先週、下の報道を受けて米国の大手製薬会社の株価は軒並み急騰した。
(以下、太字はアボカドまつりがつけたもの)
[2025/10/01 ブルームバーグ]ファイザー、薬価下げでトランプ氏と合意-医薬品関税は3年間免除
米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は30日、トランプ大統領が表明していた医薬品関税について、3年間の猶予を得たと明らかにした。米国内で販売する薬価を引き下げる合意の一環としている。
ファイザーは消費者に医薬品を直接販売するサイト「TrumpRx」を通じて、一部の医薬品を平均50%の値引き価格で提供する。これは政府が交渉した割引価格で米国民が処方薬を購入できるようにする取り組みだ。
今回の合意により、ファイザーにとっては2つの大きなリスクが解消されそうだ。まずはトランプ政権の薬価政策による一段の打撃を回避できる。また将来的に課される可能性があった医薬品関税からも保護される見通しだ。
また関税の適用除外を与える代わりに相手から見返りを引き出すというトランプ大統領の交渉スタイルが改めて浮き彫りになった。
関税猶予の発表を受けて、ファイザー株は一時6.5%上昇した。今年は前日までに10%下落しており、S&P500種株価指数の13%高を大きく下回っていた。
今回と同様の合意が今後も出てくる可能性がある。ラトニック商務長官は、大手製薬会社との協議を続けており、輸入医薬品が国家安全保障上の脅威となるかどうかを調べる通商拡大法232条の調査結果を保留していると示唆した。
長官は「これらの企業と話し合いを進めている間は、交渉の行方を見守る」と述べた。
トランプ氏は先週、米国に医薬品製造工場を建設しない限り、10月1日からブランドまたは特許取得済みの医薬品に100%の関税を課すと述べていた。だが、大統領と側近の発言からは、こうした警告が製薬メーカーから薬価引き下げを引き出すための交渉戦術だったことを示唆している。
「来週中に全てやって来る予定だ。我々は全社と合意を進めている。合意に至らなければ追加で5%、6%、7%、8%の関税を課すと伝えた」などとトランプ氏は述べた。
記事から、今週中にもファイザー以外の大手製薬会社も同じような合意に達するとみられる。
これまで製薬会社には大きく2つの政治リスクがあり、株価が押し下げられてきた。
1)医薬品関税で原材料コストが上昇し利益を押し下げることへの懸念。
2)トランプ政権が要求していた薬価引き下げの強制で、売上と利益を押し下げることへの懸念。
今回のトランプ政権とファイザーとの合意で、こうした懸念が払拭または不透明感が大きく和らいだことで、株価が急騰したのだ。
アボマガ・エッセンシャルではヘルスケア株を5つ紹介しているが、当然これらも急騰した。
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薬価引き下げに関しては引用した記事では説明が不十分なので、補足する必要がある。
1)TrumpRX
一つは記事に書かれているTrumpRxに関するものである。一言で言えば処方薬の薬価引き下げである。
TrumpRxとはトランプ政権が9月30日に発表した、政府運営のオンライン・プラットフォームのことだ。
製薬メーカーから直接(保険会社を介さずに)仕入れた処方薬が販売されることになる。
連邦政府が交渉した割引価格(40~85%程度の割引)で薬を入手可能になり、主に無保険者が恩恵を被る。2026年初頭に正式稼働予定である。
2)MFN価格
もう一つ、記事に書かれていない重要な合意内容がある。それは「今後上市するすべての新規革新的医薬品に”最恵国待遇価格(MFN価格)”を適用する」ことだ。
これは今回の合意の核心部分である。
MFN価格とは、製薬会社が米国以外の先進国(EU諸国、カナダ、英国など)で販売する各薬剤の最低価格のことである。20年11月にトランプ政権が発行した大統領令で初登場した概念だ。
今後米国で上市するすべての新薬は、MFN価格以下でなければならなくなる。
言い換えれば、海外で新薬を米国より50%割引で販売すれば、米国でも50%値引きすることが義務付けられる。
米国は世界の医薬品研究開発投資の約75%を負担しているにも関わらず、外国政府は価格統制で薬価を強制的に低く抑えてきた。
そのため製薬会社は巨額の研究開発費用を回収するために、米国での薬価を他国の2~3倍以上に設定してきた。
結果、米国の患者の医療費負担が増え、連邦政府は巨額の医療費支出で財政を長期的に悪化させてきた。
トランプはこの不公平を解消しようとしているのだ。
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今回の合意は米国の患者、連邦政府にとってプラスである。
患者(特に無保険の低所得層)は医薬品をより安く買えるようになる。連邦政府はメディケア、メディケイドといった医療・社会保障費を削減できる。10~30%程度削減出来る可能性があると言われている。
製薬会社の収益にどう作用するのかは現時点で分からない。米国での新薬の単価は下がるが、アクセスできる患者が増えるので出荷量は増えることになる。製薬会社のイメージも良くなる。
さらにMFN価格の導入で、製薬会社は先進国にこれまでのように安い価格での新薬提供を拒むようになり、海外からの収益が増える可能性がある。
トランプ政権とファイザーの合意内容について、詳しくはホワイトハウスが出したファクトシートを参照のこと。
★本日はアボマガ・エッセンシャルの配信日です。
特許切れ対策が地道に進展中
某製薬会社についてです。特許切れ後の収益低下懸念で株価が割安でしたが、優れた新薬開発能力でこの障害を打破できそうな道筋が見えてきました。
研究開発に関する独自の2つの取り組みにより、この製薬会社の新薬開発成功確率は業界全体と比較して1.5倍ほど高いという統計データがあります。
合計で20以上の新薬から、それぞれピーク時に50億ドルの売上を果たす、つまり単純な掛け算で1000億ドル以上の年間売上を得られるというのがアナリストたちの見立てです。