Fed(FRB)利下げの裏で短期金融市場のストレスが増している

16~17日のFOMCでFedは市場の予想通り0.25%(25ベーシスポイント)の利下げを決めた。

ドットプロットの中央値は今年さらに2回の利下げ(50ベーシスポイントの利下げ)を示しており、株高の流れが今後も続くと思われる方も少なくないかもしれない。

ただ個人的に気になる点が2つある。

第1に、FOMCメンバーの内部対立が激しくなり、Fedの信頼性低下につながることへの懸念だ。

クーグラー前理事に替わって16日に理事に就任したステファン・ミラン氏は50ベーシスポイントの利下げを求め、今回のFOMCで唯一反対票を投じた。

トランプの指名を受けたミラン理事は筋金入りのドル安容認派だ。

昨年11月に発表した通称「ミラン論文」は、過大評価されたドルを是正することで、米国の製造業を再生し、対外不均衡を解消出来ると主張しており、トランプの関税政策の教科書とも言われている。

ドットプロットでは一人、年内に125ベーシスポイントの利下げを支持する人物がいるが、ミラン氏と考えて間違いない。

一方で年内に25ベーシスポイントの「利上げ」を支持する人物も一人いた。FOMCメンバーの意見の違いが目立ち始めている。

パウエル議長は今回の利下げを「リスク管理」のためだと言った。冷え込む労働市場への比重を大きくしつつも、インフレ率にも目を配り、利下げ前のめりでない姿勢を印象付けた。

今後の労働市場とインフレ率の推移によっては、FOMCメンバー内のハト派とタカ派の意見対立が激しくなり、Fedの今後の金融政策への不透明感が市場に伝わり、金融市場に悪い影響が現れる可能性がある。

Fedの内部対立が強まり組織の連帯が弱くなることは、Fedの独立性剥奪を狙うトランプにとって好都合だ。

第2に、「隠れQE」が完全に枯渇した中、短期金融市場のストレスが高まることへの懸念だ。

「隠れQE」とはリバースレポ残高の縮小のことである。

22年末に2.5兆ドル超のピークに達していたリバースレポ残高が今では0.01兆ドル程度となり、事実上枯渇した。

21~22年に米国政府が債務上限問題から短期国債の発行を制限したことで、運用に困ったマネー・マーケット・ファンド(MMF)がリバースレポに活路を見出したことが、リバースレポ残高の急騰につながった。

ところが23年以降、短期国債の発行が増えていったことから、MMFはリバースレポよりも高い金利収入を得られる短期国債に資金を戻していった。こうしてリバースレポ残高は枯渇に向かっていった。

リバースレポ残高の縮小により、市場に流動性が供給され、「隠れQE」の役割を果たしてきた。

しかしこれが尽きた。

Fedは利下げを決めたものの、QT(量的引き締め)に関する政策変更は特になく、これからもQTを通じて過剰流動性が市場から引き揚げられていく。

「隠れQE」がなくなったいま、QTによって過剰流動性が減っていくなかで短期マネーの供給に支障が生じ、金融市場に悪い影響が出てくることを一部の投資家は気にし始めている。

15日にはSOFR(担保付翌日物調達金利)が一時急騰した。これは短期金融市場のストレスが高まっていることを示すもので、19年のレポ金利急騰の再来を心配する声も出てきている。

ただ当時のレポ金利急騰を受けて、21年に常設レポファシリティ(SRF)という、Fedが金融機関に提供する常設の資金供給メカニズムが新設された。

そのため銀行の準備預金が減り始めて喫緊のマネー需要が発生しても、最悪FedのSRF利用窓口に駆け込めば良く、短期金融市場の混乱にまで至らないのではないかとの意見もある。

いずれにせよ、過剰流動性が着々と吸い上げられており、そろそろ金融市場に何かしらの反応が現れてもおかしくない状況にあることは確かなようだ。

短期金融市場が動揺し金融危機への不安が急速に高まると、トランプはFedが早期に速いペースの利下げをしなかったせいだと非難すると共に、自身の利下げ主張が正当だったとアピールでき、政治的にますます強くなる。

利下げに浮かれて足を掬われないよう、注意を払わなくてはならない。