まりました。

 

そこでトルコ中央銀行は金需給を和らげるために、保有していた金準備を売却したのです。これが4~6月期にトルコ中銀の金準備が減少した理由です。

 

 

トルコでは復興支援が一段落し、経常収支は6月に2021年以来となる黒字となりました。これを受けてトルコ政府は7月初めに一部金輸入停止措置を解除しました。

 

8月初めには、金準備の拡充と経常赤字の削減を目的に、金の輸入割り当てを再開しました。

 

2年前にもトルコ中銀の金準備が急減したことがありましたが、その翌年(2022年)に金準備は急速に増えていき、2020年の過去最高付近にまで達しました。

 

そのためトルコ中銀の金準備は、2022年と同様にまた増えていきそうです。今後の中央銀行の金需要を大きく押し上げる効果が期待できます。

 

トルコ中央銀行の金準備推移

画像ソース: Trading Economics

 

今度は世界各国の消費者の金需要を見てみましょう。これを見ると、今年に入りインドと先進国の需要が大きく低下したことがわかります。

 

インドで宝飾品、金地金・コインの需要が減っているのは、現地通貨建て金価格が値上がりしたためです。これはよくあることです。

 

先進国ではパンデミック時の政府の給付金で肥え太った過剰貯蓄が大きく減ったことと、モノからサービスへと消費対象がシフトしていることが金需要低下の原因とみられています。

 

中国では昨年のゼロコロナ政策からの反動で、景気が鈍化しているなかでも金需要は高い水準が続いています。ただ現地通貨建ての金価格の上昇と節約志向の高まりから、今後金需要は一時的に伸び悩むかもしれません。

 

いま消費者の金需要が安定して大きいのは、中東+トルコです。パンデミック前を上回り高止まりしている状況です。

 

 

トルコ消費者の金需要について、逆風が吹いています。

 

トルコ政府は8月に国内の金需要を減らすために、一部の金輸入に追加課税を適用し始めました。この突然の政策導入により金保険料は高騰しました。

 

6月からトルコ中銀はリラ防衛のために、これまでのハト派路線からタカ派路線へと変貌し、政策金利を25%にまで引き上げました。

 

さらに大地震で財政が悪化したことを受けて、エルドアン政権は燃料税、付加価値税や生活必需品の税率なども引き上げています。

 

トルコのインフレ率が6月に38%にまで下がり、中銀が急激な利上げをしたにも関わらず、7月にインフレ率が48%、8月に59%にまで急上昇しました。これは増税のため(特に燃料税引上げのため)です。

 

金保険料の高騰と増税により、トルコ市民の金購入負担は増しました。利上げにより金購入妙味は減りました。そのためトルコ消費者の金需要は短期的に減るかもしれません。

 

でもリラ安や高インフレは止まっておらず、そこに財政悪化も加わり、リラの信用がすぐに回復するとは思えません。

 

いまは石油、天然ガス価格が底打ち反転したタイミングです。これから冬を迎えることでこれら価格や電気料金は上がりやすくなります。

 

トルコのリラ安やインフレが再び酷くなることは十分考えられます。いずれまたトルコ市民の購買力維持のための金買いは増えると思っています。

 

トルコのインフレ率

画像ソース: Trading Economics

 

中東で消費者の金需要が特に大きいのは、イラン、エジプト、UAE、サウジアラビアです。

 

そのなかで特筆すべきなのはエジプトです。

 

エジプトではウクライナ戦争が始まって以降、ロシア・ウクライナに依存していた主食の小麦の輸入が不安定化し、価格が高騰しています。

 

燃料高も重なり、エジプトでは輸入負担増大により外貨不足に陥り、ウクライナ戦争開始から現在にかけて2回も通貨切り下げを行いました。

 

食品・エネルギーをはじめとした輸入価格が急騰していることから、インフレの上昇が止まりません。

 

エジプトのインフレ率

画像ソース: Trading Economics

 

つまりエジプトでは資産防衛としての金購入が増えているのです。明らかに2022年から金需要は急拡大しており、直近四半期の金買い越し量はパンデミック前の倍以上になっています。

 

 

イラン、UAE、サウジアラビアの金需要は拡大しているとはいえ、パンデミック前の水準を超えているわけではなく、需要がもとに戻った形です。

 

このうちイランでは高インフレが続いているので、この状況が続けば購買力維持のために金需要はさらに増えていくかもしれません。

 

湾岸諸国はイランと違ってインフレは低位安定しています。そのため購買力維持としての金需要の増加はいまのところ望めません。

 

でも湾岸諸国で注目したい点があります。人口に占めるインド人の割合が多いことです。

 

国外在住のインド人は1340万人ほどいると言われますが、そのうち3分の2にあたるおよそ890万人は、UAE、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、バーレーンに住んでいるとされます。

 

彼らの大半は出稼ぎ労働者やその二世です。賃金の安いブルーカラーの労働は彼らインド人が担ってきました。

 

UAEではインド人の人口の割合は実に36%に達します。サウジは7%しかありませんが、他の湾岸諸国では20%前後をインド人が占めます。

 

インド人は伝統的にゴールドを好むため、パンデミック後の経済回復で増えた所得の一部を金購入に充てています。湾岸諸国で最も金需要が大きいのはUAEですが、それはインド人人口が最も多いためであることで説明がつきます。

 

 

中東はパンデミック以降の原油価格の上昇で財政が潤いました。いまでは積極的に投資することができるくらい湾岸諸国の財政は回復しており、報道を見る限り、サウジを筆頭に脱石油経済の構築に向けた投資に力を入れ始めています。

 

経済が安定して成長することで、そこで働くインド人の所得が増え、中東の消費者の金需要は拡大していくことになるでしょう。

 

経済の成長で金需要が増えていくのは他の新興国でも同じです。いまは需要が落ち込んでいるインドでも、今後本格的に経済発展し所得が急増することで、金需要は増えていきます。

 

中国では不動産市況の悪化が懸念され、これから急激に人口が減っていきますが、電気自動車・再エネ産業が本格的に成長しています。もうあと10年程度は経済成長できると思います。

 

経済成長やインフレ対策のために、新興国の消費者の金需要は今後も長期的に増加傾向が続くはずです。

 

ゴールドに追い風となる、外部環境の新たな大きな変化


上にて「ゴールドを巡る環境にまた大きな変化が生じようとしている」と書きました。このことについて説明していきましょう。大きな変化は2つあります。

 

一つは先月のBRICS首脳会議で、新興国の脱ドル化・通貨の多極化の流れがますます強まり、確定的となったことです。

 

来年からBRICSに新たに6カ国が加盟し11カ国体制になります。そのほとんどは資源国であり、資源の供給は新興国の思惑で調整されることになります。

 

先の首脳会議では通貨の多極化が中心議題の一つであり、SWIFTの代替となる、米ドルを使わない国際決済プラットフォームの構築に向けて各国が本格的に動き出すことが、採択された最終宣言から読み取れます。

 

脱ドル化の象徴が中央銀行による金買いのわけですから、おそらく今後も新興国中央銀行による旺盛な金買いは続くものと考えています。

 

上述の通り、今後トルコ中銀の金需要が一時的に大きく増える可能性が高いです。このタイミングで他の中央銀行も購入を増やしていけば、今年下半期に昨年以上の金買いが起こる可能性もゼロではありません。

 

 

もう一つの大きなトレンドの変化は、原油価格が反転上昇していることです。

 

WTI原油価格は昨年6月に1バレル120ドル超えした後、今年3月までの9か月間にわたり下落し、一時1バレル67ドル台をつけました。その後6月までおおむね停滞を続け、7月から反転上昇し、現在は1バレル87ドル台にまで値上がりしました。

 

画像ソース: Stock Rover(有料)

 

何故原油価格は上昇しているのでしょうか。よくある意見は産油国の減産です。

 

たしかにOPECプラスは協調減産を進めています。今月、サウジアラビアは現行の日量100万バレルの自主減産を年末まで延長、ロシアは年末にかけて輸出量を30万バレル減らすとそれぞれ発表し、原油価格は値上がりしました。

 

米国のシェール企業は、原油価格が下がってきたなか、キャッシュフローの安定化を優先させるために、今年に入りリグ稼働数を減らし続けてきました。

 

脱炭素を進めて化石燃料の使用を減らすという長期的なトレンドがある以上、産油国や石油会社が積極的に増産することはこれからも考えにくいです。

 

画像ソース: YCharts

 

でも本当の理由は、バイデン政権が進めてきた米国政府の石油備蓄放出ペースが今年に入り鈍っているからです。

 

石油備蓄の推移をみると、昨年の4月から昨年末にかけて放出がもっとも進んだことがわかります。Fedの利上げの裏で石油備蓄を放出しまくったのです。

 

石油備蓄の放出が本格化し始めた昨年の4月からおよそ3カ月後に原油価格は下がり始めました。石油備蓄の放出ペースが落ちた今年の頭からおよそ7ヵ月後に原油価格は上昇し始めました。

 

石油備蓄の放出ペースの変化から3~7ヶ月後に、原油価格に反映されていることがわかります。こうした明確な連動が両者にあるのです。

 

 

米国のインフレ率は一時3.0%にまで低下しましたが、これはひとえに原油価格の下落によるものでした。

 

石油備蓄放出ペースがいまだに鈍い中、産油国の各国が減産を続けている以上、世界が深刻な景気後退に陥り石油需要が急減しない限り、原油価格は上昇・高止まりすることになるでしょう。

 

市場はインフレ率の低下をFedの金融引き締めのおかげだと思っていますが、本当はバイデン政権による石油売り政策のためなのです。

 

そもそもインフレ退治の名目で利上げすれば、石油会社は原油価格の下落への不安と資本調達コストの増加から、開発に慎重になります。

 

結果、石油需給は逼迫して原油価格は値上がりしやすくなります。こんなことは誰でもわかることです。

 

食品・エネルギーをはじめ変動しやすい品目を取り除いた粘着インフレ率は、いまだに5.46%もあります。真実を言いましょう。Fedの利上げはインフレ退治に大した効果をあげていないどころか、エネルギーインフレを酷くし得るものなのです。

 

画像ソース: FRED

 

再び米国政府が石油備蓄を放出して原油価格を下げることはできるかもしれませんが、限度があります。

 

バイデン政権発足以来、2年8か月で石油備蓄はおよそ半減してしまいました。もう一度備蓄を放出して無理やり原油価格を下げようとすると、備蓄の枯渇が視野に入ってきます。

 

そうなれば原油価格を人為的に下げることができなくなるどころか、米国内の石油在庫不足(=世界的な在庫不足)を市場が認識して、原油価格は上がってもおかしくありません。

 

画像ソース: EIA

 

粘着インフレは今後も上昇・高止まりが続くと思っています。そうしないともう米国経済を回せないからです。

 

米国の消費者は過剰貯蓄を使い果たし、1兆ドルを超えるカード残高が残っています。20%を超えるカード金利の利払いと9月から再開した学生ローンの返済が家計を圧迫します。

 

米国政府は金利上昇で年間の利払い費が1兆ドルを超えて、今後も増え続けていきます。

 

消費者も政府も借金漬けで資金余力のない状況で、もうこれ以上信用供与によって経済を回していくことは困難です。

 

米国の人口はほぼ頭打ちになっており、販売量を増やして企業利益や経済規模を大きくすることはできません。

 

米国が手っ取り早く経済成長するための方法は、賃上げを続けることです。賃上げを続ければ企業は人件費上昇分以上を最終品に価格転嫁して利益を増やせます。

 

すでに世界各国の企業はコスト上昇分以上の値上げで利益や利益率を高めています。これに対する消費者からの大きな反発はありません。市民の主張は「値上げするな」ではなく「給料を上げろ」です。企業にとってシメたものです。

 

賃上げと最終品価格の上昇のサイクルでインフレが続くわけです。粘着インフレ率は高止まりします。

 

粘着インフレ率は高止まりし、原油価格は一年前とほぼ同じ水準にまで高まっているのですから、これからインフレ率は反転上昇していきそうです。

 

もちろん、インフレ率が反転上昇すればFedはさらなる利上げをしてもおかしくありません。

 

Fedがまた利上げすれば、実質金利が上がって金価格が低下すると思われるかもしれません。でも私はこうした状況にはもうならなくなると思っています。

 

米国の実質金利は、Fedが利上げ開始を強く示唆した昨年1月から現在にかけて、-0.7%程度から1.8%程度まで、2.5ポイント程度上昇してきました。

 

でも金先物価格は昨年1月には1オンス1800ドル程度でしたが、現在までに7.8%ほど上昇して1940ドル程度あります。実質金利は上がったのにドル建て金価格も上がっているのです。

 

画像ソース: MarcoMicro

 

昨年から今年にかけてのFedの利上げペースは、ボルカー議長のもとで政策金利が20%にまで引き上げられた1980~81年に次ぐペースでした。当時は金バブルのピークだったこともあり、その後金価格は暴落・長期低迷しました。

 

今回の利上げペースは過去と比較して凄まじいものだったのに、金価格が緩やかに上昇した事実は、実質金利上昇による金価格の下落効果はもうほぼ消えたと見て良いでしょう。

 

金価格と実質金利の連動が薄くなっているのは、もちろん新興国中央銀行が金準備を大量に購入したことによるものです。今後も新興国の中銀や消費者の金買いが続くことを考えると、利上げ再開による金価格の下落はあまり心配しなくて良さそうです。

 

 

むしろ、一回落ち着いたインフレ率が再び上昇することにより、市場は次第にFedのインフレ制御能力に疑問を持ってもおかしくありません。

 

こうした印象を市場が持てば、利上げを続けようがお構いなく、多くの人が不換紙幣を見限ってゴールドを選好するようになるのではないでしょうか。

 

また原油価格が値上がりすれば、金鉱会社の金生産コストは増えていきます。

 

金鉱会社の金生産コスト(AISC)は、賃金、燃料費、電力費の負担増加で上昇の一途を辿っています。原油価格の値上がりは、金鉱会社の産金意欲を下げます。

 

画像ソース: World Gold Council

 

金鉱の開発は長年控えられてきており、開発により生産量を急激に増やすことはまだまだ難しい状態です。

 

金鉱業界は細分化が進んでおり、小型事業者の生産割合が大きいことが特徴です。これら企業は大手企業に比べ財務が弱いので、エネルギー価格上昇や金利上昇によって開発はより難しくなります。

 

 

大手企業の金増産意欲はあまり大きくありません。バリックゴールドは2028年にかけて産金量が10%程度増える見通しですが、ニューモントの産金量はほぼ頭打ちです。両企業ともゴールドよりも銅の増産に力を入れたいと考えています。

 

要するに金需給はこれからますます、時間を掛けながらも逼迫していきそうなのです。

 

金価格は利上げと欧米投資家の売りにより、ゴールド・バグたちから見れば「不当に操作」されてきた印象は拭えませんでした。でもこうした「人為的な」金価格の抑え込みは、限界に達しようとしています。

 

長年堰き止められてきたダムが決壊すれば、それまで溜め込まれてきた水が一気に放出されます。ゴールドが似たような状況になることは、時間の問題だと思います。

 

 


許可なき複製、転送、転載、引用は禁じます。

一つの見方を示したもので、投資の成功を確約するものではありません。

Copyright (C) 2014-2023 資本主義社会で生き残るために
All Rights Reserved.