さよなら、パッシブ投資礼賛時代

年明けから2週間経過しましたが、今回は昨年のマーケットのパフォーマンスをを振り返りたいと思います。

40年続いた低金利時代が終了し、金融市場に地殻変動が起こり始めた

昨年は世界的に、高インフレを鎮静化するための「金融引き締め元年」となった歴史的な年となりました。

2021年よりロシア、ブラジル、メキシコ、トルコ、韓国など新興国の中央銀行はインフレ対策のためにいち早く利上げを行いました。

昨年はその流れに欧米の中央銀行が加わった形となり、下図の通り先進国・新興国問わず、ほとんどすべての国で利上げが行われました。

2000年以降の利上げサイクルでは、世界中が利上げを行う流れは数年かけて形成されていきました。しかし昨年はどの国も一斉に利上げをした点で異例の年となりました。それだけインフレが世界的現象だったということです。

各国が一斉に利上げしただけでなく、利上げ幅の大きさも異例でした。世界の平均国債利回りは昨年一年間だけで2.4%上昇しました。これは1985年以降で最大でした。

米国のFedは昨年に4.25%利上げしました。これは1980年代以降の利上げサイクルのなかで最も急激なものでした。

しかも報道などでほとんど触れられていませんが、今回の利上げサイクルでFedは毎月950億ドル規模で資産を縮小していることも忘れてはなりません。

昨年は、1980年代から続いてきた低金利時代が幕を下ろし、現代を生きる我々のほとんど全員が経験したことのないような「金融地殻変動」が明確に始まった年だとご認識ください。

金融市場は単純なもので、お金が沢山供給されれば金融価格は値上がりし、お金が引き上げられれば金融価格は値下がりするものです。

昨年の金融市場も、この法則が当てはまった年となりました。もちろん悪い意味で。

日経によれば、世界の株式・債券は、昨年一年間で時価総額を45兆ドル(およそ6000兆円)失いました。これは世界のGDPの47%に相当します。呆気にとられるくらいの巨額です。

このうち、米国の株式・債券市場では15兆ドルほどの時価総額を失いましたから、世界全体の1/3ほどに過ぎません。米国だけでなく世界的に金融市場が崩れたのが昨年でした。主要46市場のうち33カ国・地域で株価は下落しました。

世界株は19%下落しました。1974年以降で、リーマン危機のあった2008年にに次ぐ下落率となりました。

2008年に世界株は40%超下落し、31兆ドルもの時価総額が失われました。しかし当時は債券市場への資金退避が進み、同市場は安定していました。また当時は暗号通貨もありませんでした(昨年ビットコインは6割超下落しました)。

株式・債券・暗号通貨を合わせると、昨年に失われた時価総額の規模は2008年を上回るでしょう。

昨年の金融市場で最も目を引くのは、債券市場が歴史的な打撃を受けたことでしょう。

債券は株式に比べて、定期的に利子を受け取りながら元本の償還が原則保証されているため安全な資産とみなされ、相対的に小さなボラティリティで安定したリターンを得られると長年信じられてきました。

しかし昨年に米国債券は20%近いマイナスとなりました。これは1990年以来最悪のパフォーマンスのみならず、過去123年間で唯一10%を超える下落率を記録する年になりました。

1970年代の後半あたりから、最もリターンとリスクのバランスの取れたポートフォリオとして「米国株:米国債券=6:4」の株式60/債券40ポートフォリオが啓蒙され、もてはやされてきました。

株式60/債券40ポートフォリオはすべて株式のものと比較して、長期的なリターンは大きく劣りますが、ボラティリティが小さくなり、不況期でも資産価値が下がりにくく、パフォーマンスが安定しやすい点が評価されてきました。

1970年代から退職後を見据えた資産形成に取り組んできたベビーブーマーたちやその後の世代の多くは、60/40ポートフォリオの「安全神話」を信じて資産形成に勤しんできました。

しかしこの株式60/債券40ポートフォリオのリターンは、昨年になんと30%を超えるマイナスを記録しました。少なくとも1927年以降で最悪となりました。

過去に60/40ポートフォリオが10%を超えるマイナスリターンとなった年は1930-31年、37年、41年、73年、74年しかありません。いずれの年も以下のように経済・金融・軍事に関係する大きな出来事が起こった年です。

・1930-31年:世界恐慌と欧州金融危機が起こり、金本位制の崩壊が急速に進んだ

・1937年:米国で大恐慌以来の景気後退に見舞われた

・1941年:米国が第二次世界大戦(太平洋戦争)に参戦した

・1973-74年:原油をはじめとする商品価格高騰でンフレ率が3%台から12%超にまで急上昇し、同じ程度にFedが政策金利を引き上げた

そして上述の通り、昨年は各国が急速な金融引き締めを行う「金融地殻変動」が起こった年でした。ウクライナ侵攻も起こりました。

60/40ポートフォリオはその「安全神話」とは裏腹に、どうも想定外の悪い出来事に弱い特徴があるようです(原発に似てますね)。

株式60/債券40ポートフォリオがリスク・リターンの観点で優れているとする前提条件は2つあります。

・株式と債券は価格が反対方向に動く傾向のある逆相関の関係にあること

・株式・債券ともに長期的に価格が伸び続けること

1980年代からの40年間のように米国の政策金利は20%も低下しました。こうしたなかで、株式・債券とも長期的に価格は伸び続け、「高リスク高リターンの株式」と「低リスク低リターンの債券」という棲み分けも進み、特に金融危機時に債券にお金が流れていきました。

しかし過去40年間のように20%も金利が下がることは今後あり得ません。株式も債券も、金利が上昇すれば利回りは上昇し、どちらも価格は下がらざるを得ません。

60/40ポートフォリオは、世界の中央銀行が利下げを続けてきたからこそ有効性を維持できたものだと考えています。

前回の記事に書いた通り、高インフレが長期化するリスクは高く、Fedの金融引き締めが2024年以降も続くことは現実的です。

あと何年か経つと、昨年は60/40ポートフォリオの終わりの始まりにあたる年であったと振り返られるようになるかもしれません。

昨年の株式のパフォーマンスについてもう少し詳しくみていきましょう。

昨年は世界株が19%下落したわけですが、各国のパフォーマンスはどの程度だったのでしょうか。

下図は昨年1年間の米国(青線)、日本(緑線)、欧州(桃線)、中国(黄線)、中国除く新興国(水色線)のドル建て株価の推移です。

いずれの国・地域でも昨年は20%前後下落し、中国以外は基本的に概ね似たような値動きでした。

中国ではゼロコロナ政策と不動産市場の混乱への不透明感のために、他の国よりも不安定でボラティリティの大きい値動きでした。24.3%の下落率は主要の国・地域のなかで最も株価下落率が大きいものとなりました。

現地通貨建てで各国の株価推移を見てみると、光景は変わります。

米国(青線)、日本(緑線)、英国(桃線)、ドイツ(黄線)、中国(水色線)の現地通貨建てパフォーマンスをみると、最も悪いのは米国でした。

ドイツと中国は12%程度の下落率で、日本は2.9%の下落に過ぎませんでした。英国に至ってはややプラスのリターンとなりました。

ドル建ての各国・地域のパフォーマンスが似たり寄ったりの大幅な下落率だったにも関わらず、現地通貨建てでみると米国以外の下落率はそこまで大きくないのが昨年の世界の株式市場の特徴です。

このことから、ドル建ての株価を見て取引する欧米投資家の売りが昨年の株価下落を牽引したことがわかります。

また、米ドル1強の為替市場が、ドル建てと現地通貨建てのパフォーマンスの違いを生み出したことになります。

米ドル1強は、欧米投資家が海外の現地証券を売り、現地通貨を米ドルに交換したという巻き戻しが起きたことが大きな要因であることは間違いありません。

これは株式だけでなく債券にも当てはまります。ドル建ての世界の金融市場の時価総額がおそらく2008年を上回る過去最高を記録した背景に、Fedの急激な金融引き締めがもたらした米ドル1強が強く影響しているのです。

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2022年は、1980年代から続いてきた低金利時代が幕を下ろした節目の年となりました。

大衆投資家のポピュラーな資産形成手段であった、米国株に連動する投資信託・ETFへのパッシブ投資や株式60/債券40ポートフォリオは、いずれも低金利時代でしかその有用性を証明できていません。

今後も高インフレや金融引き締めが続いた場合、こうした投資手段で資産を築ける保証はなくなってしまったのです。

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