国債買い戻し額倍増:ベッセント財務長官の危険な賭け

[2026/08/21 日本経済新聞]米、金利抑制へ強い意志 国債買い戻し倍増を発表

国債を市場から買い入れて消却する「バイバック」を倍の規模に拡大すると発表した。債券市場の需給が引き締まるとの見方から米金利は低下。日本など海外市場にも波及した。金融市場ではトランプ政権が金利上昇に警戒感を強めているとの見方が出ている。

[2026/08/20 日本経済新聞]米連邦政府債務、40兆ドル突破 金利上昇で利払い費が膨張

米財務省が19日発表した日次の財政データによると、米連邦政府の総債務は18日時点で初めて40兆ドル(約6320兆円)に達した。

ベッセント財務長官の国債買い戻しの上限倍増の発表は市場を驚かせたものの、その効果は一日で霧消しました。

このサプライズ発表で一時低下した米国の長期金利は、すでに発表前の水準を上回っています。

これはイラン戦争に端を発するエネルギー価格の上昇によりインフレ期待が高まっているだけではありません。

米国債よりも利回りの大きいAI関連社債が大量に発行され、債券投資家たちがこれら社債への投資を増やし、米国債の需要が減っています。

さらに戦争そのものやこの膠着が続く状況、連邦政府の財政状況から、米国への信認が低下し、これが金利を高めていると考えられます。

国債買い戻しについて、米財務省はFedと違い通貨発行権を持ちませんから、買い戻しの原資は税収または国債発行です。

連邦政府は財政赤字が止まっていませんから、短期国債を発行しこれを原資に長期国債を買い戻すことになるでしょう。

要するに国債買い戻しとは「長期国債と短期国債の交換」です。

近年、米国政府は長期金利の上昇が止まらなくなり利払い負担が増える中、少しでも金利の低い短期国債の発行を増やし、これへの依存を強めてきました。

発行済み国債に対する短期国債の割合は米国が先進諸国のなかでダントツのトップです。

長期国債を短期国債に置き換えることは、数年間支払利息を減らすことにはつながります。また長期国債の供給が減るので、長期金利に低下圧力が掛かります。

このまま長期金利の上昇が止まらなくなれば、米国連邦政府の財政悪化は止まらなくなり、破産も現実味を帯びてくる。

先月の日米協調介入にしろ今回の国債買い戻しの上限額倍増にしろ、ベッセント財務長官の危機感の表れ以外の何物でもありません。

米国の金利上昇は構造的です。小手先の操作でこれを手なずけることは容易ではありません。

期待に反し金利上昇がこれからも続く場合、むしろ償還までの期限が短くなることから、借り換えが頻発するようになり、その度に金利(支払利息)が増え、米国財政をより早く窮地に追い込む危険性があります。

あと数年のうちに、それこそトランプ大統領の職が切れる2029年1月までに金利の上昇を食い止めることが出来なければ、何らかの形での財政破綻が避けられなくなるかもしれません。

この発表後、米国長期金利はすぐに反発上昇したのに、金価格は1オンス4,600ドル台に、ビットコイン価格は1枚77,000ドル台にまで上昇しました。

今のところは長期金利の上昇を食い止めるどころか、米国財政が危機的状況であることを市場にアピールしただけの結果となっています。