ウクライナより悲惨かもしれないパキスタンの現状

今回は、アボマガ・エッセンシャルの記事を書いているなかで、パキスタンの現状について調べる機会がありましたので、簡単に現状をお伝えしたいと思います。

パキスタンは2億2950万人を抱える世界で5番目に人口が多い途上国で、人口増が続く中で経済成長が期待されています。

しかし現在のパキスタンの状況は、ウクライナ以上に状況が悪いように見えます。

下図はパキスタンとウクライナの推移です。2020年10~12月の平均レートを100としており、数字が大きくなれば為替高、小さくなれば為替安を表します。

ウクライナでは、ここ1年9が月のあいだに対ドル為替が2割安くなりました。しかし同期間のパキスタンの対ドル為替は3割安と、戦場となっているウクライナよりも為替安が進んでいるのです。

ウクライナとパキスタンに共通するのは、電力インフラが不安定で広い地域で停電し、電気料金が高騰していることです。

ウクライナでは、ロシアがエネルギー施設をミサイル攻撃しているとして、首都キエフやオデッサ、リヴィウ、ビニツィア、ドニプロペトロフスクといった都市部を中心に停電が相次ぎ、本格的な冬を暖房なしで凌ぐことが強いられているとされます。

ゼレンスキー大統領は11月終わりに、ウクライナ国民のうち600万人が停電の影響を受けていると述べました。

しかしこれは人口の14%であり、人口の86%は停電がないか影響は限定的のようです。

戦争に関わる情報は虚実混在で、ウクライナ側はロシア側の蛮行を世界に知らしめるために、ウクライナの悲惨な状況を誇張して伝えがちなので注意が必要です。

他方、メディアで現状が報道されることのないパキスタンでは停電は日常茶飯事ですが、現在の電力不足は非常に深刻かつ構造的な大問題を抱えており、今後ますます電力不足がますます酷くなることが避けられないように見えます。

具体的に見ていきましょう。パキスタンは電源構成の半分以上が火力発電で、特にガス火力発電への依存が大きいことが特徴です。

ガス火力発電が主力なのは、パキスタンにはガス田がありそこから安価な天然ガスを生産できたためです。

しかし2010年代に入り、ガス田の埋蔵量が減ってきたことから生産量が落ちはじめ、2010年代後半からそのペースは加速しています。この傾向は今後も長期的に続くとみられます。

パキスタンは発電などに必要な天然ガスの不足分を今後LNGで補わなければなりませんが、今後その量はべらぼうに増えると見込まれます。

IEEFAの報告書によると、昨年度のパキスタンのLNG輸入額は25億ドルでしたが、2030年には320億ドルに増えるとのことです。9年で10倍以上も増えるのです。

LNG調達費用は、国内で天然ガスを生産するための費用の5~10倍かかるとされます。

しかも、ウクライナ侵攻で欧州の米国産LNG需要が急増し、現在欧州と東アジアでのLNG争奪戦が激化しています。

以前の安い価格で長期契約を結んでいたLNGサプライヤーは、LNG価格の高騰でデフォルトが相次ぎました。パキスタンと長期契約を結んでいたサプライヤーは、昨年1月以降、少なくとも11隻に相当する数の企業がデフォルトしました。

パキスタンは欧州や東アジアと競争しながら随意契約により高騰したLNGの調達を増やさざるを得なくなっており、財政が脆弱なパキスタンにとって非常に厳しい環境となっています。

すでにパキスタンはLNG輸入コストの増大により貿易赤字が拡大しています。しかも天然ガス不足による電気料金の高騰で、主要産業である繊維業の利益率が大幅に悪化し、生産を抑制せざるを得なくなっています。これにより繊維品の輸出額は2割減ってしまいました。

パキスタンの厳しい状況は電力不足やLNG価格高騰だけではありません。

食料について、パキスタンは主食である小麦の9割近くをロシアとウクライナからの輸入に頼ってきました。

ウクライナ侵攻の影響によりこれら2カ国からの小麦の供給は減っています。インドなど代替先を見つけようにも世界的に小麦在庫は減っており、今年世界を襲った旱魃が来年以降も続くようであれば、代替先を見つけるのはより困難になっていきます。

追い打ちをかけるように、今年パキスタン全土を洪水が襲いました。

4~5月の熱波で北部高山地帯の氷河が解けてインダス川の水量が増えたところにモンスーンがやってきて、例年の3倍ほどの大雨が3カ月以上にわたり続いたのです。

これによりパキスタンの国土の1/3、農地の大部分が水没しました。現在も水は完全に干いておらず、マラリア、腸チフス、デング熱等の感染症が蔓延しています。

トマトなどの基本食料品の価格が4倍になっただけでなく、水浸しになった農地が乾燥しなければ来年の作付けにも影響してきます。

洪水による被害は食料だけではありません。162の橋が被害を受け、2000マイル(約3200キロメートル)以上の道路が流されたと言われます。

被害額は最低でも400億ドルにのぼると言われます(当初100億ドルと言われていましたが4倍以上に修正されました)。これは年間GDPの10%を超えるものです。同国の再建には10年近くを要するとみられています。

パキスタンは、LNGをはじめ食料、資源の輸入額の増大と繊維業の輸出額の減少で貿易赤字が拡大し、資金が流出してきました。

今後もLNGの輸入額増大、食料輸入、インフラ再建のための資材輸入で資金流出は避けられず、インフラ再建のためにパキスタン政府の財政は悪化していくことになります。

パキスタン国民は、食料・ガソリン・公共料金の値上がりをはじめとしたインフレ、増税、洪水被害とそれによる感染症などの二次災害発生という、塗炭の苦しみを味わっています。

現在、パキスタン政府はIMFとサウジアラビアから財政支援を受け、中国に債務の減免を求めています。

ただあまりにも国家の状況は厳しく、明るい未来が全く見えません。そう遠くないうちに政府が債務不履行に陥ってもおかしくない、そう考えざるを得ません。

★日本は食料やLNG等のエネルギーを輸入に頼らざるを得ない点でパキスタンと似ています。

パキスタンほどではないにせよ、すでに日本でも食料、石油ガス、公共料金の値上がりで国民生活は苦しくなり始め、岸田政権・財務省は防衛費拡大の名目で将来の大増税を画策し、日本国民の生活困窮化を推し進めようとしています。

近年は日本でも台風の大型化や線状降水帯の頻繁な発生により洪水が起こりやすくなっていますし、大地震、津波、噴火・降灰によるインフラの崩壊やサプライチェーンの寸断リスクがあります。

先進国と途上国という違いはあるものの、対GDP比政府債務が230%ある日本にとって、パキスタンの惨状は決して他人事ではないのです。

★今回のアボマガ・エッセンシャルでは大きな変化があった新興国銘柄についてレビューしています。そのうちの一銘柄は今年8月から現在までのおよそ3カ月半で、株価は80%暴騰しました。

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