国内の金の店頭小売価格(税込み)が29日、初めて1グラム当たり2万円を超えた。1万円台に乗せた2023年8月末から約2年間で2倍になった。1月の第2次トランプ米政権発足以降、基軸通貨ドルへの信認低下が安全資産とされる金の購入を促し、価格上昇を加速させている。
29日の金価格は、1オンス=3800ドルを初めて突破し、過去最高値を更新した。米国の利下げ期待や政府機関の閉鎖の可能性が高まる中、安全資産の金に買いが集まった。
米財務省が保有する金準備の価値が29日、1兆ドル(約149兆円)を突破した。金が過去最高値を更新する中、政府のバランスシートに記載された金額の90倍以上に膨らんだ。
えっ、金価格ってそんなに値上がりしてたの?
そう思う日本人は意外に多いかもしれない。
新NISAが昨年に始まったこともあり、資産運用する日本人のほとんどはオルカンとS&P500、要は米国のハイテク株にばかり関心を集めてきた。
多くの人に盲点となってきたゴールドの値上がり率をS&P500と見比べて見よう。GLD(金ETF)とSPY(S&P500のETF)の数値を用いている(いずれもドル建て)。
・過去1年間:16%(S&P500) vs 43%(ゴールド)
・過去2年間:55% vs 104%
・過去5年間:99% vs 100%
・過去10年間:254% vs 225%
金価格はここ数年間にS&P500を大きくアウトパフォームしているだけではない。5年、10年という中長期のスパンで見ても、ゴールドはS&P500に引けを取らない値上がりを見せてきたのである。

金市場はここ数年の間にガラッと変わった。
2022年の途中まで、金価格は米国の実質金利と連動する傾向にあった。実質金利が下がれば金価格は上がり、実質金利が上がれば金価格は下がりやすかった。
これは金価格と米国債を同じ安全資産と見た場合、実質金利が上がると利息が増える分米国債の投資妙味が増し、実質金利が下がると保管料を考慮しても金価格の値上がりの方が旨味があったからだ。
ところが金価格と実質金利の関係は2022年の途中から崩壊した。実質金利の上昇・高止まりが続く中、金の値上がりが止まらなくなった。
2022年からの金強気相場は、中国と思われる国が巨額のゴールドを購入した事実が表に出たことを直接の契機に始まった。
また同年にウクライナ戦争が発生し、米国がロシアにドル建て資産凍結と国際送金ネットワークからの締め出しを決めたことを目の当たりにした新興国は、米国債からゴールドに準備資産の軸足を移す流れを加速させた。
米国、米ドル、米国債への信認低下。これが金強気相場をもたらしてきた根本的な要因である。
今年8月から再び金価格は値上がりしている。8月以降に起きたことは何か思い起こそう。
・トランプ政権がFedへの露骨な介入を始め、Fed支配に乗り出し始めた。
・トランプとプーチンがアラスカで会談し、米ロ協調体制という新世界秩序が始動した。
・上海協力機構のサミットでプーチン、習近平、モディが結束を示した。
・国連総会でトランプはこれまでのグローバリズム(1970~80年代から続いてきた旧世界秩序)を否定する演説を行った。
これらを見て「そりゃ金価格は上がるよな」と誰しも直感で思うはずだ。
トランプとゴールドとの関係を補足しておこう。かつてトランプは2015年の共和党大統領候補だった際にトランプは金本位制を「素晴らしいことだろう (It would be wonderful)」と言った。
これは、ドルが実質的な価値に裏打ちされていないことへの懸念を示し、その代替案として金本位制を肯定的に見ているという文脈で語られた。
トランプ政権がFed支配に乗り出し始めたことで、一部の人たちの間でトランプが本気で金本位制をやろうとしているのではないかとの期待がじわりと高まっている可能性は否めない。
トランプはゴールドが大好きだ。フロリダにある私邸「マールアラーゴ」は、宴会場の壁や天井の装飾、シャンデリアを始め、バスルーム、ダイニング、家具や調度品に至るまで、ゴールドでふんだんに覆われている。
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