進む中国と豪州の関係改善

小麦、豪産豊作で下落 ウクライナ侵攻前水準
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67775740Q3A120C2ENG000/

このニュースを見て気になったのは、小麦価格がウクライナ侵攻前水準に戻ったことではなく、中国が豪州から小麦を「爆買い」していることです。

この記事に書かれている通り、昨年に中国は豪州からの小麦輸入を大幅に増やしました。

昨年1~10月の中国の世界からの小麦輸入量787万トンのうち、豪州産は490万トン超と6割超に達しました。豪州産小麦の輸入量は前年同期の190万トンから2.5倍超へと急増しました。

中国と豪州の関係は2020年から悪化していました。

新型コロナウイルスの武漢起源説が世界中に渦巻く中、同年4月に当時の豪州のスコット・モリソン首相が、このウイルスの起源に関して独立の国際調査機関を設立して調査を開始するよう提言したことが、両国関係悪化のきっかけでした。

これを契機に、中国は豪州産ワインや大麦に対し反ダンピング措置を科したり、石炭の禁輸措置を導入し、通商関係が悪化していきました。

2021年、火力発電に用いる豪州産石炭の禁輸と旱魃による水力発電量の低下により、中国では電力不足に陥り、電気料金が高騰したり、各地で停電が相次ぐ自体に見舞われました。

このとき中国はインドネシア、ロシア、モンゴルからの石炭輸入を増やしたり、国内の石炭会社に増産を要請し販売価格制限を課すことで、何とかこの苦境を乗り切りました。

他方、豪州は中国への石炭輸出分をインド、日本、韓国に振り向けました。完全な代替には至らなかったものの、昨年のロシアのウクライナ侵攻で国際石炭価格が高騰したことで、石炭輸出収入は前年より3倍近くにまで増えました。

中国と豪州の関係悪化は中国に大きな打撃を与えたかに見えましたが、昨年5月の総選挙で関係悪化のきっかけをつくったモリソン氏が敗れ、親中のアンソニー・アルバネーゼ氏が勝利し首相に就任しました。

これをきっかけに両国の関係は徐々に良くなり、昨年末には中国とオーストラリア外相が会談し、今年に入り中国は豪州からの石炭禁輸措置を停止し、全面解禁ではないものの部分的に豪州産石炭輸入を再開しました。

中国の豪州との関係改善は、第3次習近平指導部が発足し、ゼロコロナ政策を撤廃した流れと並行しています。

COVID-19への関心が国際政治の面からみて薄れていくなかで、中国と豪州の関係改善が進んでいます。

ちなみに西側諸国と中国は、豪州やインド・太平洋地域をめぐって外交・安全保障の面から争ってきました。

中国は2015年以降、豪州の北東側を取り囲むように18以上の周辺諸国と国交を結んだり、安全保障を締結し、豪州にプレッシャーを与えてきました。

対して、中国と豪州が関係悪化していた最中の2021年に米英豪の軍事同盟的性格を帯びる「オーカス(AUKUS)」が発足し、日米豪印の「クワッド」と合わせて、インド・太平洋地域における西側諸国の対中包囲網が強化されました。

パンデミックの間に豪州をめぐる外交・安全保障関係は西側が有利に運んできましたが、こうした流れにも今後修正が入るかもしれません。