[2025/06/26 日本経済新聞]株主還元、DOE採用や累進配当が増加 変化する方針の見方
お金の基礎知識を音声で学ぶ日経ポッドキャスト「マネーのとびら」。今回のテーマは「株主還元のトレンド」です。高配当株投資の人気が高まっていますが、中長期で安定した配当収入を得たい場合、今後も継続して配当が増える会社や、減らない会社を選ぶ必要があります。将来の方針を確認する上で重要なのが、各社が開示している株主還元の方針です。その読み解き方や注意点について、日本経済新聞の安田亜紀代が解説します。
株主還元の方針で代表的なのは「配当性向」の目安や目標値を示すもので、配当性向は1株当たり純利益に対する1株当たり配当金の割合で計算します。一方、最近増えているのが「株主資本配当率」(DOE)を採用する企業です。株主資本を分母とするため、配当性向に比べて変動が少なくなります。さらに、減配せず、基本的に増配していく方針である「累進配当」を掲げる企業も増えました。ただ、一見、積極的に見える還元には注意も必要です。期限付きになっているなど、持続性がないケースもあるためです。
私は配当重視の世界株投資を始めて12年目になります。
これまで米国企業を中心に数多くの世界の個別企業の配当政策や財務諸表、経営計画を見てきた者として、日本企業の「配当マーケティング」には辟易します。
減配せず、基本的に増配していくことなど米国の株主還元に積極的な企業であれば当たり前です。
「累進配当」などという人目を惹くスローガンなど掲げずに、黙々と20年、30年以上増配を続けてきた米国株は決して少なくありません。
「株主資本配当率」(DOE)というのは日本独自の配当政策だと思ってください。私はこれまでDOEを配当政策に掲げた海外企業を一社も見たことがありません。
DOEはふざけた配当政策だと思っています。
第1に、利益が増えてもそれに見合うだけの増配をしないことが正当化されます。
第2に、利益が減ったり赤字になった場合には約束を守るために企業は借金してでもDOE目標に沿う配当を支払わないといけません。
しかしこんなことは何年も続くはずがなく、やがてDOE目標は撤回され減配・無配の運命が待っています。
第3に、DOEは内部留保から配当を支払うという考えに基づいている、つまり利益・キャッシュフローは株主のものでなく会社のものであり、その分け前を株主にくれてやるという態度を内包しています。
DOEは「配当÷株主資本」で計算されますから。
世界的に内部留保は配当支払い後の利益と考えるのが常識です。国際会計基準(IFRS)や米国GAAPもこうした考えに基づいて内部留保を定義しています。
米国企業は利益(正確にはフリーキャッシュフロー)の伸びや配当性向に見合った増配で株主に報いてくれます。
非米国企業は配当性向に基づく配当政策を掲げるところが多いですが、収益が多く出た分だけ多くの配当を出すわけであり株主は納得できます。
配当をいくら出せるか、どの程度増配できるかは、企業がフリーキャッシュフローを稼ぐ力で決まります。
配当政策は経営陣の主張でありいつでも反故にできるものです。その企業が配当をきちんと出すだけの実力があるかどうかのチェックを怠らないことが投資家に求められます。
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