米中で「経済的山火事」の準備が整いつつある?

リーマンショック以降、中央銀行の量的緩和・ゼロ(マイナス)金利政策により、資金調達が容易になり、収益性の悪い企業でも負債の借入・借り換えにより生き残れる環境が続いてきました。

2020年のコロナ危機で各国は世界恐慌期以来の不況に陥りましたが、量的緩和の再開と、助成金や無利子融資などによる財政出動の両輪で企業の破綻は防がれ、財務状況の悪い企業がますます蔓延るようになりました。

今後新たな金融ショックが起こり不況になれば、米国の中小零細企業の4~6割が赤字になり、資産5億ドル超の企業でも2割が赤字になるとの試算があります。

しかし現在は昨年までとは環境が180度転換しています。日本を除く世界の主要中央銀行はインフレ退治のために利上げや量的引き締めを開始し、収益性が乏しい負債まみれの企業の資金調達はどんどん厳しくなっています。

すでに先進国、新興国ともに融資基準が厳格となっており、銀行は貸さなくなってきています。

財政政策では、各国のコロナ支援が終了していっただけでなく、エネルギー・電力価格高騰対策、脱炭素といった特定の分野への支援を除き、世界的に増税し財政緊縮を進める方向に向かっています。

例えば米国では8月にインフレ抑制法案が成立し、大企業の会計上の利益に対し最低15%の課税、内国歳入庁による大企業・富裕層向けの徴税強化、自社株買いに1%の課税がかかるようになりました。今後法人税率を21%から28%に引き上げる案も検討されています。

英国では来年4月から大企業の法人税率が半世紀ぶりに引き上げ(19%→25%)となり、オランダでも法人所得税の軽減税率が来年初から15%から19%に引き上げとなるなど増税となります。

中国では今月22日に閉幕した党大会で、これまでゼロコロナ政策と不動産市況悪化により冷え込んでいった景気を金融緩和や財政出動により下支えしてきた、李克強首相をはじめとした経済・金融の責任者が軒並み事実上の引退決定または降格となりました。

江沢民氏、朱鎔基氏は党大会に姿を見せず、胡錦涛氏は会場からつまみ出されました。改革開放路線を推し進め、鉄鋼・電力などの分野に既得権益を持つ習近平国家主席の政敵が軒並み力を失いました。

これらは、習近平氏が国家主席に就任してからの長年の悲願であった「ゾンビ企業淘汰」のための障害が取り除かれたことを暗示します。

どうやら、世界の2大経済大国である米国と中国において、収益性の悪い借金まみれの企業根絶の準備が整いつつあるように見えます。

収益性・財務の悪い企業が排除されていく過程で不況となり、多くの失業者を生み、痛みを伴うことは間違いありません。

しかしこれはICT、電気自動車、再生可能エネルギー、農業をはじめとした将来性のある分野にヒト、モノ、カネという有限リソースを集中的に流し込み、再び経済を繁栄させるために避けては通れないプロセスです。

先進国を中心に人口が減少し始めたり伸び悩んでいるのですから、この「経済的山火事」の必要性は高まっています。

世界のあらゆる国で収益性・財務が酷い企業が蔓延っている昨今において、こうした企業の排除を早くから強力に進めた国ほど、その後の景気回復は早くなるでしょう。

逆にゾンビ企業排除を先送りし続け、現状を維持しようと執着すればするほど、長い期間にわたり国力は衰退し、早期の復活は難しくなぅていくでしょう。

量的緩和やマイナス金利政策を続ける日本は、いまのところ後者を選択しています。