COVID-19とは無関係に株高・高成長を果たした唯一の大手製薬会社アッヴィの行方

2022/02/28に配信した有料版記事[アボマガ No.202]の一部を編集したものです。
 
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アボマガでは大手製薬会社のアッヴィ(ABBV)を紹介しています。
 
アッヴィはアラガンの買収と新薬の好調な売上により、2020年から昨年9月まで前年比二けた成長を続けてきました。1株当たり配当金は2021年まで10%以上の伸びが続いてきました。
 
アッヴィの株価は2020年3月のコロナショックで一時60ドル台にまで落ち込み、その後値上がりしてきましたが、それでもまだ十分割安でした。
 
潮目が変わったのは昨年11月です。中央銀行の金融引き締めスタンスが強まりバリュー株選好の動きが強まるなか、高配当利回り・高成長のヘルスケア銘柄であるアッヴィの割安さにようやく市場が気が付きました。
 
このときから現在まで株価は30%値上がりしました。ここ2年間で60.8%の値上がりです。
 
製薬会社の株価はここ2年間あまり伸びてきませんでした。その中で大きく値上がりしたのはアッヴィ、ファイザー、イーライリリーです。
 
このうちファイザーの株高は完全にCOVID-19ワクチンの売上増によるものです。イーライリリーは糖尿病治療薬などの売上が好調ですが、COVID-19抗体治療薬エテセビマブとバムラニビマブの売上も無視できません。
 
アッヴィはCOVID-19と無関係に株価と業績が大きく伸びてきた、稀な大手製薬会社と言えます。
 
ファイザー、イーライリリーともに最近は株価が軟調であり、アッヴィはJNJに次ぐ時価総額を持つ製薬会社になれるかもしれません。
 

 
ちなみにアッヴィを紹介した2019年5月20日からのリターンは88.2%です。配当再投資込みのトータルリターンは116%に達しています。
 

 
今回アッヴィについて書いたのは、これまで買い推奨してきたなか、株価が大きく値上がりしたことで改めて投資判断したいと思ったためです。
 
アッヴィの業績について見てみましょう。
 
昨年第4四半期の売上は149億ドルで、四半期として過去最高を記録しました。しかし一年前からの売上の伸び率は7.42%と2年ぶりに10%を下回り、成長にやや陰りが見え始めました。
 

 
薬剤ごとの売上の伸び率を見ますと、成長が期待されるスキリージ、リンヴォック、ベネトクラクス、ボトックスは二けた成長を続けていますし、ヒュミラも米国で安定して売上を伸ばしています。
 
しかし一つ気になることがあります。慢性リンパ性白血病(CLL)治療薬のイムブルビカが減収に転じてしまったことです。
 
アッヴィ経営陣はイムブルビカ減収の要因として、CLL市場の回復が鈍いことと競争の2つをあげています。
 
CLL市場の回復の鈍さはCOVID-19パンデミックが関係しているようです。
 
CLL患者は免疫系が弱いため、新型コロナウイルスの感染・重症化リスクが高いのではないかと心配されています。CLLの治療を受けるとCOVID-19の死亡リスクを高めるとの懸念もあります。
 
ただ、情報を調べても研究は不十分であり、こうした懸念は事実に基づくものではなく憶測が強い印象を受けます。
 
CLL市場自体は、2027年にかけて毎年平均10%超で成長するとの予測があります。アッヴィ経営陣が示した。CLL市場の回復の鈍さや市場拡大に関してあまり心配しなくて良いようです。
 
問題は、市場ではなくイムブルビカの競争力が相対的に落ちている点にあります。
 
イムブルビカは2014年に登場した最初のBTK阻害剤であり、アッヴィは先行者利益を得てきました。
 
しかしイムブルビカのような第一世代のBTK阻害剤は心血管疾患による死亡リスクがやや高く、安全性についてやや問題視されてきました。
 
最近、有効性を維持したまま、心血管疾患リスクを抑えられる第2世代BTK阻害剤が登場しつつあります。
 
その一つは中国の製薬企業ベイジーンが開発したブルキンサです。ベイジーンが実施した比較試験によると、下図のようにイムブルビカと比較して投薬後の生存率が高いことが示されています。
 

 
ブルキンサはイムブルビカと同じ、1日1回のカプセル型飲み薬です。値段はややブルキンサの方が安いです。
 
下図のように、BTK阻害薬には多くの薬剤候補があり、CLL市場の競争が熾烈になることはほぼ間違いなさそうです。
 
第2世代BTK阻害薬が広まると、安全性に劣るイムブルビカは厳しい状況に置かれそうです。
 

 
アッヴィは第2世代BTK阻害薬としてベネトクラクスを上市しており30%超の成長をしているので、イムブルビカの逆風をある程度カバーできます。
 
アッヴィはイムブルビカとベネトクラクスの併用療法による適応拡大を目指しています。ただ、第2世代BTK阻害薬と比べて有効性・安全性で大きな優位点がなければ普及は難しいでしょう。
 
有効性・安全性に大した違いがなければ、投薬回数や金銭的負担が少なくて済む単剤治療を患者は選択しますから。
 
 
アッヴィ投資家にとって最大の焦点は、ヒュミラの特許が来年1月末に切れたあとにどれだけ収益悪化を食い止め、早いうちに再び増加に転じられるかどうかです。
 
これはアッヴィの株価はもとより、将来の配当支払いや配当成長に関わってきます。
 
イムブルビカの向かい風もある中、2024年まで収益が落ち込むことを最低限考えなければなりません。
 
アッヴィの他の不透明要因として、米FDAから安全性に関してブラックボックス警告を受けたリンヴォックが市場の期待通りの大きな売上をあげられるかどうかという心配もあります。これは上の粗雑な予測には含めていません。
 
ヒュミラ減収後のP/Eレシオは18倍程度あり、短中期の予想利益に基づいたバリュエーションは特段割安とは言えません。リンヴォックの売上が思ったより伸びなければ、配当成長率がもう少し落ち込む可能性も否定できません。
 

 
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いまはアッヴィよりも投資対象としてもっと優れたヘルスケア株があります。
 
目先の株価や財務諸表を見てもその良さに気づけませんが、実はすでに裏で高成長・高収益企業と化しています。市場はこのことに全く気付いていません。しかも数々のポジティブサプライズを控えています。
 
この銘柄を、今回のアボマガ・エッセンシャルの配信で扱っています。アボマガ・エッセンシャルにご登録されると、Webサービス経由で記事をご覧いただけます。