アボマガ No.59 60 61
2019/04/04 2019/04/09 2019/04/11
アボマガNo.48-53まで、原油とゴールドの記事を続けてきました。原油やゴールドと言えば、いずれもインフレに強いと言われる資産です。
私が原油やゴールドの記事を連続で配信したのは、決して偶然ではありません。インフレリスクに対処する時間が決して長くはなく、早く対処したほうが良いと考えたためです。
金・金鉱株、エネルギー株を購入しておいたほうが良いとも話したので、アボマガ読者の多くの方はすでにある程度の購入はされているものと思います。当然ながら私は十分に購入済みです。
海外のニュースを見ていて気になったのは、今年の2月ごろからでしょうか、将来の高インフレ時代を予見させる報道が次々と出てきたんですね。
例えば私が購読しているEconomist誌では、ゴールド、シェールオイル、環境問題などの報道を目にしました。いずれもインフレと切っても切り離せない事柄です。
多くの人々が目にするニュースの中に高インフレを予見させる記事が出てきたということは、いままで以上に多くの投資家が将来の高インフレを察知して、それを見据えた投資を増やしてもおかしくないということです。
当メルマガでは以前より高インフレの可能性を話してきましたが、改めて、高インフレが現実的なシナリオの一つであることを示す根拠を、新たな情報や目線を交えながら書いていきます。
高インフレになってから対処しても遅いですし、誰も助けられませんから、いまこの限られた時間を十二分に生かして、将来の高インフレ対策を済ませてもらえればと思います。
まずは米国シェール企業の財務問題と、世界で進む環境保護の動きから、「エネルギーの一時的な供給不足→エネルギー価格上昇→高インフレ」というシナリオが見えることを話しましょう。
以前にも書いたと思いますが、エネルギーセクターは格付けの低い債券で資金調達をしてきたことが特徴です。今回は数字をお見せします。
ジャンク債市場の主要インデックスの一つであるメリルリンチのハイ・イールド社債指数によると、エネルギーセクターは米国ジャンク債市場の15%を占めており最も大きいです(MV=Market Value、市場価値)。
またエネルギーセクターのオプション調整後スプレッド(OAS)は522ベーシスポイント(5.22%)と最も大きく、ジャンク債のなかでも最も高リスクなセクターであることを意味します。
画像ソース: Fidelity
投資適格債券でも同じです。投資適格債券のなかで最も格付けの低いBBB格社債の業種別構成比をみると、エネルギーセクターが最も多く14%あります。BBB格のなかでも格付けの低いBBB-格では、さらにエネルギーセクターの占有率が大きくなり27%あります。
投資適格債券全体のエネルギーセクターの割合は11%にすぎませんから、いかにエネルギーセクターの資金調達がリスクの高いものかがわかります。
画像ソース: 日銀
現在、米国の発行済み投資適格社債の過半数(54%)がBBB格社債でその額は2.5兆ドルを超えます。エネルギーセクターは14%あるのですから、単純な掛け算でBBB格エネルギーセクター発行済み債券額は3500億ドル程度となります。
OECDによれば、2008年と同程度の金融ショックが起これば、1年以内に投資適格債券のうち2750億ドルがジャンク債になり下がる可能性があると指摘しています。金融機関発行の社債を含めれば、5000億ドルです。
ジャンク債市場の規模が一気に増えてしまうと、供給過剰になるのでジャンク債の金利が上がらざるを得ません。すると企業の資金調達が途端に難しくなり、エネルギーセクターの資金調達は以前とは比べ物にならないほど厳しくなるでしょう。
[2019/02/26 FT]OECD warns on risk of ‘fallen angels’ in swollen bond markets
画像ソース: Oaktree
さらに世界経済の減速が深刻化してエネルギー需要が落ち、一時的に原油価格の急落が起これば、米国エネルギー企業(つまりシェール企業)の破綻が本格化するでしょう。
しかしそれは米国シェールエネルギーの増産を妨げ、やがてはエネルギー価格の上昇や高インフレにつながる得ます。米国シェールエネルギーの供給が将来のエネルギー価格を左右する最大の要因であるです。
また意外なところが将来の米国シェール企業の資金繰りを厳しくするかもしれません。それはESG投資の台頭です。
ESG投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことです。企業経営者が短期的な利益を追い求め、環境汚染・労働問題・不祥事といった問題を引き起こしてきた過去を反省し、持続的成長を目指す上で、企業経営において非財務のESGにも目を向けるべきとの考えが普及したというのが一般的な意見です。
ただ実際のところは、環境・社会面で権限拡大をもくろむ国連やEU、リーマンショック後の厳しく不透明な運用環境に見舞われて持続的な利益獲得環境を求める機関投資家、年金問題を抱える財政的に苦しい各国政府の利害が一致したものと思われます。個人的意見です。
ESG投資には年々多くの機関投資家や格付け会社が賛同を表明しています。大手格付け会社はESGを格付けの判断に今後用いると表明しており、S&Pグローバルは2017年に環境や気候変動を理由に106の企業の格付けを変更しました(大半は格下げ)。
[2019/02/21 The Economist]Business and the effects of global warming
要するに、環境・社会・企業統治志向の高まりは、格付け会社による格下げという形で企業の存亡に関わりつつあるわけです。
ESG投資の本格普及はもう少し先になると考えられます。以下のような技術的・法的な問題があるためです。
ただ持続的成長が国際的にお題目のように唱えられている現在、ESG投資の本格化の流れは止まらず、2020年代のどこかにはESGを理由に財務基盤の弱い企業が処刑される可能性は無視できません。
エネルギーセクターは気候リスク(気候変動や周囲への環境汚染により生じるリスク)に最も弱い業種であると言われており、企業価値(EV、時価総額+純有利子負債)の4.5%程度を気候リスクにさらしているとの見積もりがあります。
画像ソース: Schroders
他方、エネルギーセクターは経営陣の環境への配慮が最も欠けるセクターでもあります。横軸は気候変動リスクの影響が残る予想期間、縦軸は企業の気候変動リスクに対する認識の大きさを示します。
エネルギーセクターは気候変動リスクが顕在化した場合の残存期間が最も長い業種ながら、経営陣の気候変動リスクへの意識が最低レベルにある業種でもあるのです。
シェール企業の多くは財務的に難のある中小企業で、シェールエネルギーの大量生産で生き残ることに必死で、ESGという世界の潮流に対応する時間や余裕はないでしょう。
ESG、とりわけ環境や気候変動への意識の高まりは、2020年代のエネルギー供給面で決して無視できないリスクとなります。
「[アボマガ No.49]見えない爆弾だらけの原油市場。目先にとらわれてはならぬ_2」でシェールエネルギーの生産が盛んな地域における水不足リスクについて触れました。
もし水不足リスクが顕在化して干ばつでも起ころうものなら、シェール企業に環境を破壊した罪が着せられ、エネルギー供給不足に拍車が掛かるかもしれません。
米国の為政者の立場でインフレについて考えてみましょう。
何事もそうですが、物事は常に相手の立場に立って考えることが大切です。政治等権力が絡む領域では特にそうです。
為政者の立場で考えるとは、カネや権力、保身といった利害損得で見ていくということです。「今だけ、カネだけ、自分だけ」の為政者が跳梁跋扈する現代において情の入る余地はありません。
また過激なシナリオも考える必要があります。為政者は窮地に陥れば戦争、資産接収、財産没収等の非人道的な過激な手段の行使も厭わないですから。
私は、米国の為政者は高インフレ状態をつくりだす方が得だと考えているのではないか?と思っています。
米国政府の立場では、まず実質政府負債を減らせること。これが米国政府にとっての高インフレのメリットですが、それだけではありません。
エネルギー輸出が加速する米国において、高インフレでエネルギー価格が上昇すれば米国の貿易赤字が大幅に減る可能性があります。
BPの最新のエネルギー予測の数字を使って計算すると、米国のエネルギー輸出による貿易赤字削減効果はかなり大きいものと考えられるのです。私個人のシミュレーション結果を示します。
BPの最新のエネルギー予測をみると、現在米国は3億石油換算トンの原油・ガスが輸入超の状態です。
しかし将来的には1億-3億石油換算トン程度の純輸出国となるようです。
つまり、最終的に米国は4億-6億石油換算トン程度、原油・ガス輸出が増え、この分だけ貿易赤字が縮小することになります。
なお、BPはエネルギー需要の拡大に懐疑的な立場であり、下の見通しにやや過小評価気味のバイアスが掛かっている可能性があることにはご注意ください。
画像ソース: BP
4億-6億石油換算トンをバレル換算すると、29億バレル~44億バレル程度純輸出が増えます。
これに1バレルあたりの原油価格を掛け算すれば、将来的に米国が原油・ガス輸出で追加で得られる毎年の流入額が求まります。
昨年の米国の貿易赤字は6210億ドルでした。
原油価格が1バレル50ドル~150ドルと変動したときにどの程度純輸出が増えるのか。6210億ドルという貿易赤字と比較してみてみましょう。
それはかなりのインパクトになりそうです。
1バレル50ドルだとしても、貿易赤字が現在より1466億-2200億ドル程度減ります。原油価格にもよりますが、2000億-3000億ドル程度は米国の貿易赤字は減りそうです。
仮に米国が6億石油換算トン純輸出を増やし、原油価格が1バレル150ドルになれば、米国は貿易黒字国になります。シェールエネルギーの増産が進み、かつ高インフレが続けば、可能性はゼロではないでしょう。
とはいえ、エネルギー輸出だけで米国が貿易黒字国になるのはやはり難しいかもしれません。
しかしあることと組み合わせれば相乗効果を得て貿易赤字をさらに縮小、場合によっては貿易黒字に転換できるかもしれません。
それはサウジアラビアをそそのかして、サウジが当事国となる中東での戦争を引き起こすことです。
米国は21世紀に入り今日まで武器輸出を増やし続けてきました。
下図はストックホルム国際平和研究所の調査による、米国の2000-2017年の武器輸出数の推移です(金額ではなく武器移転数です)。
米国は同時多発テロ以降、アフガン紛争、イラク戦争、シリア内線と主に中東を舞台とした戦争を引き起こしてきましたが、それと並行して武器輸出も増えてきました。
2014-18年にかけての米国武器輸出数の合計は、2008-13年の合計の29%増でした。
画像ソース: statista
国別の武器輸出シェアをみると、2008-12年は米国が3割、ロシアが2.5割超あり米国とロシアの差はあまり大きくありませんでした。
しかし以降は米国とロシアの武器輸出のシェアは差が開いてきました。2014-18年に米国はロシアよりも75%多く武器輸出を行い、国別シェアは36%に達しました。ロシアとの差の広がりも顕著となり、武器輸出での米国のプレゼンスがますます高まってきました。
画像ソース: BBC
2014-18年の米国武器輸出全体の52%は中東向けで、その多くはサウジアラビアです。現在サウジアラビアは世界最大の武器輸入国ですが、その供給元が米国です。
下図のように、ここ10年で米国のサウジ向け武器輸出量は突出しています。日本の4倍近くもあります。また米国はUAEやイラクにも武器輸出しており、中東が得意先であることがわかります。
画像ソース: statista
米国のサウジ向け武器輸出は2014年に大きく急増、その後トランプ政権が始まった2017年にまたもや急増しています。トランプ政権にとってサウジへの武器輸出が政策上非常に重要であることを示唆します。
画像ソース: statista
トランプ政権は海外駐留米軍を減らして軍事費を浮かせたいので、サウジアラビアに武器輸出して自分の身は自分で守れという立場です。
一方のサウジアラビアはこれまで軍事については米国におんぶにだっこ状態でしたが、イランやイエメンのフーシ派という近隣の敵対勢力が存在します。
2017-18年にはフーシ派がサウジの首都リヤドの空港などにミサイルを発射し、サウジ軍が迎撃したという報道もありました。サウジは自分の身は自分で守らないといつ攻め込まれてもおかしくない立場なのです。
どんなに財政的な苦難があろうが、武器を購入して軍事力を高めなければ国家の安全を確保できない状況にあるのがサウジ。米国にとってまたとない格好の取引相手です。
米国が外交的にサウジをそそのかして、中東の情勢が不安定化してサウジも軍事的な対応が迫られたら、米国にとっては次のようなメリットがあります。
米国は武器輸出とエネルギー輸出でますます優位になり、貿易赤字のさらなる縮小を望めるようになります。
上述のように、シェール原油・ガスの輸出だけでは米国が貿易赤字を解消するのは難しいでしょう。
しかし中東を利用して武器輸出拡大、エネルギ価格上昇、エネルギー輸出シェアの拡大という三拍子が揃えば...
サウジは財政的に非常に苦しいですが、追い打ちをかけるかのように、国際海事機関のルール変更で来年から海上輸送燃料における硫黄を多く含む燃料の需要が大幅に減るとみられています。
中東産の原油は硫黄成分を多く含むことが特徴で、サウジアラビアは特に顕著ですから、中東産原油の需要にも目に見える悪影響が出るおそれがあります。
実際、精製企業は硫黄をあまり含まない軽油の精製施設拡大を考えている流れにあるようです。シェールオイルがこうした性質を持つからですが、精製施設の設備投資が少なく済み、精製コストが減るというメリットがあります。
一方でこうした精製施設では重油や硫黄を多く含む原油を十分に精製できませんから、サウジ産の原油の精製には不向きでしょう。
上画像ソース: EIA→赤色の「high-sulfur fuel oil」に注目
下画像ソース: EIA→サウジ産の原油は相対的に「sour(硫黄分を多く含む)」のが特徴
将来、財政的に追い詰められ断末魔に陥ったサウジが、戦争という最終手段に出る可能性は着実に高まっていると思います。
トランプ政権が本当にサウジの戦争参入を企図しているかまではわかりません。またエネルギー輸出で十分米国の貿易収支が改善すれば、中東戦争を引き起こしてまで米国経済を立て直す必要はないでしょう。戦争はせず、安定的に武器輸出を続けるほうが米国政府や軍産にとってメリットが大きいでしょう。
すべては今後の展開次第であり、それを正確に予測することは不可能です。
ただ、エネルギーや武器の輸出で貿易収支を大きく改善している最中に、米国産業を復活させて雇用を生み、多少なりとも米国経済を立て直す。
数字をみるかぎり、トランプ政権がやれる経済政策はこれくらいしか私には思いつきません。
もしこの見方が狂人的思考だとお考えであれば、思い出してください。世界恐慌後の米国経済の立て直しはニューディール政策では不十分で、第二次世界大戦という戦争特需があってこそ達成された歴史的事実を。
以上、米国政府の立場から、高インフレがむしろ好都合であるとの見方を話しました。財政赤字の実質価値を減らすのみならず、エネルギー輸出や武器輸出で大きく儲けられるようになり得るからでした。
今度は米国の中央銀行であるFedの立場で考えてみましょう。
実はFedの立場でも、高インフレを容認したほうが都合が良いのではないかと個人的に考えています。
30年以上にわたる断続的な低金利政策の結果、短期金利が低くなりすぎてしまい、経済を浮揚させるに十分な低金利政策を行うことが難しくなりました。
かといって量的金融緩和政策やマイナス金利政策をしても、必ずしもインフレを喚起することができない、むしろ慢性的なデフレへとつながりかねないことを、日銀やECBが示してくれました。
このままではFedも日銀やECBと同じように、金融政策でデフレを解消することがより難しくなり、将来的にFedの政策目標である「インフレの安定」「雇用の最大化」のいずれも十分に達成できず、Fedの存続意義にも関わる問題に発展しかねません。
Fedはすでに詰んでいるのでしょうか?こういうときには歴史をひも解くことが一番です。
1970年代のFedの金融政策にヒントが隠されています。米国では石油ショックでインフレ率が上昇し、1974年には10%を超えるインフレ率と失業率の上昇というスタグフレーションに陥りました。
このとき、Fedは何をしたと思いますか?
それまでインフレ鎮静化のために政策金利を引き上げたFedでしたが、失業率の上昇を受けて、1974年から政策金利を翌年にかけて半分以下にまで引き下げました。
えぇ、「高インフレ期にFedは金融緩和政策を実施した」のです。インフレ鎮静化よりも景気回復を優先したのです。
不思議なことに、その後しばらくは失業率だけでなくインフレ率も下がりました。しかし約2年後の1976年にインフレ率が再び上昇し始めました。
このときは半年ほどで落ち着いたのですが、それは台風の目にすぎませんでした。1978年から本当の意味でインフレ率が上昇し始め、いくら利上げをしても効果なし。ポール・ボルカーが政策金利を最終的に20%まで上げるという強烈な金融引き締めを行い、1982年になってようやく高インフレは落ち着きました。
画像ソース: FRED
ここで重要な視点は、スタグフレーション時の利下げと、その後のボルカーによる、高インフレを鎮静化するための強烈な政策金利の引き上げがあったからこそ、その後30年以上にわたってFedが政策金利の操縦を通じて米国・世界経済をある程度コントロールできた事実です。
1970年代のFedの金融政策は失敗だったというのが通念となっています。バーナンキ氏もイエレン氏もインフレ高進は容認しない立場でした。
しかし彼らが何とか政策金利をコントロールできたのも、1970代後半-80年代はじめにかけての強烈な利上げによる貯金があったからこそではないでしょうか。
バーナンキ氏は大きく金利を引き下げる余地がありましたし、イエレン氏はちょうど利上げサイクルに在任期間が重なりました。要するに運よくババを引かずに済んだだけなのです。
しかしバーナンキ氏によるゼロ付近への金利の引き下げと、イエレン氏による慎重な利上げにより、金融緩和の余地をほとんどなくしてしまいました。またリーマン・ショック以降の彼らの在任中、米国はリーマン前ほどの力強い経済成長を示すことができなくなりました。
現在のFedの置かれた状況とFedの存在意義を踏まえれば、通念がどうだとか、そんなことを悠長に述べたり固執する余裕は現在のFedにほとんど存在しないのではないでしょうか。
良し悪しはともかく、1970年代にFedが金融政策を通じて引き起こしたとされる「高インフレが米国の政策金利を引き上げやすくし、その後のFedの金融政策手段を潤沢にさせた」ことは事実です。
多くの中央銀行とは異なり、Fedはインフレの安定だけでなく、雇用の最大化も政策目標の一つとなっています。世界恐慌で25%とも言われる失業率を記録した経験からです。
「雇用の最大化」を名目(言い訳)にして、一時的に高インフレを容認することは十分考えられることです。
3月のFOMC。Fedが世界経済の減速懸念を理由に、今年は利下げしない方向であることを示しました。昨年12月時点では2回の利上げを見込んでいましたが、たった3ヵ月で利上げなしの方向となりました。
また量的引き締め政策も9月に終了すると発表しました。
これらは市場予想を上回るハト派姿勢だと市場では受け止められ、市場の見方を一変させました。
それまでは市場関係者の大半は今年のFedの政策金利は変わらないとみていましたが、予想外にハト派的なFOMCを受けて、政策金利が不変だとの見方は激減しました。
変わって急増したのが「今年の利下げ予想」であり、実に市場関係者の7割程度が今年Fedが1回以上の利下げを行うと考えるようになりました。なかには3回の利下げ(0.75%の利下げ)を予想する市場関係者もいます。
3月のFOMCの声明文には以下の内容が含まれていました。
この言葉から簡単に、Fedにとっての優先事項は「景気の回復>インフレの安定」にあることが推察されます。
それ以上に重要なのは、Fedが今年10月以降「米国債の購入再開」を決定したことです。
[2019/03/21 日本経済新聞]FRB、19年は利上げゼロ 量的引き締めも9月終了
同時にFRBは保有資産の構成も入れ替える。現時点で2兆2千億ドルある米国債は、9月末で資産圧縮を完全に停止する。1兆6千億ドルあるMBSは10月以降も償還などで保有量が減るものの、減少分は米国債に再投資して、保有債券全体の量が減らないようにする。
「MBS(住宅ローン担保証券)を売って米国債を買う」わけですね。
これは、財政赤字の拡大を厭わずに経済政策最優先であるトランプ政権を支援することです。供給過剰が心配される米国債を買い支えるわけですから。
ここからも将来の景気回復を最優先するFedの姿勢が読み取れます。
※サウジの実権を握るのはムハンマド皇太子、通称「MBS」です。MBS(住宅ローン担保証券)の保有縮小継続とは「サウジの死」をも暗示するのでしょうか...?
もう一つ、今年2月のパウエル議長の議会証言を思い出してください。来年前半にFedが結論を公表する見通しである、Fedが現在着手中である政策の枠組みの見直しについてです。
[2019/02/27 ブルームバーグ]パウエルFRB議長に上院議員が厳しい警告-インフレ目標見直し巡り
過去40年間の低金利により、将来の不況下で政策金利が再びゼロに低下する可能性は高まっており、中央銀行が経済成長を刺激することはより困難になっている
「インフレ率が好況時にしか平均2%にならず不況下ではそれを下回る状況というのではなく、全般に平均して2%前後になるよう、2%のインフレ率目標を信頼できるものにする方法を当局は考えようとしている」
私には「高インフレの容認」以外には考えられないのですよね。「全般に平均して2%前後になるよう」と言っているわけですから。
以上の流れから、「トランプ政権と足並みをそろえて、高インフレを容認してでも景気回復を優先させるFed」のイメージが鮮明になりませんか?
金融政策手段を再び豊富にしたいというFedの立場と合わせて考えれば、自然な流れです。
米国政府、Fedが「高インフレ化」で一致し、その流れが強まりそうですね。
シェール業界の問題、ESG志向の流れ、そして米国政府やFedの状況。これらを総合すれば、高インフレ時代が本格到来してもおかしくありません。
近々やってくる可能性のある高インフレ時代に向けて、資産運用においてどのような考えをもっておくべきか。一つの行動指針を改めて述べたいと思います。個人的意見です。
個人的には次の2つの資産を分散的に保有しておくことが望ましいと考えます。これは「[アボマガ No.7]知ると知らずで大違い、配当再投資の隠れた特徴」にも書いたことです。
下図は1972-2016年における、各資産クラス+インフレ率同士の相関係数を表にしたものです。
インフレ率と各資産クラスとの相関係数を見てみると、ゴールドとコモディティがプラスでそれぞれ0.48、0.36です。ゴールドやコモディティは歴史的に、インフレ率が高い期間には価格が伸びやすい傾向にあることを意味します。
一方で米国株、米国債券、長期米国債、さらに以外にも米国不動産はインフレ率との相関係数がすべてマイナスです。インフレ率が上昇すると価格が下がりやすい傾向にあることを意味します。
最もひどいのが長期米国債で相関係数は-0.32です。長期米国債は満期まで名目金利が決まっていますから、インフレが進むと実質金利のマイナス化が止まらなくなってしまうわけです。投資の常識ですが、高インフレが迫っているときにインフレヘッジの掛かっていない国債には絶対に手を出してはいけません。
画像ソース: engineered portfolio
各資産クラスの実質リターンをもう少し詳しくみてみましょう。
下図は1972-90年の各資産クラスのリターンです。見たいのは水色で囲んだ部分で、左側は米国インフレ率、右側は各資産クラスの3年移動平均実質リターンを表します。
色分けは次を意味します。
1970年代-80年までを俯瞰すれば、ゴールドやコモディティ(特にゴールド)のリターンの大きさが目立ちます。また米国不動産も76年以降は安定感が出ています。
特にインフレ率が高かったのは1874年、79年、80年でいずれも米国のインフレ率が10%を超えました。このときはすべての年でゴールドのリターンが1位、コモディティが2位となっています。
一方でインフレ率が落ち着いた1982年以降を見ると、ゴールドはとコモディティは86年まで実質リターンがずーっとワースト1位、ワースト2位でした。特にゴールドはこの間すべて実質マイナスリターンです。
また1970年代でも最もインフレ率が低かった1976年はゴールド、コモディティは実質マイナスリターンで他の資産クラスにも負けています。
高インフレ期にはゴールドやコモディティ(特にゴールド)は非常に有効な資産でしたが、インフレが落ち着くといずれも非常に大きな損失を出しました。
画像ソース: engineered portfolio
さらに1980年代以降の20年移動平均での実質リターンを見た場合、ゴールドとコモディティはいずれもワースト1位、ワースト2位を仲良く続けてきました。
他方、株式と不動産は大半がナンバー1、ナンバー2を独占してきました。
画像ソース: engineered portfolio
視覚的にわかりやすいようにチャートで見てみると、1970年代の高インフレ時代にはゴールドは何倍もの実質リターンを出しましたが、株式、米国債、財務省短期証券はマイナスでした。
しかし1980年に入りゴールドは下がり、株式、株式、米国債、財務省短期証券は実質プラスリターンとなっていきました。
画像ソース: InvestorsFriend
インフレの進行状況によって各資産クラスの動きが真っ二つに分かれることがわかりました。
こうしたことから言える結論はこうです。
最初に述べたように、次の2つの資産をいずれも持っておくことが重要なのです。
前者にはゴールド、コモディティ、エネルギーなどが対応します。
では後者はなんでしょう?その答えの一つが株式の配当再投資ですね。
「[アボマガ No.7]知ると知らずで大違い、配当再投資の隠れた特徴」にも書いた通り、高インフレ期間中は配当再投資の格好の期間となります。
高インフレ期間中は株価が下がりやすくなり、配当利回りが高い状況が続きやすいためです。そのため、配当再投資をすれば株数が増えやすくなります。
ただ単にバイ・アンド・ホールドだけでは実質マイナスリターンでも、配当再投資して株数が増えればその分だけ実質リターンを補うことが可能です。
高インフレ期の株式の実質リターンは多少のマイナスは覚悟する必要がありますが、配当利回りの高い株やPERの小さなバリュー株を中心に購入すれば、たとえ高インフレ期でも配当再投資込みの実質リターンはプラスになる場合があります。1970年代ごろの高インフレ期はそうでした。
とはいえ、高インフレ期は目先の価格や実質リターンはあまり気にしすぎず、とにかく株式をせっせと配当再投資して株数を増やす。これだけに集中してください。
まともな事業を行う企業は、長期的にインフレの影響をすべてアウトプット価格に反映して、業績や支払い配当金でこれまでのインフレの悪影響をなくすことができます。
こうなれば株価も実質配当金も増えますが、株数が増えている分だけこれら増加にレバレッジが掛かるようになります。資産や受取配当金は一気に増えることでしょう。
赤丸は高インフレ期間。配当再投資すれば株数成長率が増えてインフレに負けない成長率を得られる。高インフレをすぎるとリターンは一気に増える
過去の株式の長期のチャートをみても、配当再投資の効果が最も大きくなるのはいかにマーケットが悲観的な状況で配当再投資できるかに掛かっています。このときに配当利回りの高いバリュー株を配当再投資し続けられるかが、皆さんの将来の資産状況を文字通り二分します。これは誇張表現ではなく、歴史的な事実です。
市場が苦しい時期に恐怖におびえて市場から逃げてしまうか?それとも市場が苦しい時期に逃げず配当再投資し続けられるか?これが皆さんの将来の資産状況を真っ二つに分けることになります。
何年にもわたり不安や恐怖に打ち勝つ忍耐力、精神力が、経済的自由という未来を掴むために必要不可欠ということです。
結局のところ、次のように投資していけば良いと思います。以前からの私の意見と全く変わりありません。
前者は資産価格上昇目当て、後者は短中期の資産価格上昇を目的とせず、長期での資産価格や受取配当金を最大限に高めるための投資であると考えてください。将来、前者の価格が上昇してポートフォリオに占める割合が増えすぎたら、一部売却して後者に振り分けていくことになるでしょう。
後者については、まだまだ今後バブルがはじけて大きくの銘柄でさらに価格が下落する余地があると思いますので、慌てず準備したり良い銘柄が見つかっても少しずつ仕込んでいけばよいと思います。
しかし前者は違います。今後はFedのハト派姿勢鮮明化もあり、インフレに強い資産が価格上昇しやすくなると思いますので、インフレに強い資産はもう早めに、遅くとも今年中には準備し終えたほうが良いと思います。
Fedのハト派姿勢はまだインフレに強い資産の価格に完全に織り込まれていないようです(特にゴールド、金鉱株含む)。ゴールドは高インフレだけでなく、その前に起こりうる世界経済の不況にも価格上昇が期待される資産です(エネルギー株や素材株と異なるところ)。サイクルの位置的に現在最も有望な資産クラスの一つでしょう。
優先順位を間違えず、短期でも長期でも資産を比較的安定して増やせるような状況をつくっておくことが大切だと思います。
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