オラクルの株価36%暴騰、「根拠なき熱狂」再来の号砲が鳴ったのか?

[2025/09/11 日本経済新聞]オラクル会長、マスク氏抜き世界一の富豪に 株価33年ぶり上昇幅

米オラクル創業者で会長のラリー・エリソン氏が10日、世界トップの富豪になった。米電気自動車(EV)テスラを率いるイーロン・マスク氏を抜いた。人工知能(AI)向けクラウド事業が急成長する見通しを示し、オラクルの株価が33年ぶりの上昇幅を記録した。

[2025/09/11 WSJ日本版]オラクルとオープンAI、クラウド契約締結 3000億ドル

米オープンAIは、企業向けソフトウエア大手オラクルから今後5年ほどで3000億ドル(約44兆2000億円)相当のコンピューティングパワー(計算能力)を購入する契約を結んだ。オープンAIの足元の売上高をはるかに超える巨額契約だ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

今回のクラウド契約はこれまでに締結された中でも最大級。AIデータセンターを巡り、バブルのリスクに懸念が高まっているにもかかわらず、支出がますます拡大していることを示した。

オラクルの株価が一日で36%暴騰した。これは根拠なき熱狂の再来を告げるものなのだろうか…

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根拠なき熱狂の特徴は、市場参加者が将来の成長や利益を過大評価し、根拠薄弱な「物語」に熱狂し、株価がファンダメンタルズから大きく乖離することにある。

昨日のオラクルの株価暴騰は、経営陣がパブリッククラウド事業のバラ色の売上見通しを発表し、市場がサプライズ的に反応・熱狂したためだ。

オラクル経営陣が発表したクラウド事業の売上見通しは以下である。
(25年度は今年5月までの一年間で確定、26年度以降が見通し)

・25年度:137億ドル
・26年度:180億ドル
・27年度:320億ドル
・28年度:730億ドル
・29年度:1,140億ドル
・30年度:1,440億ドル

5年間でクラウド事業からの売上は10.5倍になると言っている。

WSJの記事から、これはオープンAIからの超巨額受注によるものであることが分かる。

下図はクラウド部門が経営陣の見通し通りの売上を達成し、その他の部門の売上が26年度以降に変わらずと仮定した場合の、オラクル全体の売上見通しである。

もしこれが実現すれば、今後5年間で全社売上は6.5倍に増えることになる。

この売上増はオープンAIとの契約に基づくものだから、「物語」と一蹴するのは良くないかもしれない。

その一方で懸念もある。仮に経営陣の想定通りの売上を達成したとしても、事前にAIクラウドインフラ(データセンター)の構築に莫大な投資が必要になる。

AI対応のクラウドサービスを提供するためには、エヌビディアの超高価格なAIチップ、サーバーなどに巨額の支出を行い、データセンターを増設、増設、増設しまくらないといけない。

既にオラクルはデータセンター投資の急増で設備投資が2年間で6.5倍になっており、フリーキャッシュフローの流出が常態化している。

オープンAIからの支払いが発生する前に、もっともっと設備投資を増やしてデータセンターをこれでもか、これでもかと建てなければならない。

つまり今後何年もの間、オラクルのフリーキャッシュフロー流出は悪化の一途を辿ることが予想されるのだ。

フリーキャッシュフローの赤字が続くということは、負債に頼らなくてはならない。

データセンター設置のためだけではない。オラクルは配当を出しているからこれも借金で賄わなくてはならない。

オラクルの純負債は既に営業キャッシュフローの3.9倍あり、財務は決して健全ではない。その中で今後、巨額投資と配当で一時的に負債はとんでもなく増えることになる。

自社株買いをする余裕など全くない。現にオラクルは22年度まで数百億ドル規模の自社株買いをしてきたが、23年度以降に縮小し25年度は6億ドルにまで落ち込んだ。

データセンターを増やしても、電力インフラの新設が追い付かない懸念がある。高金利で電力会社の財務が芳しくないこともそうだが、電気機器メーカーが設備投資を減らしており機器が不足することを心配する声がある。

データセンターを増設したは良いが、電力不足で十分な計算能力を提供できず、オラクルの収益化が想定より遅れるリスクがあるわけだ。

オラクル経営陣はいますぐに配当支払いをやめなければならない。

収益化が遅れるリスクがある中で、今後何年も負債で設備投資の一部と配当全額を賄うことなど、高金利環境では自殺行為である。

キャッシュフローという事実やそれに基づく分析をすれば、オラクルはかなりのリスクを負っていることが分かる。

なのに市場は成長ストーリーに心酔し株価が暴騰した。これは根拠があろうとなかろうと、熱狂であることには違いない。

なおAI投資の拡大でフリーキャッシュフローを稼ぐ力が弱まるのはオラクルだけではない。

これはアマゾン、マイクロソフト、グーグル、メタ、すべてのクラウド事業者(ハイパースケーラー)が直面する「確定した未来」である。