量的緩和再開はFed崩壊への道

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[2023/03/22 ブルームバーグ]FRBをインフレと銀行危機が挟撃-22日の政策決定に異例の不確実性

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる金融当局がインフレ抑制と銀行危機への対応に追われる状況にあって、22日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合の政策決定に金融界・経済界の全神経が注がれることになる。

21日に始まった今回の会合でどのような決定が下されるかは異例なほど不確実な情勢で、エコノミストの大多数が0.25ポイントの追加利上げを予想する一方で、金融の安定性を支えるために当局が利上げを一時停止すべきだとの声も上がっている。 
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市場にとってもFedにとっても異例のFOMCが始まっています。

高インフレを鎮めるには金融引き締めが必要ですが、それは金融機関の破綻の連鎖を生むことにつながります。かといって金融緩和に転換すれば高インフレに拍車をかけることになります。

高インフレと欧米の銀行の経営破綻の連鎖を止めることのどちらを選択しどちらを犠牲にするのか、Fedは究極の選択を迫られています。

市場は本日のFOMCで0.25%の利上げを想定しているので、今回大きなサプライズはないかもしれません。

しかし市場は6月以降にインフレは落ち着き、Fedは金融崩壊を防ぐために年末までに1.2%以上の利下げを行うと考えています。年内のどこかで市場は大きく動きそうです。
https://twitter.com/zerohedge/status/1635997167696355329/photo/1

Fedは銀行の連鎖倒産を防ぐために大量の資金を市場に供給し、先週Fedの総資産は2970億ドル増えました。現在実施している量的引き締め3か月分の資産がたった1週間で増えたことになり、量的引き締めは事実上一時停止し現在は事実上量的緩和が復活した状態です。

皆さんのなかには、このままなし崩し的にFedが量的緩和を続け、その結果市場は回復し、株価は上昇していくと思っていらっしゃるかもしれません。

でも果たしてそうでしょうか。

量的緩和に転換した場合、Fedは利下げと利上げの2つの選択肢を取れます。

利下げをした場合に起こることは簡単です。いずれFedが手を付けられないほどインフレが狂暴化するだけです。

では量的緩和を続ける中、利上げを行えば良いではないか。そうすればインフレを抑えつつ、金融システムの崩壊を防げるじゃないか。そう思われるかもしれません。

しかしこうなると銀行は大変です。量的緩和により長期金利が低下し、融資や有価証券投資の利回りが減少するなか、顧客の預金金利や短期金融市場からの調達金利が上昇し、収益は悪化し、逆ザヤになってしまいます。銀行は倒産ラッシュです。

銀行にとって、融資でもない、有価証券でもない、最後の運用先としてFedの当座預金があります。超過準備に掛かる金利はFedの政策金利に連動するので、利上げにより付利が増えて収入が増えます。逆ザヤ状態を防ぎ、銀行の経営者はホッと胸をなでおろせます。

でもこの付利を支払うのはFedです。銀行が量的緩和で溢れた資金をFedに預金すれば、「超過準備の拡大」と「それに掛かる金利の上昇」により、Fedは一瞬で純資産を遥かに上回る付利の支払いが発生します。

すでにFedは保有する国債や政府系証券の巨額の含み損で1兆ドル以上の実質債務超過状態ですが、あくまで含み損であり簿価会計では考慮されず、実際のキャッシュフローの流出を伴うものではありません。

でも付利の支払いによって生じる損失はきちんと計上されますし、実際のキャッシュフローの流出を伴います。Fedは正真正銘の債務超過に陥ることになります。

「量的緩和×利上げ」は、Fedにとって自爆以外の何物でもないのです。

債務超過を防ぐために預金準備率を大きく引上げ、超過準備に掛かる付利を減らしたりなくすことは可能ですが、そうすると運用先がなくなり逆ザヤとなった大量の銀行が倒産することになります。

残念ながら量的緩和を継続しても「インフレの暴走」または「銀行システムの崩壊(Fedの崩壊または銀行の大量倒産)」またはその両方が待っていることになります。量的緩和はすでに限界に達しているのです。

Fedは1970年代にインフレが収まらないうちに景気回復を優先して利下げを行い、その結果さらに酷いインフレを招くミスを2回もしており、これ以上の失敗は許されません。

Fedが抱える巨額の含み損を出している国債や政府系証券は、売らずに満期まで保有して償還していけば、時間は掛かりますが含み損を解消できます。

そう考えると、Fedは経営破綻した金融機関への支援を放棄してでも、これまで通り利上げと量的引き締めを両方とも続けるしかないのではないでしょうか。

これまで40~50年、グローバルエリートたちは市場原理主義のもとで世界経済・金融を運営してきたわけです。であれば、金融機関や企業の破綻も市場原理に任せるのが筋ではないでしょうか。