3期目を迎える習近平国家主席は、ゾンビ企業淘汰に踏み切るか

先週26日に投稿したブログ記事で次のように書きました。

[幣ブログ]米中で「経済的山火事」の準備が整いつつある?

中国では今月22日に閉幕した党大会で、これまでゼロコロナ政策と不動産市況悪化により冷え込んでいった景気を金融緩和や財政出動により下支えしてきた、李克強首相をはじめとした経済・金融の責任者が軒並み事実上の引退決定または降格となりました。

江沢民氏、朱鎔基氏は党大会に姿を見せず、胡錦涛氏は会場からつまみ出されました。改革開放路線を推し進め、鉄鋼・電力などの分野に既得権益を持つ習近平国家主席の政敵が軒並み力を失いました。

これらは、習近平氏が国家主席に就任してからの長年の悲願であった「ゾンビ企業淘汰」のための障害が取り除かれたことを暗示します。

中国ではパンデミック以降、経済の最高責任者である李克強首相のもとで、コロナで低迷した経済を下支えして再び成長軌道に乗せるために財政出動と金融緩和を積極的に進めてきました。

2020~22年にかけて、中国は毎年30~38兆元程度の景気刺激策を実施してきました。これは昨年のGDPの3割前後を占める非常に大規模なものです。

リーマンショック後に中国が実施した財政出動規模は4兆元で当時のGDPの12.5%でしたから、パンデミック以降、いかに巨額の景気刺激策を実施してきたかわかるものです。

李克強首相は胡錦涛元国家主席を輩出したエリート集団の共産主義青年団の元メンバーです。来年3月の全人代で次期首相に選ばれると目されていた汪洋氏と胡春華副首相もこの組織出身です。

おそらくどちらが首相になっても、李克強路線を継続し、引き続き市場重視の経済・金融政策をとり、成長を図ろうとしたと思われます。

しかし彼ら次期首相候補はみな名簿から外れ降格となりました。

共産主義青年団出身の重鎮である胡錦涛氏が、習近平氏の近衛兵とみられる人物らにより閉幕式から「つまみ出され」たことも話題になりました。

こうしたことから、今回の党大会で、習近平氏が権力基盤強化のための障害であった共産主義青年団の影響力を完全またはそれに近い形で排除したことが伺えます。

中国の経済分野の責任者である次期首相には、今回の党大会で序列2位となった上海市トップの李強氏が就任するとみられています。

李強氏は習近平氏の元部下で、今年4月の上海ロックダウンの責任者であり、不満を募らせた市民からクレームを直に受けながらも、習近平氏が推進するゼロコロナ政策を実行に移し上海を一時ゴーストタウンにした人物です。

経済を犠牲にすることも厭わない政策を平気に実行に移せるのが李強氏であり、そんな彼が来春から経済の責任者になるわけです。

李強氏とは正反対に、李克強首相は上海のロックダウンが6月1日に解除する少し前から、ゼロコロナ政策でなくウィズコロナ政策を推進し、経済成長とコロナ対策を両立しようとしていました。

習近平氏は国家主席に就任して以来、反腐敗運動を推進し、大衆の支持を得ながら少なくとも10万人の共産党員を処分し、国家主席の2期10年の制限を撤廃するなど、自身の権力集中を着々と進めてきました。

しかしそんな習近平氏がなかなか踏み切れずにいたのがゾンビ企業の淘汰でした。

ゾンビ企業が多い鉄鋼や石油、電力などの既得権益をもつ、江沢民元国家主席をはじめとする守旧派が猛烈に反対してきたためです。

ゾンビ企業が生き永らえたのは、政府や銀行が都度資金を供給してきたために他なりません。逆に言えば資金を得られなくなれば簡単に息の根を止められます。

習近平国家主席はかねてより、守旧派の市場重視の立場とは一線を画し、財政出動・金融緩和にあまり肯定的ではなかったとみられます。このスタンスは習近平氏にゾンビ企業を淘汰するという政治的目標があることを踏まえると十分納得できます。

これまで財政出動や金融緩和を抑制して、市中にマネーが流れにくくする政策は、守旧派からの反発によりなかなか踏み切れませんでした。

しかしパンデミックが起こり、習近平氏は三条紅線とゼロコロナ政策を実施し、不動産市場にカネを流させない、経済にカネが流れても生産・輸送・移動に直接制限を課すことで、財政出動・金融緩和があったなかでもゾンビ企業を弱体化させてきたと言えます。

そして今回の党大会で、江沢民氏、朱鎔基氏は党大会に出席せず、胡錦涛氏は「つまみ出され」、共産主義青年団出身者は軒並み排除されました。鄧小平の改革開放路線に乗って利権を握ってきた連中が一気に影響力を失ったと言えます。

昨年習近平氏が掲げたスローガン「共同富裕」は貧富の格差是正を意味します。経済格差是正の常套手段は、金融市場の暴落、累進課税強化、財産没収などにより、大金持ちの資産を一気に減らしてしまうことです。

政敵をほぼ完全に排除し、経済分野の権限を掌握した習近平氏は、ゾンビ企業淘汰というかねてからの目標を実現するための準備が遂に整ったと言えるでしょう。

あとは「意図的に自国経済を悪化させる」だけです。

中国経済は、GDPの2割以上を占める不動産セクターを破壊することで、いつでも簡単に悪くできる状態です。

以前にも書いたと思いますが、中国の銀行は中小の銀行を中心に、住宅ローンと不動産開発融資に大きく依存しています。

中国の人々の未竣工住宅への住宅ローン支払いボイコットの動きが収束せずむしろ強まるなかで、不動産業界が壊れていけば、中国の銀行システムは大混乱します。ゾンビ企業に資金が流れなくなり、簡単に淘汰できます。

中国の不動産業界は悪化の一途を辿っています。

恒大集団の債務不履行懸念が出始めた昨年8月以降、中国の販売前住宅の販売件数と不動産開発業者向け融資は急激に減りだし、現在も一年前から20%を上回る大きなマイナスとなっています。

マンションの引き渡しを懸念する住宅購入者が多くの民間デベロッパーを敬遠し、このことで販売がさらに悪化する悪循環に陥っています。

昨年、中国の不動産企業の40%超は利息・税払い前利益で利息を払えないゾンビ企業であり、20%超はすでに債務超過に陥っているようです。

不動産価格の低迷やこれによる資本調達費用の上昇が昨年来続いており、このままでは多くの不動産開発会社は存続困難になります。

今月、民間デベロッパーの旭輝控股集団が香港ドル建て転換社債の利払いを実行できず債務不履行に陥り、市場に衝撃を与えました。

旭輝控股集団の債務不履行が恒大集団と異なるのは、債務不履行の前月に政府から直接の金融支援を受けたにも関わらず、その1ヶ月後に呆気なくデフォルトしたことです。

中国の不動産業界の規模は、政府や国有銀行がお金を出して救えるようなレベルではありません。

今月、中国政府が不動産セクター支援におよそ5000億元を出すよう国有銀行に指示したとの報道が出ましたが、これは未完成の住宅を完成させるために必要な金額の25%程度にすぎないとみられています。

中国の不動産業界はもはや政府による崩壊の食い止めがきかなくなりつつあるのです。

旭輝控股集団の債券価格

不動産業界が崩壊の瀬戸際にあるなかで、ゼロコロナ政策は収束する兆しが見えません。9月2日時点で、事実上封鎖されている中国都市のGDP総額は、2021年初頭以降で最も高い35%に達しています。

依然として企業の経済活動は大分制限されているとみられ、ゾンビ企業にとって厳しい状況が続いているようです。

習近平氏が意図的に中国経済を悪化させるのであれば、そのタイミングは現時点から、これまでの政策担当者が交代となる来年3月の全人代までの期間となるでしょう。

この期間に景気が大きく悪化し不動産バブル崩壊が金融システムにも波及しようものなら、その責任を李克強首相はじめとしたこれまでの経済・金融担当者たちに押し付けられますから。

中国のクレジットインパルスの伸び率をみると、今年に入り急落し、いまでは武漢パンデミックのときを上回るマイナスとなっています。クレジットインパルスの悪化は9~12ヶ月後に経済に反映される傾向にあります。

現在~来年3月までに中国経済がガタガタになり、ゾンビ企業の粛清が始まるための準備は整っています。

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