賃上げどころでない:円安、インフレを価格転嫁できなくなっている日本企業

最近、経済学者の野口悠紀雄氏の本を読んで知ったことがある。

日本では輸入物価が上昇すると、その上昇幅の10分の1ほどが、数か月の遅れをもって消費者物価に反映されるという経験則があるとのことだ。

つまり輸入価格が10%増加すると、数か月後に消費者物価が1%増えるということである。

ただこの経験則は、企業がエネルギーや原材料などの輸入品の価格上昇を製品価格に完全に転嫁できたからこそ成り立ってきた。

昨年の日本の輸入額はエネルギー・原材料価格高騰と円安により、過去最高の85兆円に達した。前年から25%近く伸びた。

この経験則に従えば消費者物価指数は2.5%ほど伸びていなければならない。しかし昨年の消費者物価指数の伸び率は1.99%にとどまった。

これは円安込みで輸入物価があまりにも急激に上昇しすぎてしまい、消費意欲もコロナで弱っていたことにより、価格転嫁が十分に追い付いていないことを意味する。

実際、昨年に企業物価指数は前年より9.7%も伸びており、消費者物価指数の伸び率より7.7%も大きいのだから、価格転嫁は進んでいない。

これまで日本企業は製造業の輸出額が増えるため円安が良いとされてきた。しかしこれは円安による輸入物価の上昇を価格に完全に転嫁できたからこそ言えたことである。

ここ20年ほど、日本企業の輸出数量は大きく変化していない。円安による輸入物価の上昇を価格に完全に転嫁できなくなれば、営業レバレッジの大きさと相まって、利益はみるみる減ってしまう状況にある。

法人企業統計を見ると、昨年10~12月期に日本企業(金融、保険除く)の売上は前年同期比6.1%増えたものの、営業利益は2.5%下がった。すでに売上増が物価上昇に追い付けず、利益が低下するという悪のスパイラルは始まっているのかもしれない。

追い打ちをかけるように、インドネシアなど世界各国が資源の輸出制限を導入し始めており、日本企業の費用増、収益圧迫圧力が強まり始めている。

こんな状況では、大企業ですら十分な賃上げは難しいだろう。その下請けである中小零細企業はなおさらだ。円安、インフレにより企業は生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされようとしている。賃上げどころの話ではないのだ。

今週、実質賃金に関して衝撃的な数字が出た。

1月実質賃金4.1%下落、物価上昇で8年8カ月ぶり減少幅=毎月勤労統計
https://jp.reuters.com/article/jan-real-wages-idJPKBN2V81P3

名目賃金を示す1月の現金給与総額は、前年比0.8%増にとどまったという。

日本企業の置かれた現状を考えると、こうした規模の実質賃金の低下は今後当たり前のようになっていくのではなかろうか。

給与とは別の、インフレに負けない収入源を作っておくことがいまほど大事な局面はない。

私は日本の将来への憂い、インフレへの危機感から20代で投資を始め、配当収入を複利で増やすことを目的に配当再投資を伴う長期投資を実行してきた。

投資した銘柄がデフォルトすることも含め多くの失敗を重ねてきたが、それでも配当収入や資産価値は着実に増え、身に付いた投資スキルは一生ものだ。早くから長期投資を始めておいて、本当によかったと思っている。

いずれにせよ、日本の置かれたあまりにもひどい現状から目を背けていられる猶予はもうないように思える。厳しい現実を直視し、目覚めなければならない。