電力自由化はQEと並ぶアベノミクスの代表的インフレ政策となっている

近年、日本で毎年のように、夏と冬の電力需給逼迫懸念が叫ばれるようになりました。

電力需給、23年夏も逼迫懸念 東電管内の7月予備率3%
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA291HN0Z20C23A3000000/

2018年には北海道で胆振東部地震が起き、電力需給の急激な逼迫と電力系統の大混乱により、北海道全域で日本初の広域大停電(ブラックアウト)が起きました。

昨年3月には福島県沖の大地震で発電所が稼働停止となったなかで、季節外れの大寒波が襲い電力需給が急速に逼迫し、関東であわや広域大停電寸前にまで至りました。

実は近年の電力需給逼迫懸念の高まりが「アベノミクスの成果」であることをご存知でしょうか。

アベノミクスは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢で構成されます。いまでは「アベノミクス=日銀の量的緩和政策」という認識が一般的でしょう。

このうち3本目の矢である成長戦略に、小売・発電の電力自由化が含まれています。

電力自由化の方針が閣議決定されたのは、日銀が量的緩和政策の導入を決定した2日前の2013年4月2日のことでした。その後2016年に完全実施されました。

電力自由化の目的は、安定供給の確保、電気料金の抑制、需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大の3つでした。

では導入後どうなったのか。電力はコモディティですから、発電事業者は途端に価格競争に直面しました。

そこで費用を削減するために真っ先に採られたのが、不要な火力発電の休廃止でした。現在まで毎年200万~400万kWペースで火力発電所の休廃止が進められてきました。

その結果当然のことながら、電力需要のピークに対し、供給力にどの程度の余裕があるかを示す数値である電力の予備率はみるみるうちに低下していきました。

それは下図の、電力自由化が始まった2016年以降の東京電力や中国電力エリアの予備率の低下をみれば一目瞭然です。

短期の需要増加や供給トラブルを想定して、本来予備率は3%が電力安定確保の最低ラインですが、東京電力エリアでは真冬の予備率はほとんどないのが現状です。

東京をはじめとした関東では、アベノミクスのおかげで、いつ電力需給が逼迫し、計画停電となったり、最悪ブラックアウトになってもおかしくなくなっているのです。

画像ソース: 長周新聞

問題は予備率が大きく減少したことだけではありません。発電事業者は規制事業者と違い安定した顧客基盤を持ちませんから、無駄な在庫を抱えないために、燃料であるLNGの長期契約を減らし、スポット市場からの調達を増やしてきました。

現在のようにLNG需給が世界的に逼迫しているなかで、燃料コスト上昇による電気価格上昇はもちろん、調達がますます不安定になっていきます。

日本のLNG備蓄は2週間分しかありませんから、LNG需給逼迫や大寒波を日本が襲えば、2020年暮れ~21年初めに起こったように電力卸取引価格が25倍とかに暴騰し、市場連動型プランに契約する利用者は何倍もの電気料金を支払う羽目になります。規制料金契約者の電気料金ももちろん増えていきます。

故安倍晋三元首相は、量的緩和政策を10年も続け通貨インフレの芽を育んできたのみならず、電力自由化により電力供給を不安定にし、電気料金の値上がりと構造的な広域大停電リスクをもたらしてくれたのです。

安倍氏はいまも亡霊として、日本に絶対的な影響を与え続けており、8年間におよぶ2度目の首相在任中の「成果」をこれからも日本にもたらし続けることになるのです。

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