本日は脱炭素に関する話題です。
2015年に採択されたパリ協定で世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるとの目標が掲げられ、その後各国は次々と2050年までに温室効果ガスの排出量を差引ゼロ(ネットゼロ)にすることを表明しました。
でも最近の報道を見ていると、旗振り役だった欧米は本当にネットゼロを達成しようとしているのかとても疑問です。
米国とEUは中国製の電気自動車にそれぞれ100%、45%の関税を掛けようとしています。米国は中国製のバッテリーと太陽光パネルにもそれぞれ25%、50%の関税を掛けるつもりです。
フォルクスワーゲンやトヨタは電気自動車の需要が減っていることを理由にEVの生産を縮小する方針で、GMは生産開始時期を延期することに象徴される通り、先進国のEV生産は大きな曲がり角に差し掛かっています。
再エネに関しては、送電網に接続できず、運転を開始できない「持ち腐れ」の太陽光・風力発電が加速度的に増え続けています。米欧だけで推計「原発約480基分」に相当します。
再エネの発電への投資が集中し、送電網への投資がないがしろにされているからです。このことは年初のIEAのレポートですでに指摘されていました。
比較的短期間で建設可能な再エネ発電設備と比べ、大規模な送電網整備は計画から完成までに10年以上かかります。許認可の煩雑さ、資材高騰、金利上昇も建設の遅延につながり、発電と送電のギャップが拡大していきました。
要するに欧米政府は脱炭素、脱炭素と声高に叫んでいただけで、これを実現するための具体的な計画を取り決めていなかったのです。
送電網がなければいくら発電しても無駄ですから、すでに送電網が出来上がっている火力発電への依存が高まるのは当然です。
再エネの場合、送電網の整備だけでは不十分です。発電が天候に依存するため不安定で、需要と供給のミスマッチが生じて発電の大半が無駄になってしまうためです。
再エネが普及するためには大容量蓄電池を大量に設置しなければなりません。電気自動車でも再エネでも、脱炭素社会を実現するカギはバッテリーです。
いまバッテリーを安く作れるのは中国しかありません。政府の大規模の財政支援のもとでバッテリーの原材料調達と製造のサプライチェーンを過剰なまでに作った結果、中国は安価にバッテリーを作れるようになりました。
中国企業を自国内に誘致しようとしても、サプライチェーンが不十分なので自国内で安く作れません。欧米政府にはカネがないので、中国のような大規模サプライチェーンを作り価格競争力を持つことは困難です。
欧米が本気でネットゼロを達成しようとするなら中国製のEVやバッテリーをどんどん輸入するしかないのです。
ところが欧米は中国からEVやバッテリーの輸入品に大幅な関税を掛けようとしています。
欧米はネットゼロのやる気がゼロなのではないかと疑いたくなります。