仮に「セクション899」が施行しても日米合算の税負担が変わらない場合がある

セクション899が成立し日本も対象になった場合に、米国における配当源泉徴収税率が引き上げられる可能性があることをこの前の記事で書きました。
→新NISAで米国株を運用するあなたも将来トランプ「報復税」の標的にされる?かも

このとき米国株・ETFを運用している人は増税となってしまうのでしょうか?

答えはケースバイケースです。各人の所得額や所得構成により、日米合算の税額が変わらない場合、増える場合があります。

これは外国税額控除をどれだけ受けられるかによって決まります。

この前の記事で外国税額控除についての記述が曖昧だったのでもう少しきちんと書きたいと思います。

(なお私は税の専門家ではなく、認識が誤っている場合がありますのでご注意ください。)

米国株・ETFなど外国証券から発生した配当や利子に対する外国からの源泉徴収には、一般に外国税額控除が使えます(ただしNISA口座で運用しているものに対しては使えません)。

控除できる税額には上限があります。「所得税率×(外国税額控除の計算における)国外での所得額」です。

ここで言う所得税率とは「日本での所得税額÷(外国税額控除の計算における)所得総額」のことです。

例えば所得総額(国外所得含む)が500万円、日本での所得税額が65万円の場合、所得税率は13%です。この場合、国外で源泉徴収された税率が13%以下なら全額控除できます。

前置きはここまで。国外からの所得がすべて米国からの配当だった場合、米国での配当源泉徴収税率は基本的に10%ですので一般に次のことが言えます。

・日本での所得税率が10%以上の人→米国での配当源泉徴収税額を完全に控除できる(配当源泉徴収税額の全額だけ日本での納税額が減る)

・日本での所得税率が10%未満の人(例えば5%の人)→米国での配当源泉徴収率10%のうち5%分を控除可能、残り5%分は控除できない(配当源泉徴収額の半分を控除でき、残り半分は控除できない)

日本での所得税率の大きさは所得の大きさによって決まります。そのため「所得の多い人ほど外国税額控除で完全に控除しやすい」ということです。

●セクション899で配当源泉徴収税率が上がった場合

今後配当源泉徴収税率が例えば15%になった場合はこうなります。

・日本での所得税率が15%以上の人→米国での配当源泉徴収税額を完全に控除できる

・日本での所得税率が15%未満の人(例えば5%の人)→米国での配当源泉徴収率15%のうち5%分を控除可能、残り10%分は控除できない

そのためセクション899による影響は直感的に言うとこうなります。

▼所得がとても多い人日米合算の税額は変わらない

▼所得がそこそこの人配当源泉徴収税率が上昇しても途中までは日米合算の税額は変わらないが、ある一定の水準を超えるとその分だけ追加で負担する

▼所得が少ない人配当源泉徴収税率が上昇した分だけ負担が増す

この場合、所得が非常に多い人には全く影響がありません。

配当源泉徴収税率があまりにも大きく引き上げられてしまえば、所得の非常に多い人もセクション899の影響を受けないとは限りません。

ただ日本の申告分離課税に対する税率は20.315%なので、少なくとも米国の配当源泉徴収税率がこの数字以下であれば、高所得者の日米合算の税額は増えません。

●キャピタルゲインの節税に使える

所得があまり多くない人でもセクション899の影響を相殺する手段があります。

それは外国株を売却してキャピタルゲインを得ることです。

外国税額控除の控除上限額は「所得税率×(外国税額控除の計算における)国外での所得額」でした。

国外キャピタルゲインを得れば、当然国外での所得額が増えます。

また日本では所得に関わらずキャピタルゲインに20.315%の税率が掛かります。そのため所得の少ない人でも日本での所得税率が高まります。

結果、外国税額控除の上限が大きく高まります。

他方、米国では一般にキャピタルゲインに源泉徴収しません。

そのため国外キャピタルゲインが大きいと「外国税額控除の上限>米国での源泉徴収額」となる事例が出てくるのです。

この場合、例えば外国税額控除の上限が10万円で配当源泉徴収額が6万円だとすると、差し引き4万円の控除枠が残ることになります。

外国税額控除には過去3年間に控除しきれなかった分だけ、将来控除枠が余ったときに取り崩して控除額を増やせる仕組みがあります。

過去3年間に合計4万円以上を控除しきれず繰り越していた場合、ここから4万円を取り崩して控除に充てる(=4万円だけ日本で支払う税額をさらに減らす)ことが出来ます。

所得がそこまで多くなく、(日本の税制に照らして)米国で余分に配当源泉徴収額を支払っている人でも、米国株・ETFのキャピタルゲインの節税に上手く使うことで、セクション899による増税の影響を和らげられます。

※長期投資の観点で言えば、株価が少し上がったくらいですぐに売却することは望ましくありません。

キャピタルゲインの節税そのものを目的とした売却はせず、再投資しながらほったらかしにした方が結果的に投資は上手くいきます。

●まとめ

・高所得者はセクション899についていまのところ気にする必要はありません。

・外国税額控除で完全に控除し切れない人でも、外国証券の売却で得たキャピタルゲインの節税という形でセクション899による負担増を軽減することができます。

米国企業は日本企業と比べ増配や自社株買いに以前より積極的であるだけでなく、こうした株主還元に必要なフリーキャッシュフローを安定して伸ばせる企業が多くあります。

米国の証券口座を開設すればDRIP(自動配当再投資制度)を利用することで、手数料無料で自動で勝手に配当再投資してくれるので、何年も口座にログインせずとも気が付いたら勝手に配当と資産が複利で増えていきます。

米国には長期の資産形成に向いた銘柄が多く、こうした仕組みが暗闘的に優れているのです。この利点はセクション899による税負担が仮に増えても尚余りあるものです。


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